研究こぼれ話
Tweet2015年5月20日更新
漫画デスノートのクライマックス・シーンをポスドク風に改変しました
登場人物
■ラキ:ポスドクのまま素晴らしい論文を出し続けている研究者。彼の登場によってポスドクの地位があがり、ポスドクはPIにならずとも、ポスドクのまま自らのアイデアに基づいた研究が出来るようになった。そして、それによってアカデミア業界も明るくなってきた。
■アニー:捏造論文ハンター。パッとしない研究者だが、ネットでは有名人。
場面
“ポスドクの希望”として世間から持て囃されていたラキの論文は全てが捏造論文だった。その証拠を捏造論文ハンターのアニーが明らかにし、ラキに突きつけた。ラキは自らの捏造を認めつつも自分の行為の正当性を主張しはじめた。
ラキ「ふふ・・ふふふ・・そうだ、僕の論文は全て捏造だ!ならば、どうする!いつものようにネットで晒すか?」
アニー「(不敵な笑みを浮かべている)」
ラキ「いいか、僕はポスドクだ。しかし僕の発見、いやポスドクとしての僕は今や世界的に注目を浴びているんだ。
かつてアカデミア業界ではポスドクはワープアと呼ばれていた。そして、そんなポスドク達こそが腐ったアカデミア業界の秩序を守っていたのだ。それは事実だ。
しかし、もはやポスドクは底辺職ではない。大学院に進んだ人間が避けるべき職ではなくなったのだ。」
アニー「(静かにラキの主張を聞いている)」
ラキ「僕の捏造を明らかにする。それで本当にいいのか?僕の捏造を暴くことは、過去において正義だった事もあったかもしれない。しかし、今は明らかにそれは悪だ。僕の登場によってアカデミア業界の状況は良くなった。僕の捏造を2chに晒してネラーにでも褒められたいのか?
僕の捏造論文が初めて世に出て6年。ポスドクに対する世間の見る目は変わった。博士号を取得した研究者のほとんどがアカデミアに残り、ポスドクを奴隷のように使うPIの人数は7割減少した。
しかし、まだアカデミア業界は腐っている。腐ったPIが多過ぎる。・・・ならば、なくさなければならない。
ポスドクは幸せになる事を追及し、幸せになる権利がある。しかし、一部の腐ったPIの為に不意にいとも簡単にそれが途絶える。・・・不運なんかじゃない。腐ったPIがいる事による必然なんだ。
僕が捏造に手を染めた時、いや、その前から・・・アカデミア業界は堕ちる所まで堕ち、PI達は腐る所まで腐っていた!
突き詰めれば、ポスドクが幸せになるのに害のあるPIはいらない。いや、ポスドクがPIの下で働くという構造はいらないんだ。
悪は悪しか産まない。意地の悪いPIがポスドクから搾取し偉くなっていくのならば、弱い人間はそれを習い、自分も腐っていき、いつかはそれが正しいと自分を正当化する。
悪は・・・腐ったPIは・・・なくすしかない!
始めから救いのない様な悪は研究者にはならないだろう。しかし、研究者は決して聖人君子とは限らない。よって、腐ったPIを創ってしまうアカデミア業界の構造にメスを入れなければならない。
ポスドクはPIの奴隷ではない。ポスドクでも自らのアイデアに基づいた研究が出来るようになる。それだけでアカデミア業界は変わってくる。
そして、ポスドクは研究者として正しい生き方に気づき始める。幸せになる権利、それはポスドクにも平等にある。いや、なくてはならない。
幸せは、他の研究者を攻撃したり、陥れたり、ましてや搾取する事で得るものではない。互いの研究の邪魔をする事なく、互いの研究を尊重し、個々の幸せを求めていくのが研究者同士のあるべき姿。
アカデミア業界が変わってくれば、そこにいる研究者も変わってくる。新しくポスドクになる人間も増える。それでも変わらずポスドクを搾取するPIは研究者失格だ!
本来、PIは人間的にも最も優れた研究者として若い人たちの見本となって生きていかなければならない。・・・だが、ポスドクの上に立ったPIは堕落していった。
かつての腐ったアカデミア業界を、国や企業やマスコミが正すことができたか?むしろ彼らはポスドクの状況を悪化させ、その構造を硬直化させ、そして煽り続けた。
誰かがポスドクの地位を向上させなければならなかったんだ。捏造データを手にしたとき思った。僕がやるしかない。いや・・・僕にしかできない!
捏造をするのが悪いことなんてのはわかっている。しかし、もう、それでしかポスドクの地位を向上させることは出来ない。いつか、それは認められ正義の行いとなる。
捏造研究をしてでも僕が世間に注目されるしかない。これは僕に与えられた使命。自分はこの腐ったアカデミア業界を革(あらた)め、ポスドクの平和・研究者の理想の世界を創生するため選ばれた人間。
実験データを捏造する事で・・・他の者に出来たか?ここまでやれたか?この先できるか?捏造論文だけでアカデミア業界を正しい方向へ導けるか?
かつてのアカデミア業界には、私利私欲の為にしかポスドクを使えない、自分の出世・名声のことしか考えない愚かな、器の小さいPIしかいなかったじゃないか!
僕は捏造論文で自分がPIになってやろうなんて一度も考えたことはない。ポスドクに建前論を言って馬車馬のように働かせているPI達とは全く違う。そういうポスドクを搾取しているPIこそアカデミア業界の癌なんだ。
そうさ、僕にしかできない。新しいアカデミア業界を創れるのは、ポスドクが底辺職と見なされず自らの才能のまま研究に専念できるような世界を創れるのは、僕しかいない。
考えろ!また腐ったアカデミア業界に戻していいのか?ポスドクがラボ・スレイブとして搾取される状況に戻っていいのか?」
アニー「・・・(無言のままラキの主張を聞いている)」
ラキ「おまえにだってわかっているはずだ!PIには明らかに死んだ方がいい人間がいる。害虫は除去するのに、何故、害のあるPIを除去するのを悪とする!
ここで僕を潰していいのか?それが本当にアカデミア業界の為か?ここで僕の捏造をツイッターに晒してどうなる?ファボられたいだけじゃないのか?それはおまえのエゴでしかないんじゃないのか?」
アニー「・・・(無言のままラキの主張を聞いている)」
ラキ「正義厨というならば、それこそ最も愚かな行為だ。おまえが今、目の前にしているのはPIになれなかった万年ポスドクかもしれないが、同時に世間のポスドクの希望なんだ!」
アニー「いいえ、あなたは、ただの捏造研究者です。」
ラキ「!」
アニー「そして、あなたの業績欄には大量の捏造論文しかありません。」
ラキ「(アニーを睨んでいる)」
アニー「あなたが、もしまともな万年ポスドクだったなら、ふとした出来心から一度は捏造をしてしまったとしても、データをちょっと書き換えただけで理想的な美しい図が出来ることに驚き、恐れ、してしまった事を悔やみ、二度と捏造はしないでしょう。
極端な話・・・リバイス論文を通すために小さなデータの改竄をしてしまうポスドクの方が、まだ私は理解できますし、まともだとさえ思います。
しかし、あなたは捏造データの美しさに負け、ポスドクの希望になろうなどと勘違いをしているクレイジーな大量捏造犯です。研究者としての道を踏み外した、ただの落ちぶれた万年ポスドクです。」
ラキ「アニー、間違ってるのはおまえだ。もう僕が正義なんだ。」
アニー「そうかもしれませんね。何が正しい研究論文なのか、誰が優秀な研究者かなんて、誰にもわかりません。
もし大御所研究者のセミナーに出席して、そのラボの美しい実験データに基づく魅力的なストーリーを示されても私は一考し、そのデータや結論が正しいか正しくないかは自分で決めます。私もあなたと同じです。」
ラキ「!?」
アニー「自分が正しいと思う事を信じ正義とする。あなたは決してポスドクの希望ではないし、あなたが全ての研究者の生きる道を示し、あなたの考える通りにアカデミア業界が変わっていく事は、平和でもなければ正義でもないと私は考えます。
そして、自分をポスドクの希望と言い、捏造論文を片っ端からCell/Nature/Scienceに出す事は、私の中では絶対に悪です。」
ラキ「・・・」
アニー「この記事を読んでいる読者がどう考え、何を正しい、正義と考えるか、ネットでの反応を待ちましょう」
ラキ「(リツイートが欲しいだけのRT乞食め・・・)」
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執筆者:デスノートがあったらボスの名前を書き込んでしまうであろうポスドク