研究者インタビュー



2015年05月8日更新

大阪医科大学 小野富三人 教授

大阪医科大学・生理学教室に新しくラボを立ち上げられた小野富三人先生にお話を伺いました。小野先生は海外研究生活が長く、米国国立衛生研究所(NIH)ではActing Chiefとしてご活躍されていました。昨年の6月から NIH と日本のラボを行き来しながら研究をされていましたが、今年4月からは大阪医科大学に研究の場を完全に移され、さらに意欲的にご研究に取り組まれていらっしゃいます。先生には、海外生活を振り返って思うことや、久しぶりの日本での生活について、今後の研究の抱負などを伺いました。

近年、日本からの海外留学者の数は減少する傾向にあります。少子化の影響もあるのかもしれませんが、興味はあるけれど自信がない、海外留学することにメリットがあるのか、というような声も耳にします。 異なる環境の中で(主に)英語でコミュニケーションをとりながら研究を進めることは、多くの場合ストレスになり、辛いことも少なくないと思います。そのような人生経験は、自分の将来にとってメリットになりえませんか?

これから海外留学を考えていらっしゃる方、チャンスがあるのに躊躇されている方にはぜひ、先生からのメッセージを受け止めて頂きたいです。小野先生のお言葉が、あなたの背中を押してくださるかもしれません。


Q. 小野先生のこれまでのご研究内容を教えてください。

大学院のときから一貫して神経系に興味をもち、生理学的な手法や分子生物学的な手法をもちいて研究を行ってきました。1998年にポスドクとしてニューヨーク州立大学に留学したときにゼブラフィッシュという小型の熱帯魚に出会い、それ以来ずっと実験系としてもちいています。

その際に解析したのが、神経が筋肉に対して運動の指令を伝達する連絡点、これを神経筋接合部といいますが、そこに異常があるために生涯一度も体を動かすことのできない魚でした。その魚はアセチルコリン受容体とよばれる蛋白質に突然変異をもつためにそのような異常を示すことがわかりました。この変異体やその他の遺伝子改変動物をモデルに、神経と筋肉、または神経と神経同士の情報伝達の場であるシナプスを中心に研究を行っています。

その他にも、2014年から大阪医科大学に研究の場を移したのを機に、新しいスタッフも加わってくれたので、彼らの専門分野や強みを生かし、また臨床も含めた他の教室との共同研究をとおして、新しい分野にも積極的に挑戦していきたいと思っています。


大阪医科大学のスタッフとの写真


Q. 先生は長く海外でご研究されていらっしゃいましたが、日本に帰国されてからどのようなことが思い出されますか?

1998年にポスドクとしてニューヨーク州立大学に留学、2003年にフロリダ大学でAssistant Professorとして独立、そして2007年にラボをNIHに移しました。足掛け17年という、留学と呼ぶには長過ぎた期間をアメリカで暮らしましたので、それぞれの場所やポジションに思い出があり、研究でも、子育てを含めた生活でも、語り始めるときりがないものはあります。ただ、振り返ってみて、自分の人生はこれ以外の形はなかったようにも思えるし、楽しい思いをさせてもらったなあと思います。


ノースキャロライナ州の鉄道博物館にて。バックは鉄道路線のコントロールシステム。


Q. 久しぶりの日本での生活はいかがですか?アメリカ滞在中に、日本に帰ったらこれがしたい、と思っていらっしゃったことはありますか?

17年ぶりの日本での生活なので、見るもの聞くものなんでも興味深く、今のところ和風の生活全般が趣味といえます。具体的には、関西の風土、寺社訪問、郷土史も含めた歴史から、スーパーの食材や居酒屋、レストランの食べ歩きにいたるまで、日々興味は尽きません。

アメリカにいる間に日本人はみんな司馬遼太郎のファンになるという話がありますが、私も司馬さんの街道を行くシリーズや柳田國男の遠野物語など、日本に関する本を繰り返し読んでは、いつか行こうとあれこれ思いえがいていました。そういう意味では、アメリカでさんざん予習してきた題材を今一つ一つ確認していっている途中と言えるかもしれません。

体を動かすことでいえば、アメリカにいるときは子供たちと一緒によくテニスに行っていましたが、日本ではなかなか無料で使えるコートがないので、ぼちぼち場所の開拓からやっていこうと思っています。あと、まだ実行できていないのですが、アメリカではほとんどできなかった山登りもあちこち行ってみたいです。


Q. 日本でラボを立ち上げられ、新しいメンバーも加わり、ますますご研究に弾みがついたことと思われますが、先生の今後の研究の抱負を教えてください。

現在のポジションが医科大学でのものなので、教育と研究の両方でやりたいことがあります。アメリカにいる間、とくにNIHで働いている間は(大学ではないので)学生に教える機会は多くはありませんでした。学生に教えてみて、大変といえば大変なのですが、とてもやりがいがあって楽しい仕事だと感じています。学生諸君の将来進むコースは多岐にわたり、直接研究にたずさわる人は多くはないかもしれませんが、臨床に進む人たちも含めて、何かの形でポジティブな影響が与えられたら嬉しいですね。


スタッフとのディスカッションの様子

研究についていえば、これも医科大なので臨床にフィードバックできるような成果を出せたり、大きな発見ができればもちろん嬉しいです。ただ、これはアメリカで私の師匠が言っていたことですが、キャリアの終わりに“自分は何々を見つけました”と一つのセンテンスでいえるような、そんな仕事を目指すべきだ、という言葉が頭に残っています。インパクトファクターや論文数などを無視しては研究するのは難しい時流ですが、そういう視点をもって研究を続けていていけたらいいなあと思っています。


大阪医科大学での研究室の様子


Q. 貴重なお話をありがとうございました。最後に、若手研究者へのメッセージをお願いします。

最近とくに若い人が留学してこなくなっている、という話をNIHなどでもよく聞いていたのですが、一度きりの人生なので冒険してみてほしい、と若い人たちには言いたいです。日本の科学技術は米国に劣るものではなく、昔とちがって、技術を学ぶという面では留学によってそんなに得るものはないかもしれません。それでも新しい環境で、世界中から集まった人たちと日々ふれあいながら、日本では想像もしなかったやり方で仕事を進めてみることは、一生の財産です。苦労することも含めて、それが自分の人生を豊かなものにしてくれると思います。


(インタビュー:今清水真理)

小野富三人教授 
 大阪医科大学 医学部 生命科学講座 生理学教室
 https://www.osaka-med.ac.jp/deps/ph2/

旧所属)NIH, NIAAA Laboratories, Laboratory of Molecular Physiology
 http://www.niaaa.nih.gov/research/niaaa-intramural-program/niaaa-laboratories/laboratory-molecular-physiology/lmp-section-0

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