研究者インタビュー



2015年06月01日更新

ジョンズ・ホプキンス大学 井上尊生 准教授

ジョンズ・ホプキンス大学でご活躍中の井上尊生准教授にお話を伺いました。井上先生は、細胞生物学の分野に著しく貢献した若手研究者として、2014年に R.R. Bensley Award を受賞されました。

細胞内のシグナル伝達は、限られた分子により時空間的に制御された中で迅速かつダイナミックに展開し、その結果として多様な細胞機能を生み出します。先生の研究室ではその精巧なプロセスを”signaling paradox” とよび、その解明に取り組んでいらっしゃいます。先生はこれまで、いくつかの細胞機能のメカニズムを解明するために新しい実験系を開発され、また、細胞機能の一部の再構築を試みてこられました。そうした多角的なアプローチから得られた結果を集約して、将来的には人口細胞を創出するという大きな目標を掲げていらっしゃいます。

先日訪れたメリーランド州のあるイベントの一角で、小・中学生らしきアメリカ人の子供達が、参加者に折り紙を教えていました。日本文化を紹介するイベントではなかったので、折り紙がここまで浸透したのかと感慨深いものがありました。話を聞けば、ボルチモアの学校で日本文化を学んでいるとのこと、また、ボルチモア市と川崎市が姉妹都市の関係にあり、交流があることを知りました。井上先生の研究室がある場所はメリーランド州のボルチモア市で、川崎市と同じく港がある都市です。インタビューの中で、先生はボルチモア市と川崎市の姉妹都市委員としても活動されていると知り、いつかの折り紙のことを思い出しました。毎年ボルチモア市内の大学において、日本文化を紹介するイベントが開催されます。いつかその一角に、研究交流の場やサイエンスコーナーができることを期待しております。


Q. 井上先生は現在どのようなご研究をされていますか?

細胞走化性や細胞貪食といった動的で複雑な細胞機能を、分子センサーや分子アクチュエーターを開発・適用することで理解するとともに、これらの機能をボトムアップに再構築することも目指しています。そのための技術開発も行っています。再構築の過程で得られた知識やその産物を集約することで、生体内の病原細胞や病原分子を探索、捕獲、分解できるような人工細胞の創出を目指しています。


Q. 現在のご所属先を選んだ理由を教えてください。

2007年に独立ポジションを探していたときに、米国とスイスにある6つの研究機関を訪問しましたが、その中でジョンズ・ホプキンス大学で行われている研究がもっとも印象に残ったからです。


Q. アメリカでの研究生活の中で、思い出に残っていることや忘れられないことはありますか?

博士研究員として2003年に海外に出てから11年が経ちました。その間に結婚をし、子供が二人産まれたことはもちろん一番の思い出です。2008年には主任研究員として独立できたことも、今思えば人生の転換期として感慨深いものです。

そして3年前には父が亡くなりました。亡くなる前に健康状態の悪化の知らせを受け、急いで日本に帰りました。その道中、飛行機はたしかアメリカン航空だったと思うのですが、シカゴで乗り継ぎのときに、ぎりぎりJAL便に乗り継げることに気が付きました。事情をJALの社員に伝えたところ、特別に飛行機に乗せてくれました。そのおかげで病床の父と一早く会えたことをよく覚えています。家族と離れて海外に住むというのは、犠牲と好意の上に成り立っていることを認識しました。


Q. これまでの研究活動で苦労したことや辛かったことは何ですか?

辛かったことといえば、最初は仲の良かった同僚の博士研究員があるときを境に、話も挨拶もしなくなったことでしょうか。僕のふとした言動が理由だと推測していますが、仲直りする機会もなくそのままになってしまったのは残念に思っています。また研究室の技術補佐員が次の職が決まったとたんに仕事を怠けるようになり、その対応に苦労しました。ほかには論文のオーサーシップで何度か苦労をしました。その度にできるだけ直接当事者と真摯に話し合うことを心がけました。

研究上の悩み事は仲の良い同僚に相談に乗ってもらいます。たとえばゴルフ仲間などですね。ゴルフをしながら合間にコツを聞いたりしています。


Q. ゴルフの他に、研究以外で興味のあることや趣味などありましたら教えてください。

家の近くに空手道場が引っ越してきたのと、最近あまり運動できていないという危機感から、空手を始めました。実兄が剣道の達人ということもあり、武道はどちらかというと避けてきたので、自分が空手をするのは少し不自然に感じました。

しかし、畳の上に正座する、先生の指示に従う、気合を入れるなどの行為を久しぶりに経験して、新鮮な気持ちを味わっています。また心身ともに強くなっていくのを実感できるのは、とても心地良いことです。そして空手は相手と戦うだけでなく、型があること、また型の世界大会があること、そしてそこでは日本人女性が世界チャンピオンであることを知りました。日本人が、特に女性が世界一であるという事実はどの分野であっても喜ばしいことで、大きな勇気をもらっています。


Q. 長くアメリカで生活をされていると、日本にいた時とは違った視点で日本を見ることがあると思いますが、日本に一時帰国された時に感じたことや、驚いたことなどはありますか?

日本に一時帰国するたびに「カタカナの氾濫」に驚かされます。昔ながらの日本語の美しさを再認識し、漢字とひらがなの世界に回帰してほしいと願っています。僕自身もできるだけカタカナ言葉を使わないようにしています。


Q. 貴重なお話をありがとうございました。最後に、先生の将来の夢をお聞かせください。

ジョンズ・ホプキンス大学のあるボルチモア市と、僕の生まれ育った川崎市が姉妹都市であることから、姉妹都市委員として二都市間の文化交流を促進する慈善活動をしています。こうした交流がいつか研究レベルでも達成できたらいいなと思っています。

またスティーブ・ジョブズはかつて予測不可能な点と点のつながりの重要性に言及しました。僕の空手の経験がいつかどこかで特色のある研究につながることを期待しています。


(インタビュー:今清水真理)

Takanari Inoue, Ph.D.
 Associate Professor
 Department of Cell Biology
 Johns Hopkins University School of Medicine
 http://pages.jh.edu/~inouelab/home.html

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