研究者インタビュー



2015年07月28日更新

ベス・イスラエル・メディカルセンター 小林進 助教授

今回は、Beth Israel Deaconess Medical Center(ベス・イスラエル・メディカルセンター)でラボを主催する小林進先生にお話を伺いました。世界有数の学術都市ボストンにあるハーバード大学は、Beth Israel Deaconess Medical Centerを初めとして多くの関連病院を持っています。Beth Israel Deaconess Medical Centerや、Brigham and Women's Hospital、Children's Hospitalなど、名だたる病院や研究所が林立しているのが、ボストン近郊のLongwoodというエリアです。

小林先生は日本で血液腫瘍内科医として臨床経験を積んだ後、Beth Israel Deaconess Medical Centerにポスドクとして赴任、その後、同研究所で独立され、がんにおける薬剤耐性のメカニズムを研究されています。節目節目での周りからのアドバイスがご自身の研究人生に大きく影響したという小林先生。周りの人からのアドバイスや働きかけにしっかりと耳を傾け、チャンスをつかむことの大切さを感じずにはいられません。


Q. 小林先生の研究室ではどのような研究をされているのでしょうか?

遺伝子変異によって引き起こされる癌化のメカニズム、特に変異によって恒常的に活性化されるキナーゼの役割に興味を持っています。最近のキナーゼ阻害剤の開発によって、慢性骨髄性白血病や非小細胞性肺癌などの患者さんの予後を改善することができるようになったのは大きな進歩ですが、その薬がまったく効かない、あるいは、はじめは効いていてもそのうち効かなくなってしまうケースもまだまだ多くあります。

例えば、上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor: EGFR)に感受性変異のある非小細胞性肺癌の患者さんは、EGFR阻害剤がたいへん良く効くのですが、ほぼ全員が2年以内に再発します。私たちはこうした患者さんの臨床検体の解析を通して、EGFRキナーゼ阻害剤に対する抵抗性変異(T790M)を発見しました。このT790Mの存在によって、EGFR阻害剤がEGFRの活性を抑えることができなくなります。私たちは、このような薬剤耐性はなぜ起こるのか、それをどのように克服したよいのかを日々考えています。



Q. 小林先生はなぜ研究者の道を選んだのでしょうか?

医学部を卒業し、将来は内科にすすもうと漠然と決めていました。その中でも、外科にはない領域ということで血液腫瘍内科に進みました。私が卒業した当時は白血病は今以上に治りにくい病気でした。自分の担当する患者さんが回復されれば大変うれしいのですが、そうでない場合のほうが多く、気が沈みがちな日々を送っていました。

そうした中で、研究留学を終えて帰国されたばかりの先生が新たに赴任されてこられました。その先生は、ご自身の留学生活や、研究の話などを一研修医の私にいろいろ話して下さいました。同じく医学研究者だった父の影響で、もともと医学研究には携わりたいと思っていましたが、この先生の影響もあってがんの研究をしようと決めました。


Q. 小林先生の研究室はBeth Israel Deaconess Medical Centerに所属していますが、そこを選んだ理由は何でしょうか?

大学院4年のとき、同じ研究室の先輩に留学先について相談したところ、現在私の所属するBeth Israel Deaconess Medical CenterのDaniel Tenen博士を紹介していただきました。2002年にポスドク研究者として渡米し、2009年に独立して現在に至っています。

最初は3年で帰国するつもりでしたので、もう13年もアメリカにいるという事実に我ながら驚いていますが、いまから考えると転機となったのはNIHのK99/R00というグラントが取れたことでした。このグラントは国籍の縛りがなく、若手研究者の独立を支援するという意図のものです。当時からボスは、グラントや論文を書く上でよい練習になるからとほぼ全員のポスドクに応募させていましたが、まさか自分が取れるとは思いもしませんでした。グラントがあたったとき、日本の大学院時代の恩師の先生に相談したところ、「流れには乗ってみなさい」とのアドバイスを頂き、もう少しアメリカで頑張ってみようと思いました。



Q. これまでの研究活動の中で苦労したこと・楽しかったこと・辛かったことは何ですか?

留学して最初の仕事は遺伝子改変マウスを2種類作ることでした。ボスは研究室でマウス作りのシステムを自前で立ち上げたかったようで、私が初めて挑戦してみることになりました。方法論的には確立していますが、最初からすべて立ち上げるとなると失敗の連続で、ノックインマウスの作成に一年以上かかり、しかも期待された表現形も現れず、大変落ち込みました。そんな私を哀れんでくれたのか、研究室に出入りしていた腫瘍内科医が一緒にやらないかと声をかけてくれました。彼との共同研究が、上記のT790Mの発見につながりました。このときは、大変興奮しながら日々実験をしていたことを覚えています。彼とは今でも公私にわたり仲良くさせてもらっています。


Q. 最後に若手研究者へのメッセージをお願いします

今思えば、いろいろな方々からの節目節目でのアドバイスが私のキャリア形成上重要な役割を占めてきたと思います。自分のやりたいことをあきらめないことももちろん大切だとは思いますが、よき師、先輩、同僚、後輩との出会いが、自分の進路を決定する大きな要因だったと思います。若手研究者の皆様には、人との出会いを大事にしながら研究に励んでいただければと思っています。


(インタビュー:シュランク奈津子)

Susumu Kobayashi, M.D., Ph.D.
 Assistant Professor
 Beth Isarel Deaconsee Medical Center / Harvard Medical school
 https://connects.catalyst.harvard.edu/profiles/display/Person/79844

ページトップへ戻る

Copyright(C) BioMedサーカス.com, All Rights Reserved.