研究者インタビュー



2015年10月05日更新

ブリティッシュコロンビア大学 水本公大 助教授

カナダのブリティッシュコロンビア大学(UBC)でご活躍中の水本公大先生にお話を伺いました。水本先生は2014年にHFSP Career Development Awardを受賞されました。HFSP(Human frontier science program)は日本が提唱した国際的な研究グラント組織で、生命科学分野の基礎研究や学際的研究を推進し、研究支援を行うものです。

水本先生が所属されているLife Sciences Instituteは、UBCのバンクーバーキャンパスにあります。バンクーバーの西端に位置するその広大なキャンパスは、周囲をパシフィック・スピリット・リージョナル・パークにぐるりと取り囲まれ、西側にビーチが望める、素晴らしい自然景観に恵まれています。バンクーバーは観光地として有名ですが、在住する日本人も多く、街で日本語を聞くことは珍しくありません。

日々研究に勤しみ、学位取得や次の就職先のことで頭がいっぱいになり、気づいたら眉間に皺をよせたまま毎日を過ごしている、そんなことはありませんか?たまには立ち止まって深呼吸し、研究以外の分野で活躍している自分を想像してみると、自分の新たな可能性に気づいたり、今の自分への良い刺激となって気分転換ができるかもしれません。


Q. 水本先生は現在どのようなご研究をされていますか?

個体発生時にどのようにして神経回路が形成されるのかを1神経、 シナプスのレベルで明らかにしようと、C. elegans(線虫)の運動神経をモデルにして遺伝学的解析を行っています。少し具体的には、隣り合う2つの運動神経が、どのような細胞間相互作用を介してお互いのシナプス形成領域を区分けしているのかを明らかにするために、それぞれの神経細胞を蛍光タンパク質で可視化し、シナプスパターン異常を示す変異体を単離、解析しています。神経細胞を使っているので、神経科学者のように振る舞っていますが、本当はパターン形成を中心とした発生生物学が好きな分野です。神経科学者のふりをするメリットはほぼない事に最近気づきました。将来は神経パターンの機能的な意義を明らかにすることで、本物の神経科学者になりたいです。


水本先生が所属されているLife Sciences Instituteの内部。
二階右側に先生の研究室がある。


Q. 現在のご所属先を選んだ理由は何でしょうか?

スタンフォード大学でポスドク研究員をして5年経った頃、ちょうど論文も出たし、ベイエリアでの生活費が貧乏ポスドクの給料でなんとかなるようなレベルではなくなってきた時期とも重なって、就職活動をしようという気になりました。探したのはPrincipal Investigator(PI:研究室主宰者ポジション)のみです。アメリカに来た頃はあまりPIになる事を意識していなかったどころか、海外で独立しようなんて全く考えていなかったのですが、ポスドク時代のボスの勧めもあって、自分もPIを目指すようになりました。

日米加で合計60箇所くらい応募して、結局カナダの2大学からオファーをいただいたのですが、UBCではない方の大学はインタビューに行ったときの気温が-25度くらいで、そこで生きていける自信がなかったので比較的温暖なバンクーバーにしました。というのは半分冗談で、UBCキャンパスに隣接するヌーディストビーチに惹かれた、という訳でもなく、私の研究室があるLife Sciences Instituteが、異なる学部の研究室が一緒に研究するオープンラボスタイルだった事が好印象でした。あとは日本に近い事や、バンクーバーに住んで みたかった、というのも少しだけあります。


水本先生のラボスペース。4つの研究室が共有している。


Q. これまでのご研究活動の中で楽しかったことや、辛かったことは何ですか?

日本にいる頃は、私は自分のことを心配性と思っていたのですが、実際は意外と楽天家だったようで、海外生活のいろんなハプニングも含めて研究生活を全体的に楽しんでいます。 スクリーニングで変異体が取れたときや、原因遺伝子の機能を明らかにできたときのようなワクワクを体験するために、毎日つまらない失敗を楽しく繰り返しています。今現在辛いのは、デスクワークが増えてしまったので実験をする時間が減ってしまった事でしょうか。その代わりに、学生さんたちの持ってくるデータに一喜一憂するという、新しい楽しみもできました。

海外研究生活で一番辛いことはやはりお金です。物価の高いベイエリアで貧乏ポスドクを6年した後に、これまた物価の高いバンクーバーに来てしまいました。奨学金の返済もまだまだ残っていますし、今後も当分貧乏の予定です。好きでやっているのだから、貧乏くらい我慢しろと内外でよく言われますが、来月の家賃を心配する生活からは脱出したいものです。あとは海外からだとなかなか帰省できず、親には申し訳なく思っています。


Q. 現在の研究業界についてどのように思われますか?

アカデミアに残るのは大変だと思います。 アメリカでも自分よりはるかに優秀な同僚たちがアカデミアを諦めて企業に就職しました。彼ら、彼女らは今の自分の倍以上のお給料をもらって、work-lifeバランスのとれた生活を楽しんでいます。平凡な業績の私がアカデミアポジションに就く事ができたのも、たまたまたくさん応募した中に、先方が欲しがっている人材に自分がピッタリ当てはまる大学があったというだけにすぎません。まだ テニュアトラックポジションですので、5年後にアカデミアを追い出される可能性が残されていますし、研究費が取れなければそれでおしまいです。

海外に出て行くメリット、デメリットもちらほらと耳にします。デメリットは日本とのコネクションが弱くなる事でしょうか。実際、コネなしで日本に帰るのは簡単ではないかもしれません。日本のポジションのほとんどは海外からの面接交通費も自腹ですし、出来レースのにおいがプンプンする公募も見かけます。一方で、就職の選択肢を増やすという意味では、応募できる大学や企業の数は多いほうがいいわけで、その意味では海外に打って出る価値はあると思います。


Q. これまでのご研究活動の中で楽しかったことや、辛かったことは何ですか?

アカデミアのキャリアパスセミナーなどに参加すると、凄まじい業績のキラキラした方々が「努力は報われる、未来は明るい」的なことをおっしゃるかもしれません。あるいはアカデミアを去った方がアカデミアのシステムに罵詈雑言を浴びせているかもしれません。キャリアパスは自分の経験に基づいた主観で話さざるをえないので、多分どの方の意見も正しくて、そして偏っているのだと思います。

結局のところ「よそはよそ、うちはうち」というお母さんあるあるが全てでなんじゃないかと思います。私の場合もスタンフォードに留学せずに日本でポスドクをしていれば、そもそも大学院に進まなければ、まったく違ったキャリアを進んでいたはずです。このインタビューも含めて「そういう人生もあるよね」と、たくさんある道の1つと軽く流して、肩肘張らずに自分の道を考えてみていただけたら思います。


キャンパスに隣接するWreck Beach (clothing optional beach、
いわゆるヌーディストビーチ)から眺めた夕日。


(インタビュー:今清水真理)

Kota Mizumoto, Ph.D.
 Assistant Professor
 The University of British Columbia
 http://www.zoology.ubc.ca/person/mizumoto
 http://lsi.ubc.ca

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