教授と僕の研究人生相談所



第71回(更新日:2017年3月27日)

教授だって人間さ 1ページ目/全2ページ

僕「教授、今日もよろしくお願いします」

教授「これをやるのも久しぶりだな」

僕「はい、前回から1ヶ月以上も経ってしまいました」

教授「そろそろ本当に読者から見放されるんじゃないか?」

僕「そんなことないですよ・・・と言いたいところなんですが、そうかもしれません」

教授「ん、どういう意味だ?」

僕「ここ最近はあんまり相談メールが来ないんです。相談してから教授のご回答をいただくまで数ヶ月以上もかかってしまうことが多いので、ある意味で当然なのですが・・・」

教授「まあ仕方ないな。相談をくれた人たちには悪いが、俺も本業があるんだ。君の連載にばかり時間を割くわけにはいかん。で、編集部は何て言ってるんだ?そろそろ本気で打ち切りを考えてるんじゃないか?」

僕「編集部の皆様は、教授がお忙しいのは充分に理解してくださっているようで、この連載の執筆ペースは完全に僕らに任せてくださっています」

教授「そうか。そういうことなら、君が辞めようと思うまでは付き合ってやるよ。でも、俺は本業を優先させるぞ。君の連載のために俺の老害ノホホンご機嫌生活が危機に陥るのは避けたいからな」

僕「老害ノホホンご機嫌生活・・・」

教授「君だって本業であるところの研究のことをもっと考えないといけないんじゃないか?大丈夫なのか?」

僕「えっと・・・頑張ります・・・」

教授「で、今日の相談は?」

僕「今日はこの3通の相談に同時に答えていただこうかなと思ってます(印刷したメールを見せる)」

教授「3通?」

僕「はい、この3つは同じような内容の相談なんです。いずれも相談を頂いてから数ヶ月は経っているのですが・・・。相談者の皆様、本当に申し訳ございません」

教授「で、どんな内容だ?」

僕「簡潔に言えば、どうやって自分の教授を急(せ)かせばいいか、ってことです。例えばこちらの相談ですと、論文原稿を渡してるのに何ヶ月も放置されてるようなんです」

教授「それはひょっとして俺に喧嘩を売ってるのか?」

僕「違います」

教授「そうか」

僕「ちなみに、二つ目の相談者は、相談者の教授が自分のメールに全然返信をしてくれないので困ってるようなんです」

教授「やっぱり俺に喧嘩を売ってるんだな?」

僕「違います」

教授「そうか」

僕「で、この3つ目ですが、こちらの相談者は、相談者の教授があまり研究にやる気がなくて、研究プロジェクトを進めるにあたり、色んな面で相談者の教授が律速になってしまい研究が進まなくて困ってるようです」

教授「そんなに俺に喧嘩を売りたいのか?」

僕「違います」

教授「どれも俺のことを言ってるじゃないか」

僕「違いますって」

教授「違わない。俺は論文原稿も放置するし、メールの返信もあんまりしないし、研究にも興味がない」

僕「いやまあそうなんですが・・・でも教授、であればなおさら今回の相談の回答役として教授は最適じゃないですか?教授が学生なんかからの問い合わせへのレスポンスが遅い理由を明らかにすれば、その対応策も自然と見つかるんじゃないでしょうか」

教授「君は変なところで前向きだな」

僕「恐縮です」

教授「別に褒めてはいない」

僕「ぐ・・・。でも教授、一つ目の相談に関連してなんですが、教授は論文原稿を放置することがあるんですか?教授はすごい勢いで論文を出してるので、原稿を放置してるとか考えられないんですが」

教授「すごい勢いで論文を出してる、ってのはあくまで君の主観だろ。俺の論文のペースはそんなに早くない。放置してる原稿にきちんと真面目に取り組めば、もっと論文は出るはずだ」

僕「そうなんですか?!でしたら何で放置してる原稿を手直しして投稿しないんですか?」

教授「面倒だからだよ」

僕「そんな身も蓋もない・・・」

教授「身や蓋があろうがなかろうが関係ない。それが事実だ」

僕「でも・・・面倒って理由で原稿を放置してるんですか?その原稿を持ってきた学生さんとか可哀想じゃないですか?」

教授「なぜだ?あらゆる意味で論文の体(てい)を成していない原稿を手直ししてアクセプトまでこぎつけなければいけない俺の方が可哀想だ」

僕「でも・・・」

教授「それは職務放棄では?とでも言いたいんだろ」

僕「いやそこまでは言ってませんが・・・」

教授「気をつかわなくてもいいよ。学生やらポスドクの立場からすれば、自分が書いた原稿に全然目を通してくれずに何ヶ月も放置している教授ってのは職務怠慢に見えるだろう。その気持ちはわからなくもない。だがな、教授職に就いている俺の立場からすると、全く違った意見を持つことになる」

僕「と言いますと?」

教授「教授職ってのはな、論文だけを書いてればいいわけじゃない」

僕「それはわかるような気がします」

教授「もちろん論文も書かなければならない。だが、論文は数が多ければいいわけでもない」

僕「質も大事ということですか?」

教授「君のいう質ってのはインパクトファクターのことか?」

僕「えっと・・・そういうわけではないんですが」

教授「どういうわけだ?」

僕「いや、どの雑誌に出たか、とかそういう質かなと・・・」

教授「ふん、インパクトファクター至上主義か」

僕「いやまあ・・・すみません」

教授「いいよ別に。インパクトファクター至上主義は別に君だけの問題ではない。この業界全てにはびこる癌のようなものだ」

僕「ということは、質が大事というのは、インパクトファクターとは関係ないのでしょうか」

教授「いや、関係あるよ」

僕「え?」

教授「さっきも言ったが、この業界はインパクトファクター至上主義だ。だから、俺がどうやってノホホン老害教授生活をキープするかを考えるときは、そこそこのインパクトファクターの雑誌に論文を出すことは至上命題だ。だが、それ以外にも、俺の研究室のテーマに沿った内容の論文を、質や量のバランスを考えた上で出し続ける必要がある。ある研究テーマに沿って研究成果を出し続けるというのも必要になってくるからな」

僕「なるほど。でも、それでしたら、なおのこと論文原稿を放置することは避けた方がいいのではないでしょうか?」

教授「なんでそうなるんだ?いいか、時間が無限にあるのなら闇雲にひたすら論文を量産するのも良いかもしれない。だが時間というのは限られてるんだ。しかも俺は自分の全ての時間を研究に割くつもりは全くない。とは言え、もらってる給料分くらいは働いてやってもいいかなとは思ってる。ただ、その働いてる時間には、論文を書く以外にも色んな用事をこなさなければならない」

僕「ということは、いくつくらいの論文をどこらへんの雑誌に出すかの計画が教授の頭にはあり、それに当てはまらない原稿は放置する、ということなのでしょうか」

教授「ま、当たらずとも遠からず、だな。とは言え、俺はそんな綿密な計画は立てないし、あんまり意味がないかなと感じた原稿でも論文にすることもある」

僕「それは何か特別な理由があってのことなんでしょうか?」

教授「いや、特に深い理由はないよ。その論文の内容が自分の研究の将来の布石になるかもと思う場合であったり、その原稿を持ってきた学生の就職とかのために、とか、単に手直しの手間がかからなさそうだ、という単純な理由がほとんどだ」

僕「え、そんな理由でですか?ということは、あんまり研究の中身とは関係ないんですか?」

教授「ないね。というか、研究の中身が重要な原稿に関しては優先的に進める。今のは、放置してる原稿の中から論文にする可能性の高いものはどれか、という話だ」

僕「ということは、今回の相談者が論文原稿を放置されてるのは、相談者の教授にとって、あんまり意味のない研究論文だから、ということなんでしょうか?」

教授「もしそこの教授が、論文を書く能力があるのならそうだろうね」

僕「え?では論文を書く能力のない教授だったらどうなんですか?」

教授「論文を書く能力がないんだったら、原稿を渡しても論文が最終化されるわけないじゃないか」

僕「確かに・・・」

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