教授と僕の研究人生相談所



第86回(更新日:2019年12月22日)

サービスの対価としてのお金はきちんと払おう

教授「・・・」

僕「・・・」

教授「・・・」

僕「・・・」

教授「・・・」

僕「・・・どうしましょう?」

教授「何がだ?(18年物のグレンリベットを飲みながら)」

僕「BioMedサーカス.comでの僕らの連載です」

教授「ふん。そんな連載、編集部もとっくに諦めてるだろ」

僕「いえ、担当の方は毎月一回は連載どうですか?って聞いてくれています」

教授「怒り狂いながら?」

僕「いえいえ、とてもナイスにです。僕らの事情も理解してくれていて、いつでも再開できますので次の原稿を待っています、と言ってくれています」

教授「そうか」

僕「どうしましょう?」

教授「君の連載だ。君が決めればいい」

僕「では、普通にシレッと再開しますね」

教授「読者からの相談なんて来てないだろ?」

僕「ここ数ヶ月は来てないですね。以前に頂いた相談で、まだ連載で取り上げられていなかったものは年単位で放置中なので、今さら取り上げてもって感じです・・・」

教授「相談メールを送った人間が相談したことすら覚えてないだろうよ」

僕「ですよね。本当に心苦しい気持ちでいっぱいです。相談を送ってくださった読者の皆様には申し訳ない気持ちです」

教授「俺も悪いとは思ってるよ。だが、世の中そんなもんだよ。本当に有用なアドバイスが欲しいなら金を出すか、金に相当する何かを用意しないとダメだ。ま、金を出しても役に立つアドバイスがもらえるかどうかはわからんがな」

僕「相変わらず手厳しいですね」

教授「何がだ?世の中金だよ。金を出さないと人は動かん。しかも、金を出したからと言って、まともなものを手に入れられるとは限らん。だから難しいんだ。だが、逆に言えば、少なくとも金を出さない限りは、もしくは金に変わる何かを出さない限りは、他人からきちんとした物なりサービスなりを与えられることはない」

僕「金金金って寂しい老後ですね、って言われちゃいますよ」

教授「言いたい奴は言えばいいさ。俺は、金もしくはそれに相当する何からを出さないくせに、まともなサービスを期待するような残念な人間にはなりたくないんでな」

僕「荒れてます?」

教授「いや別に。ああ、そう言えば、金を出さないのにサービスだけは期待するっていう話で思い出しことがある」

僕「何をですか?」

教授「暴論かもしれんが、ここ数年の日本の科学技術分野は超低空飛行だろ。特にバイオ系は」

僕「異論はありそうですが、ざっくり言えばそうですね。なんとなく元気がない印象ですね」

教授「で、何をトチ狂ったか、日本の政府やら大学やら何やらは若い学生を海外に送ろうって発想になったろ」

僕「そういう話をよく聞くようになりましたね。ハーバード大学やMITに研究留学に行ってきたと偉そうに言ってる学生をリアルでもネットでも目にすることが多くなりました」

教授「研究・・・留学・・・か、物は言いようだな(心底呆れた表情で)。君はそういった大学生がいったいどのくらいの期間を海外で過ごしているか知っているか?」

僕「えーっと、個別の事例についてはそんなに詳しく知らないんですが、半年くらいですか?」

教授「昨今の流れに沿って海外のバイオ系ラボに研究留学(笑)をする学生らは、長くて半年、短ければ数週間から1月ちょっとだ」

僕「え、そんなに短いのに研究留学って言ってるんですか?」

教授「ツッコミどころはそこだけじゃない」

僕「と言いますと?」

教授「学生なんて、研究者という観点では赤子と変わらんよ。特に研究するにあたり技術修練が必須なバイオの分野ではな」

僕「たしかに」

教授「それなのに、学生実習すらまともにできんような学生が海外に行ってどうする。そんな奴ら英語も喋れんだろ」

僕「たしかに。でも、そんな日本人学生を海外の研究者が受け入れたりするんですか?」

教授「しないよ、普通はな」

僕「普通は、ってことは受け入れてもらうために大金を積んだりするんですか?」

教授「真逆だね。日本の大学は自分のところの学生を受け入れてもらう研究機関やら研究室やらに金は払わん。むしろ、受け入れる側が、ビザやら何やらの手続きのための費用を負担することがあったりもするくらいだ」

僕「え、そうなんですか?受け入れる側のメリットは?」

教授「基本的にはないね。金ももらわず、むしろ金を払って、使えん学生を引き受けるんだ。で、受け入れた側は、無料で学生の指導までする羽目になる」

僕「そんな状況で、良く引き受けてくれますね」

教授「さっきも言ったが、普通は引き受けないんだよ。だが、学生を紹介する研究者が大御所だったりすると、向こうも何らかの見返りがあるかと期待して引き受ける。ま、コネだよ。ある意味で政治的取引ともいえるがね」

僕「へー、そうなんですか。でも意外です。アメリカの研究者が日本にいる日本人研究者に気をつかってくれるなんて」

教授「なにか勘違いしているようだな。アメリカにいる研究者がアメリカ人やら白人やらだけだとでも思ってるのか。そんな使えん日本人学生を受け入れてるのは、主には日本人だぞ」

僕「え?」

教授「俺も詳しい統計とかは知らん。だが、少なくとも俺が聞く範囲では、そういう海外派遣プログラムでいく学生が行くラボは、日本人がPIであるか、日本人のPIが口利きをしてくれて受け入れを承諾してくれたラボか、そこのラボに日本人ポスドクがいて一切合切をそいつに丸投げするラボか、が大半だ。まれに日本人が全くいないラボに学生が行くこともあるらしいが、留学期間中は完全に空気扱いかひたすらチップ詰めをさせられるかのどっちかだよ」

僕「今さらチップ詰めですか・・・?」

教授「英語もわからん、実験もできん、研究の経験もない、社会常識もない、のないない尽くしで意識が高いだけの学生がバイオ系ラボで出来ることなんてないだろ」

僕「たしかに」

教授「でだな、さらに悲惨なのは・・・」

僕「チップ詰め以上に悲惨な作業ですか?」

教授「いや違う。悲惨なのは受け入れた側だ。受け入れ側が日本人PIで、依頼した側に対してあまり強く言えない状況だと、金を払って学生を受け入れて、自分のところの研究費をつかって学生のために実験試薬とかを購入し、学生の教育のために自分のところのポスドクを使い、最後には忙しいのに学生のために報告書とかを書かせられるんだ」

僕「報告書?」

教授「その学生が留学期間にどういうことを学んだかと言った評価書シートのようなものだよ。日本の大学は、その学生に学費を払わせているのに、学生を受け入れてくれた側には一切金を払わん。それなのに、そんなことまでさせているんだ」

僕「酷いですね」

教授「ああ、酷いの一言だね。日本は人間の労働には金を払わん。そんなことをしているから、今の科学技術分野の低迷にもつながっている。しかもだ、今は、そんな日本を脱して海外で頑張っている日本人の足まで引っ張る状況だ。俺が聞いた例では、自分を育ててくれた日本に恩返しをしようとして、日本の学生を数年にわたり引き受けている日本人PIがいるが、あまりにも引き受けた学生の質が悪く困りきってるということもあるようだ」

僕「悲しいですね」

教授「ま、引き受けた日本人PIの自業自得な側面もあるがね。そんな海外派遣プログラムでお手軽に留学をしたいという意識高い系日本人学生の質がどんなもんかはすぐわかるだろ。それなのに、くだらん奉仕精神で、自分のラボに悪影響が出そうなことを何年も続けるのは愚策だ」

僕「そこまで言わなくても・・・。でも、アメリカを含めた海外で日本人の評判が悪くなっちゃいますね」

教授「少なくともバイオ業界では実際になってるよ」

僕「え、そうなんですか?」

教授「その話は別の機会に話そう。ま、いずれにしろ金だよ。日本が金さえ払っていれば、受け入れる側もそれなりに学生の教育をしてくれるだろうし、日本と外国の間である程度はWin-Winの関係は築ける。学生は教育を受ける対価として授業料を大学に払うだろ。それなのに、日本の大学は教育を無料で外注しようとしてるんだ。ま、逆にいえば、君や俺みたいな大学教員にとっては良いことかもしれん。働かなくてすむんだからな」

僕「教授、この連載ではまだ僕は学生です」

教授「そうか。で、その設定はいつまで使うんだ?」

僕「えっと、どうしましょう」

教授「まあ君が好きに決めればいい。で、今回のオチは?読者からの質問に答えたわけでもないし、そもそも普通に会話しただけだし。ところで君は元気か?」

僕「ええ、おかげさまで。教授はいかがですか?」

教授「レッチェリ第81話参照)は増えたよ」

僕「それは何よりです。ではまた読者の皆様、近いうちにお会いしましょう」

執筆者:「尊敬すべき教授」と「その愛すべき学生」

*このコーナーでは「教授」への質問を大募集しています。質問内容はinfo@biomedcircus.comまでお願いいたします(役職・学年、研究分野、性別等、差し支えない程度で教えていただければ「教授」が質問に答えやすくなると思います)。

本連載の書籍化第5弾です!

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