教授と僕の研究人生相談所



第89回(更新日:2022年1月5日)

教授は今日も元気です

僕「ご無沙汰しております。お元気でしたか?」

教授「うむ。君はどうだね。今年も忙しかったんじゃないか」

僕「はい、それなりに。でも、おかげさまで何とか年を越せそうです。あ、今回の会話は来年(2022年)のはじめに掲載される予定です。2021年は結局1回しか記事を書けませんでした。すみません」

教授「俺に謝る必要はないな。謝る相手は編集部とか読者に対してだな。ま、読者というものが君の連載にまだいるのかはわからんがね」

僕「そういえば、先日も僕らあてに応援メールが来たんです。書籍化されたものを全部購入してくれているとのことです」

教授「そうか、それはありがたいことだな。って俺のキャラはこんなんだったっけか?」

僕「ちょっと違うような気もしますが、文章にするときに適当に変えますので気にしないで喋っていただければと思います」

教授「この捏造野郎め(ボソ)」

僕「聞こえていますよ」

教授「お、そうか、すまんな。まあ、俺らの業界も捏造まみれだから、文章をちょっと変える程度なら演出とか編集ということで全く問題はないな」

僕「そうかもしれません。でですね、その応援メールを頂いた方からの質問なのですが、新型コロナの流行でバイオ研究業界にどんな変化があったかについて教授のご意見を伺えないかと思っています」

教授「難しい質問だな、パス」

僕「いえいえ、そんなに簡単に諦めないでください」

教授「本当にそんな質問来たのか?」

僕「来ましたよ。もっかい転送しますので読んでください(メールを送信する)」

教授「(メールを読んでいる)」

僕「どうですか?」

教授「メールには『お二人に質問させてください』とあるじゃないか。君にも聞かれてるんだぞ。君もきちんと答えなさい」

僕「ぐ・・・たしかに。いえ僕も考えたんですが、新型コロナでバイオ研究業界の何が変わったのか、あんまり良くわからないんですよね。TwitterとかYoutubeでのバイオ研究業界にいる人たちの存在感や発言権が増したような気もしますが、それって今回の質問とはあんまり関係ないですよね」

教授「うーん、どうだろうな。関係なくはないかもしれない。新型コロナのパンデミックでバイオ研究に興味を持った人は増えただろうから、バイオ研究業界にいる人たちの発言も注目されるようになってきたと考えても不思議ではない。まあ、俺はSNSはほとんど使わんからわからんが、ああいうところで偉そうにしてる奴らの言ってることは本当に正しいのか?」

僕「どうなんでしょう。まともなことを言ってる人もいますが、適当なことを言ってる人もいますからね」

教授「玉石混交ということか。ま、所詮はネットでの一個人の意見に過ぎないからな。だが、俺らは多少バイオのことがわかるからいいけど、この業界にいる人でないと、適当な発言でも『医者が言ってる』とか『研究者が言ってる』とか『専門家(笑)が言ってる』とかで簡単に騙されるんじゃないか?」

僕「そうだと思います。僕から見ても、いい加減で間違った情報だなと思うツイートとかがあるんですけど、それを信じる層も一定数いたりしますからね。素人、という表現は好きではないですけど、バイオの研究に関係ない人からすると、そもそも誰が何の専門家なのかすら見極めるのが難しかったりしますからね」

教授「だろうな。ま、俺は騙されないからいいけどね。でも、義務教育の勉強くらいはもうちょっと真面目にしておいた方がいいんじゃないか?と思うような人がたくさんいるのには驚いている」

僕「それはネットを見てのことですか?」

教授「ネットでもリアルでも、かな。大学生の学力レベルも酷いことになってるしな。おっと、こういうことを言うと『老害』とかネットで言われちゃうか?」

僕「言われるでしょうね。でも、僕は教授の意見に賛成です。最近になって、小中学校の教科書レベルのことをきちんと理解していない大学生が少なくない割合でいることに気づきました。こんなんで彼ら彼女らの将来は大丈夫なのかな、と思ったりします」

教授「お、有名な大学で教鞭をとるようになった人間はいうことが違うね。さすがエリート」

僕「茶化さないでください。話がちょっとずれてしまったので、元に戻しますが、バイオ研究業界、新型コロナで他にも何か変わったことありますか?」

教授「学会とか外部との会議がオンラインになった。これはでかい。めちゃくちゃ楽だ」

僕「たしかに、その変化は大きいですね。言われるまで気づきませんでした。というかオンラインでの学会や会議がもはや日常なので、パンデミック前はオンラインではなかったというのが想像できない感じです。でも、教授はオンラインの学会の方が好みなんですか?」

教授「もちろんだ。家でのんびりできる時間が増えるし、くだらん奴とくだらん会話をする必要もない。コロナが終わってもオンラインでできる学会はオンラインがいい」

僕「珍しいですね」

教授「なにがだ?」

僕「いえ、偉い人って対面での学会が好きで、そこでの懇親会や会話こそが学会の醍醐味みたいに言ってる印象がありましたので」

教授「そういうジジィは多いな。時代遅れのパワハラセクハラ研究者だな」

僕「えっと、それは極論では・・・」

教授「じゃあ、学会の懇親会が好きなジジィ研究者の中にはパワハラセクハラ研究者が多分に含まれている、と言い換えるか」

僕「あんまり変わっていないような・・・」

教授「ジジィになると相手にされなくなるからな。にも関わらず、偉くなった奴は自分の話を聞いてもらおうと必死になる。しかも、野心あふれる昔ながらのパワハラセクハラ気質の奴は自分へのリスペクトまでも求めるから一層タチが悪い。しかもだ・・・」

僕「教授、そこら辺にしておきましょう」

教授「ふん、わかったよ。まあ、リアルに集まっての学会や会議に意味がないとは言わないし、むしろリアルで会ってこそのメリットがあるのは重々承知している。だが、そこにパワハラセクハラ気質の研究者どもが混じるとデメリットがメリットを軽く粉砕する。おっと、そういえば最近は男女平等に注意しないといけないんだった。そういう老人というのは、もちろん男のジジィ研究者だけじゃなくて女のバb」

僕「教授、それ以上はいけません」

教授「お、そうか。この連載も久しぶりだから越えちゃいけないラインがどこにあるか忘れていたよ。すまんな」

僕「いえ、恐縮です」

教授「セクハラで思い出した。君に言っておかないといけないことがあったんだ」

僕「なんですか?」

教授「あれは俺じゃない」

僕「?」

教授「ほら、最近どこぞの教授がセクハラで逮捕されただろ。あれは俺じゃないと君の連載で言っておいた方がいいかなと思っていたんだ」

僕「強制わいせつ罪で捕まった件ですね。ツイッターでも盛り上がってました。でも大丈夫ですよ。あれは教授じゃないってみんな知ってますよ。だって、捕まった教授は学生に人気があった、みたいなことをニュースで言ってましたし」

教授「ほぉ、君も言うようになったね。君もセクハラで逮捕されてしまえ。いや、セクハラで逮捕だと被害者がいてかわいそうだ。セクハラ冤罪で逮捕されてしまえ、の方がいいな」

僕「すみません。冗談です。でも、教授がセクハラするなら証拠を残すようなことはしないですよね」

教授「まあな。いや、俺はセクハラはしない。あやうく君の策略に乗るところだった。セクハラの話題はもうやめよう。このまま話が進むと越えちゃいけないラインを超えそうな気がする」

僕「はい。失礼しました。で、話を戻しますが、コロナのパンデミックでバイオ研究業界って他にも何か変わりましたか?」

教授「挙げていくとキリがないが、消耗品の流通が滞ることが多くなって、その関係で論文リバイスの締め切りの延長を気軽に要請できるようになったな。それだけじゃなくて、コロナを言い訳に論文査読とか色んな締め切りを平気でブッチできるようになった。コロナで大変なんで、と言えば何とかなることが多くなった」

僕「なるほど」

教授「それと、俺の研究室ではデータ整理とかラボでしなくても良い作業は家に帰ってからするようにということにした」

僕「あー、アメリカだとそういう感じだって聞きました。ラボには必要なとき以外は行かなくなったって。でも、それって日本だと珍しいようにも思いますが」

教授「どうだろうな。他所の研究室のことはあんまり知らん。ま、俺のところは俺が出勤したくないからルールを作っただけだ」

僕「でも、それだとサボる人が出てきませんか?」

教授「ダメな奴は適当に指導してるから全然OK」

僕「相変わらず厳しいですね・・・」

教授「そうか?必要ないのにラボにいさせる方が酷いと思うが」

僕「それはそうなんですが・・・。あ、アメリカだと、って先ほど言いましたが、コロナのパンデミックで日本からアメリカへの研究留学ってどうなってるんでしょうか?」

教授「どうだろうな。パンデミック直後は、大学の事務が閉鎖してたりとかで、留学が延期になったりしていたようだが、もう元に戻ったんじゃないか」

僕「バイオ系PhDの海外留学が減っているという記事を目にしたことがありますが」

教授「それはコロナとはあんまり関係ないんじゃないか。留学する人数が減ってるっぽいというのは単にバイオ研究者はアカデミック業界では生きていけないというのが知れ渡ったからだろ。そこにコロナのパンデミックがたまたま来ただけだよ」

僕「たしかに。でも、この業界って本当に海外に研究留学する人数は減ってってるんでしょうか?具体的な統計とかをあんまり見たことないんですけど」

教授「体感として減っていってるかな、という印象はあるが、統計はないんじゃないか。国も正確な数字は把握していない、というか把握できない気がするな。有名どころの奨学金をもらっての留学なら多少なりとも記録も残ってるし、追跡調査もできるかもしれんが、そうでなければ、極端なことを言えば誰にも言わずに留学できたりするからな」

僕「なるほど」

教授「ま、留学先を決めるときとかに博士課程の指導教官とかから推薦状をもらう必要があるから、実際のところは誰にも言わずに留学するというのは俺らの業界では不可能に近いかもしれない。だが、留学してから音信不通になる奴は一定数いるし、そういう奴らが国外でラボを転々としていたら追跡は困難だ」

僕「たしかに」

教授「日本との縁を切ってしまった日本人研究者はどうするんだろうな。まあ日本との縁を持ち続けていても日本でポストが得られる可能性は低いままだがな。いずれにしろ、そんな状況じゃ留学を躊躇する人間が多くなるのも不思議ではない」

僕「世知辛い世の中ですね」

教授「ま、そんなもんだ。俺らの時代は楽だったな。君らは大変だと思うよ。ということで、質問にも答えたし、今日はこんなところでいいか」

僕「はい。ありがとうございます。読者の皆様にとって2022年も良い一年になることをお祈りしています」

教授「それでは2023年までさようなら」

僕「教授、2022年はもっと頻繁に更新しましょうよ・・・」

執筆者:「尊敬すべき教授」と「その愛すべき学生」

*このコーナーでは「教授」への質問を大募集しています。質問内容はinfo@biomedcircus.comまでお願いいたします(役職・学年、研究分野、性別等、差し支えない程度で教えていただければ「教授」が質問に答えやすくなると思います)。

本連載の書籍化第5弾です!

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