教授と僕の研究人生相談所
Tweet第91回(更新日:2024年12月23日)
アカデミアの医学生物学分野は泥舟なのか
僕「教授、大変ご無沙汰しています。お元気でしたか?」
教授「えっと・・・君は誰だったっけか?とかいうボケはもう必要ないな。君もそれなりの年になってきたし、きちんと大人同士の会話をした方がいいかな」
僕「いえいえ、僕なんかは教授からしたらいつまで経ってもひよっこみたいなもんです。これまで通りに接してください」
教授「これまで通りって言われてもな、君とゆっくりと話すのは久しぶりだし、君の連載での俺のキャラ設定がどんなんだったか忘れてしまったよ」
僕「設定とか言わないでください。それにそんなのは気にしなくていいんです。僕が文章にするときに適当に直しますんで」
教授「論文に載せる図とか文章もそんな感じで『直し』てるのか?」
僕「人聞きの悪いこといわないでください。その冗談はあまり洒落になりません」
教授「たしかにそうだな。今の世の中、研究倫理とかには非常にうるさくなってきたのに、論文は捏造だらけだからな」
僕「やっぱりそうですか?」
教授「やっぱり、とは?」
僕「いえ、著者らが意図的にやってるかどうかはわからないのですが、なんか最近の論文って嘘が多いような気がするんです。医学生物学の基礎研究の分野が特にそういうのが多いんでしょうかね」
教授「工学系とか他の分野はわからんな。それに、医学生物学といっても幅は広い。だが少なくとも、俺らがいる領域は捏造が多い印象は俺も感じている」
僕「やはりそうなんですね」
教授「で、意図的かどうかはわからない、ってのはどういう意味だ?」
僕「いえ、ひと昔前の捏造って、実験数値を書き換えたり、染色画像を使いまわしたり、とか、明らかに何かを操作してますって感じだったじゃないですか。でも、最近の捏造、まあ捏造と言っていいかわからないんですけど、はそれとは違うのも含まれてきてるように思うんですよね」
教授「例えばどんな?」
僕「何回か実験をしてみたデータがあった場合、この数値とこの数値はおかしいから除外しよう、とかです」
教授「それは除外クライテリアとか設定せずに、か?」
僕「はい。この値がないと星がつく(注:有意差が出る)から、というだけの理由だったりします」
教授「君のところはそんなことをしてるのか?」
僕「いえいえ、僕はそんなことはしてませんよ。それに、僕の学生にもそんなのはいません」
教授「あれ、君のこの連載では、君はまだ学生という設定だったんじゃなかったっけ?連載タイトルは『教授と僕のなんちゃら』のままだろ」
僕「『教授と僕の研究人生相談所』です。まあタイトルは何でもいいですね。えっと、たしかどっかのタイミングで僕はもう学生ではないって、曖昧ではありますが明らかにしたような気がします」
教授「そうか。全然覚えていなかったよ。で、何の話だったっけ。君の学生が捏造をしてるって相談に答えてるんだっけか?」
僕「全然違います」
教授「じゃあ誰だよ、そんな適当なデータ解析してるやつは」
僕「そういうの、ちょくちょく耳にするんです。例えば、教授の知ってる(ピー)とか(ピー)なんかも、そういうことをよくしてるっぽいです」
教授「それは俺も聞いたことがある。有名だな」
僕「ですよね。それに、最近聞いた話だと、別の実験で得られたコントロールの値を使いまわしたりしてるらしいです。一度にたくさんコントロール用の実験をして数値を出して、それを時々引っ張り出して使ってるみたいなことをするようです」
教授「その話、俺も聞いたことがあるな。(ピー)にいる(ピー)の研究室だろ?」
僕「いえ、僕が聞いたのは海外での話ですね。留学から帰ってきた人と話をしたときに聞きました」
教授「どこでもやってるんだな」
僕「僕が気になってるのは、そういう人たちって、そういうことを捏造だと思わずにやってる節があるということなんです。実際に実験して出た数値を使ってるから問題はない、みたいな態度らしいです」
教授「世も末だな」
僕「ですよね。だから、論文とか読んでても、この実験系でこのばらつきは小さすぎるとか、動物モデルでのこの実験でこのサンプル数できれいに差がでるのはおかしいな、とか思っちゃって、なんか論文を読むモチベーションがなくなるときがあるんです」
教授「まぁ、昔からよく言われてるんだがな、論文なんてのは所詮、単なる仮説の紹介だ。俺が学生のころからそう聞かされてきた。論文のストーリーを信じるな、と言われたことは何回もある」
僕「あー、そうなんですね」
教授「まあでも、最近は特に酷くなってきてるかな。特に有名ジャーナルだと、突飛なアイデアときれいなストーリーのどちらも重要になってきてる。しかも、図の数が多くないとだめだから、必然的に何らかの操作が行われるようになるんだろうな。最近でいうと、(ピー)とか(ピー)なんかは怪しすぎるだろ」
僕「ですね。でも、そういうのって表に出てこないんですか?」
教授「どういう意味だ?」
僕「えっと、そのデータって嘘じゃん、ってみんな言わないんですかね」
教授「みんなって?」
僕「編集者とか査読者とか読者です」
教授「疑わしきは罰せずだよ」
僕「そんな・・・」
教授「それに、他の研究グループにそんな態度を取ったら、反撃が来ることはバカでもわかるだろ。あれ、君はバカな学生という設定だったか?」
僕「設定とかの話はもういいです」
教授「そうか。まあ、そういう反撃を喰らって、痛くもない腹をさぐられるのは誰しもいやだろう。そもそも、偉くなってる奴は探られたりしたくない何かを持ってることが多いんじゃないか?」
僕「そんなもんですかね」
教授「実際のところはわからんがな。まあ、いずれにしろ、裸の王様というか歌舞伎の黒子というか、そういう暗黙の了解を守ってみんなで研究ごっこをやりましょうねってことだろうな」
僕「そんなの続けてたら、いつかこの業界は破綻しませんか?」
教授「もう破綻してるだろ」
僕「え?」
教授「もう破綻してる。でも俺は逃げ切りだから大丈夫。でも君はまだこれからだから大変だな。じゃあ、久しぶりの連載用の会話で疲れたから、今回はこのくらいで終わりにしようか。ま、これからはもっと頻繁に更新できるように頑張ろうか。じゃ、そういうことで」
僕「いえいえいえ、ちょっと待ってください。もうちょっとだけお願いします。この業界のどこかどう破綻してるんですか?」
教授「君は破綻していないと思ってるのか?」
僕「え?」
教授「捏造論文は多いよな?」
僕「断言はできないですが、まあいい加減な論文は多いし、捏造まがいのことをして高インパクトファクターの論文に出している研究グループのことはよく耳にします。インパクトファクターの低いところだと、某国とか某国なんかは適当な論文ばかり出してますし・・・」
教授「実験の基本がわかっていないのが偉くなってきてもいるよな」
僕「わかります。口だけの奴の方がポジションをゲットしたり昇進したり研究費を取っているという話もよく耳にします」
教授「学生とかはもうアカデミアに残るよりも何とかして企業の内定をゲットしようとしてるよな」
僕「残念ながらそうですね」
教授「アカデミアに残った奴も、色々と疲弊してるよな。君もだろ?」
僕「はい」
教授「そもそも学生は人生なめてるような奴が増えてきただろ?何もできないのに偉そうに自分の権利だけを主張したり」
僕「痛いほどよくわかります」
教授「査読システムはどう思う?」
僕「めちゃくちゃですね」
教授「それでも破綻していないと思うか?」
僕「思わないです」
教授「だろ?じゃあ、今日はこの辺で終わりにしよう。じゃあまたいつかどこかで」
僕「・・・」
執筆者:「尊敬すべき教授」と「その愛すべき学生」
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