研究者のためのライフハック的思考術



第6回(更新日:2013年11月25日)

インターネットを使って自分を売り込む

全8回の予定でお送りしている「研究者のためのライフハック的思考術」です。この連載では、ライフハック(人生/仕事を効率化する)という考え方が、どのように研究者のキャリア構築に活用できるかを考えています。今回と次回は、研究者としての自分を売り込むためのインターネット・ツールを紹介します。

1995年頃からインターネットは個人の間でも使われるようになり、自分を世界に発信できる様々なツールが開発されてきました。それらツールの大半は特殊なスキルを必要としません。そのため、今では多くの研究者が自らの研究内容や業績などを、自分の手でインターネットを通じて世界に発信しています。

現在のところ主に使われているツールを、それらの特徴ごとに以下に分類してみます。

(1)情報を一方的に発信するもの:
ホームページ、メールマガジン、ポッドキャスト、ネットラジオなど

(2)発信した情報に対する他者の反応を第三者が閲覧できるもの:
ブログ、Twitterなど

(3)情報発信に加えて、閲覧者との情報のやりとりを重視しているもの(ソーシャル・ネットワーキング・サービス: SNS):
Facebook, Mixi, LinkedInなど

現実問題として上記のツールを全て使いこなすのは不可能に近いです。我々のような研究者は研究活動に忙しいため、上記ツールを使いこなすための時間を捻出することが難しいからです。したがって、研究の合間を縫って効率よく自分を売り込むためには、自分の目的に沿ったツールを選ぶ必要があります。目的は各人によって様々なため、インターネットで自分を売り込もうとする場合は、何のために売り込むのかを各自でじっくりと考えることをお勧めします。一応、以下に何のために売り込むかを考える(絞り込む)ために役立つであろうリストを記しておきます。

− 自らの研究内容/結果を少しでも多くの人に知ってもらいたい
 − 将来の就職に役立てたい/新しい職を見つけたい
 − 自分の研究に投資してくれる人を見つけたい(研究費の獲得)
 − 共同研究してくれる人を見つけたい
 − 同じ興味を持った研究者と議論したい
 − 同じ分野・年代の研究者と情報共有をしたい
 − 学会のシンポジウムなどでの講演依頼を受けたい
 − 総説論文などの研究内容に関する執筆依頼を受けたい
 − 研究に関連する書籍(留学体験記など)を出版したい
 − 学術雑誌を編集する側になりたい
 − 自分の持っている情報でお金を稼ぎたい
 − 自分の思いを聞いてもらいたい

さて、インターネットで自らを売り込む場合、意識しておくべき点が二つあります。

1つ目は、インターネット(仮想世界)とリアル(現実世界)の間には壁があるということです。仮にインターネット上で自分を売り込んだとしても、その効果がリアルに伝播するためには、インターネットの世界で大きな影響力を示す必要があります。最近では「人気ブログの書籍化」や「ネット発のアイドル」という宣伝文句が珍しくなく、インターネットとリアルの境が曖昧になってきた印象を受けるかもしれません。しかし、それでもインターネットでの動きがリアルに影響を及ぼすことは稀です。先ほど列挙した「自分を売り込むための目的」のほとんどはリアル社会でのことです。そのため、インターネットで自分を売り込もうとする場合、中途半端な試みで行ったとしたら、その目的はほとんど達成されません。

2つ目は、インターネットは「情報の増幅装置」であるということです。自分を売り込むための「モノ」がなければ、インターネットを使ったとしても効果がありません。例えば、ホームページを開設するための準備を万端に行ったとしても、研究者としての自分の売り(強み)がなければ、ホームページを作った意味はほとんどありません。また、インターネットはネガティブな情報も増幅します。インターネットで自分を売り込んでいるときに、運悪く悪い評判が出てしまうと、その悪い評判も驚くべきスピードで拡散します。そして、その悪い評判の伝達度合いが「ある閾値」を超えてしまうと、その評判はリアルの世界にまで拡散することになります。「悪事千里を走る」との諺があるように、人間社会では悪い噂の方が広がりやすいものです。そのため、インターネットとリアルの壁を飛び越えるものは、ポジティブな評価よりもネガティブな評価の方が圧倒的に多いです。

次回は、今回ご紹介したインターネット・ツールの具体的な使い方を示しながら、引き続きインターネットで自分を売り込む方法について考えていこうと思います。どうぞお楽しみに。


本記事は2010年~2011年に北米東海岸の研究者ネットワークJaRANのメールマガジンで連載されていた記事を転載したもので、記載してある内容は連載当時の情報となります。

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