■相澤香の「脳卒中最前線」
第3回:Impact Beyond the Impact Factor?(2011年6月16日更新)
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今回はStroke誌のEditorialに掲載された『Impact Beyond the Impact Factor?』をご紹介します。この記事は、いわゆる原著論文ではありませんが、昨今のImpact Factor重視の流れについてStroke誌の編集者でありStroke分野の大御所であるDr. Eng H. LoとDr. Marc Fischerがコメントをしています。
多くの方がご存知かと思いますが、Impact Factorとは学術雑誌の被引用回数をもとに算出された数値で、自然科学の分野では、その雑誌のランク付けに使われることが多いです(詳しくはWikipediaのImpact Factorの項を参照)。しかし、様々な批評があるように、今回紹介する論説でも、「ある論文が研究分野に与える影響度は、その論文が掲載された学術雑誌のImpact Factorに必ずしも比例するわけではない」というスタンスで書かれています。しかし、Impact Factorを批判するだけではなく、Impact Factorの重要性も踏まえた上での議論となっているため好感が持てます。
例えば、本論説文は以下のような段落で始まっています。
In recent years, journal impact factors have been increasingly used as a tool for quantitative analysis of the wide range of scientific and medical journals that are now available. Of course, there are many problems and caveats with the use of impact factors for assessing quality. Metrics are helpful for comparisons. However, everyone would agree that the importance of science cannot be captured by any single number or index. Nevertheless, one underlying premise behind impact factors may be somewhat useful. The more often an article is cited, the more likely that it is being read and its ideas considered and discussed, that is, the broader its potential "impact" in the field.
要約すると、「Impact Factorは近年では雑誌/論文の比較に使われるようになってきているが、サイエンスの質はImpact Factorのような単一の基準で測れるものではない。しかしながら、Impact Factorは被引用回数をもとにした指標であるため、被引用回数が多い論文(および結果や理論・アイデア)はそれだけ研究者の目に触れるので、該当研究分野に“インパクト”を与える可能性が高い。」といったところです。
筆者であるDr. LoとDr. Fischerは、Impact Factorの有用性を認めた上で、Impact Factorの欠点(Impact Factorは直近2年の被引用回数から算出される、など)を指摘し、自分たちの雑誌(Stroke誌)がStroke分野においてどの程度“インパクト”を与えるかを論じています。
Stroke誌の最近のImpact Factorは7.041です。彼らはStroke誌の“インパクト”度合いを同領域のトップジャーナルと比較しています。方法は、2001年から2010年の間に掲載された論文のうち、各雑誌のトップ25の論文の被引用回数の平均と標準偏差を求めるという形式です。
臨床の論文は、Stroke誌(Impact Factor: 7.041)・Neurology誌(同: 8.172)・Ann Neurol誌(同: 9.317)・Lancet Neurol誌(同: 18.126)の4つの雑誌を用いました。また、基礎研究の論文は、Stroke誌(Impact Factor: 7.041)・J Neurosci誌(同: 7.178)・Neuron誌(同: 13.260)・Nat Neurosci誌(同: 14.345)の4つの雑誌となっています。
結果は、臨床論文と基礎研究の論文の両方において、Stroke誌は他の雑誌と遜色のない(むしろ優れている)“インパクト”度合いでした。すなわち、Impact Factorで測定できないようなインパクトがStroke誌にはあるということになります。
この論説文はStroke誌の編集者がStroke誌での掲載を念頭に置いて執筆したものなので、Stroke誌に有利な論調となっているのは当然です。しかし、昨今ではImpact Factor信仰が特に自然科学の分野ではびこっているため、Impact Factorでは表せないような研究の質というものにも目を向けていく必要があるかもしれません。この論説文は2ページで平易な英語で書かれているため、Strokeの分野でない研究者の皆様も一読することをお勧めします。