TICAM-2の細胞内局在と機能を制御するアミノ酸配列の同定



執筆者情報

執筆者:舟見健児、松本美佐子、瀬谷司

執筆者所属:北海道大学大学院医学研究科 免疫学分野

原著論文:Identification of a Regulatory Acidic Motif as the Determinant of Membrane Localization of TICAM-2(The Journal of Immunology 195:4456-4465, 2015)

更新日:2015年12月1日

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概要

TICAM(Toll/IL-1R domain-containing adaptor molecule)-2はTLR(Toll-like receptor)4のアダプター分子である。TLR4はエンドトキシンとして知られるリポ多糖を認識し、TIRAP(Toll/IL-1R domain-containing adaptor protein)-MyD88複合体を介して炎症シグナルを、TICAM-2-TICAM-1複合体を介してI型インターフェロン誘導シグナルを伝える。我々はTICAM-2の機能解析を行った結果、TICAM-2のエンドソーム膜への局在を規定することで、TICAM-2シグナルに重要な役割をもつ酸性アミノ酸配列を同定した。

はじめに

自然免疫は、微生物に特有なパターン分子を認識するシステムで、生体防御系における初期応答を担っている。一方で、獲得免疫はリンパ球が中心となり、抗原提示細胞による異物特異的抗原のリンパ球への提示によって、自然免疫よりも長い時間をかけて活性化する。この獲得免疫の活性化には自然免疫による刺激が必須となる。

自然免疫の活性化には、異物特異的な分子構造を認識する受容体が必要である。この受容体は、細胞内部のリガンドを認識するRIG-I-like receptorやNod-like receptor、細胞外の受容体を認識するTLRやC-lectin-like receptor等に分類される1。これらの受容体群はパターン認識レセプターと呼ばれており、がん細胞やウイルスに由来する多糖類、脂質、核酸等をリガンドとして認識する。

TLRはパターン認識レセプターの中で最も早くから解析が進んでいるT型膜貫通タンパク質で、ヒトでは10種類のサブタイプの存在が知られている。TLRは、細胞表面に局在して細胞外にあるリガンドを認識するもの(TLR1, 2, 4, 5, 6, 10)と、エンドソームに局在してエンドサイトーシスによって細胞内部に取り込まれたリガンドを認識するもの(TLR3, 4, 7, 8, 9)に大別され、細胞質に存在するアダプター分子 (TICAM-1, TICAM-2, MyD88, Mal/TIRAP)を介して炎症性サイトカインやI型インターフェロンの転写を誘導する。

TLRやそのアダプター分子は、TIRドメインと呼ばれる共通のドメイン構造を有する2。TIRドメインは、TLRの細胞内ドメイン、及びTLRシグナルを仲介する細胞内アダプター分子に存在する。TLRを介したシグナル伝達にはTIRドメイン同士の結合が必須である。

我々はこれまでの研究で、TLR刺激による細胞内シグナル伝達に必須なアダプター分子を2種類同定した(TICAM-1とTICAM-2)3,4。TICAM-1は、TLR3刺激とエンドソームからのTLR4刺激によるシグナル伝達に必須のアダプター分子である。TICAM-1は、TLR3やTLR4のリガンド認識に伴って活性化し、特にI型インターフェロン産生を強力に誘導する。TLR3は、TICAM-1に直接結合することでシグナルが入るのに対して、TLR4はTICAM-1と直接には結合しない。TICAM-2は、エンドソームからのTLR4刺激によるシグナル伝達に必須なアダプター分子である。TICAM-2は、TLR4とTICAM-1の両方と結合することで、エンドソームにおけるTLR4からの刺激をTICAM-1に伝える架橋分子として機能する(図1)。TLR4は、細胞表面ではMyD88とMal/TIRAPと呼ばれるアダプター分子と複合体を形成し、特に炎症性サイトカイン産生を強力に誘導する(図1)。TLR4のリガンドであるリポ多糖はグラム陰性菌の外膜構成成分であり、MyD88, TICAM-1両方の活性化に加えて、カスパーゼを活性化することで致死的全身炎症を誘起しうることから、エンドトキシンとして知られている。

TICAM-2の立体構造解析

TLR4とTICAM-2、及びTICAM-1とTICAM-2の相互作用について理解する上で、TIRドメインの立体構造は重要な手がかりとなる。そこで、我々はTICAM-1とTICAM-2について、X線結晶構造解析とNMR法を用いてTIRドメインの立体構造を決定した5。得られた構造データに基づいてTICAM-1とTICAM-2の複合体の構造を予測した結果、TICAM-2における87番目から89番目の酸性アミノ酸配列が相互作用に重要な役割を果たすと考えられた。

TICAM-2の機能に重要なアミノ酸配列の同定

この構造情報からの予測が実際の結合様式と合致していることを確かめるため、培養細胞におけるTICAM-1とTICAM-2の結合について免疫沈降法によって解析した。HEK293細胞に発現させた野生型TICAM-2は、TICAM-1との結合が観察された。これに対して、87番目から89番目の酸性アミノ酸残基をアラニンで置換したTICAM-2 (E87A/D88A/D89A) 変異体では、TICAM-1 との結合が弱くなっており、実際の細胞内におけるTICAM-1とTICAM-2の相互作用にこのモチーフが重要であることが示唆された。

また、変異体を強制発現させた際の下流のシグナルについても解析した。TICAM-2を培養細胞に強制発現させるとTICAM-1を介したシグナルが活性化 し、I型インターフェロンであるインターフェロンβ遺伝子の転写が活性化される。これに対して、TICAM-2 (E87A/D88A/D89A) 変異体ではインターフェロンβ遺伝子の転写活性が顕著に減少していた。一方で、91番目と92番目の酸性アミノ酸残基をアラニンで置換したTICAM-2 (D91A/E92A) 変異体でも、インターフェロンβの転写活性が顕著に減少していた。この変異体では、TICAM-1とTICAM-2の細胞内における結合能は野生型TICAM-2と同程度認められた。このことからTICAM-2 (D91A/E92A) 変異体は、TICAM-1との結合能が低下するTICAM-2(E87A/D88A/D89A) 変異体とは異なる作用機序でインターフェロンβの転写活性が低下したと考えられた6

TICAM-2の細胞内局在を介した機能制御

TICAM-2のアミノ末端には、脂質修飾の一種であるミリスチル化を誘導するシグナル配列が存在する。ミリスチル化された分子は、脂質相互作用によってエンドソームの脂質2重層と会合する。TICAM-2を介したシグナル伝達には、この脂質2重層への会合が必須である7。野生型TICAM-2とTICAM-2 (D91A/E92A) 変異体について細胞内局在を顕微鏡で観察したところ、野生型のTICAM-2が細胞膜、及びエンドソーム膜へ局在したのに対して、TICAM-2 (D91A/E92A) 変異体では局在が細胞質へと変化していた。さらに、野生型TICAM-2とTICAM-2 (D91A/E92A) 変異体をそれぞれ培養細胞に強制発現させ、細胞を破砕して細胞膜成分と細胞質成分に分画したところ、野生型TICAM-2は細胞膜画分と細胞質画分の両方から検出されたのに対して、TICAM-2 (D91A/E92A) 変異体は細胞質画分にのみ検出された。以上の結果から、TICAM-2 (D91A/E92A) 変異体は脂質2重層に会合する能力を失っていると考えられた。これに対して、野生型と変異体のTICAM-2についてミリスチル化を調べたところ、両分子について同じようにミリスチル化が観察された。この結果から、TICAM-2が膜への局在を示すためには、ミリスチル化だけでは不十分であると考えられた。

終わりに

本研究で得られた結果から、TICAM-2にはTICAM-1との結合に直接寄与する87から89番目の酸性アミノ酸配列の他に、TICAM-2の活性化に重要な細胞内局在を規定する91と92番目の酸性アミノ酸配列が存在することが明らかとなった(図2)。今回明らかとなった新しいTICAM-2の機能部位の情報は、リポ多糖刺激による免疫反応を制御するための手がかりとなることが期待できる。

参考文献

1. Brubaker, S.W., Bonham, K.S., Zanoni, I. & Kagan, J.C. Innate immune pattern recognition: a cell biological perspective. Annual review of immunology 33, 257-290 (2015).
 2. Gay, N.J., Symmons, M.F., Gangloff, M. & Bryant, C.E. Assembly and localization of Toll-like receptor signalling complexes. Nat Rev Immunol 14, 546-558 (2014).
 3. Oshiumi, H., Matsumoto, M., Funami, K., Akazawa, T. & Seya, T. TICAM-1, an adaptor molecule that participates in Toll-like receptor 3-mediated interferon-beta induction. Nat. Immunol. 4, 161-167 (2003).
 4. Oshiumi, H., et al. TIR-containing adapter molecule (TICAM)-2, a bridging adapter recruiting to toll-like receptor 4 TICAM-1 that induces interferon-beta. J. Biol. Chem. 278, 49751-49762 (2003).
 5. Enokizono, Y., et al. Structures and interface mapping of the TIR domain-containing adaptor molecules involved in interferon signaling. P Natl Acad Sci USA 110, 19908-19913 (2013).
 6. Funami, K., et al. Identification of a Regulatory Acidic Motif as the Determinant of Membrane Localization of TICAM-2. J. Immunol. 195, 4456-4465 (2015).
 7. Rowe, D.C., et al. The myristoylation of TRIF-related adaptor molecule is essential for Toll-like receptor 4 signal transduction. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 103, 6299-6304 (2006).

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