Nature/Scienceのニュース記事から



第82回(2015年2月13日更新)

ヒトES細胞を作製した研究者とファン・ウソク氏がジョイントベンチャーで合流

ヒトES細胞を始めてクローニングしたオレゴン健康科学大学のShoukhrat Mitalipov氏が、中国でジョイントベンチャーを立ち上げる見通しである。

興味深いことに、これに韓国でヒトES細胞をクローンしたという研究内容で捏造が認定されたファン・ウソク氏が合流するのではないかとされている。ただし、Mitalipov氏は研究においてはファン・ウソク氏と協力することはないとしている。

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1月13日になされた合意は、以下の3者が共同で利益を探るというものである。

・Shoukhrat Mitalipov博士の会社Mitogenome Therapeutics
 ・中国の幹細胞バンク会社Boyalife
 ・ファン・ウソク氏が運営する動物クローン工場Sooam Biotech Research Foundationの一部門であるH-Bion

この件に関してMitalipov氏は、以下のような発言をしている。

「Boyalifeは大企業だし、中国は大きな市場でもある」
 「自分とファン氏がアカデミックな研究を共同で行うだろうという報道には困惑している」
 「BoyalifeとH-Bionは二者の間で過去に合意した別の内容に基づいて事を進めていくことになっている。Mitogenome TherapeuticsとBoyalifeは、もし交渉が進めば、ヒト以外の霊長類でのモデル作りと臨床応用に取り組んでいく予定である。これら2つの取り組みが将来組み合わさることがあるかどうかはわからない」

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ファン氏は過去に、ヒトES細胞を作製したとする論文を発表し一躍有名になったが、その後捏造が発覚してそれらの論文は撤回された。それ以来、彼はヒトクローンに関する研究を許されていない。現在ファン氏は、イヌクローンに主に取り組んでいる。

ちなみにMitalipov氏は、ミトコンドリア置換に関する研究を臨床応用したいと考えている。ミトコンドリアは細胞内でエネルギーを産生するオルガネラであり、卵子を介して子孫へと受け継がれる。このミトコンドリア内のDNAに問題があると、それも子孫へと受け継がれてしまい、疾患の原因となることがある。

Mitalipov氏はクローン技術を用いて、受精前の卵子内の欠陥ミトコンドリアを正常ミトコンドリアに置換する手法について研究してきた。2009年にはこの技術がサルで機能したことを発表、さらに2012年にはヒトでも機能したことを発表した。これら卵子は体外受精で子孫を作製することが可能である。

しかし、米国では政府による規制が強く、資金も得にくいため、臨床応用が困難な情勢である。そこで目を付けたのが中国である。しかも中国のBoyalifeは既にヒト以外の霊長類でのミトコンドリア病モデルの作製に興味を示しており、さらには規制当局の承認を得るのにも協力が得られそうだとのことである。

ただし、Mitalipov氏はBoyalifeと投資金額等の具体的な合意には至っておらず、まだ交渉を始めたばかりであるとしている。

一方ファン・ウソク氏は、捏造が発覚してヒトクローン研究を追われてからもずっと、ヒトでの仕事に戻りたいと思っていると言われてきた。彼は今でも自分はヒトES細胞をクローンしたと主張しており、カナダとアメリカで技術特許は取っている。しかし、Mitalipov氏と共同研究をするために何を提供できるのかという問い合わせに対する回答はない。

http://www.nature.com/news/stem-cell-star-lands-in-same-venture-as-disgraced-cloner-1.16907

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