Nature/Scienceのニュース記事から



第88回(2015年9月9日更新)

遺伝子情報を公開するジレンマ

       

Precision Medicineとは、遺伝子、環境、生活習慣などの個人差を考慮に入れた、新しい治療および予防のアプローチである。

米国NIHが主導するPrecision Medicine Initiative (PMI)というプログラムは、100万人のボランティアのゲノム情報、健康状態の記録を集める計画である。これらのデータは、遺伝子や環境、生活習慣が、疾患リスクや治療の有効性にどのように影響するかを調べるために使用される。

PMIは来月、プロジェクトの計画を発表することになっているのだが、計画の中でも特に注目されているのが、疾患リスク、特に遺伝子データを、どこまで本人に公開するのかという点である。

公開反対派の考えは、これまでにわかっている疾患関連遺伝子多型はそのほとんどが疾患リスクをわずかに上げるのみであるが、自分がそのような遺伝子多型を持っていると知れば過剰に心配したり、必要のない治療を求める人が出てくるのではないか、というものである。また、遺伝子多型は疾患リスクに対する影響が小さく、ありふれた遺伝子多型を自分が持っていると知っても発症リスクを下げるために長期にわたって行動を変える人はあまりいないであろうと推測されるため、遺伝子情報を公開する必要がないという考えもある。さらには、生データを解釈する技術や知識のない人に生データを渡すのは無責任だという人もいる。

一方で公開賛成派は、自分の遺伝子情報を知ることで自分の健康状態を管理する助けとするべきと考えている。彼らは、人々にゲノム情報を与えたら何が起きるかわからないという不確定性を過剰に心配するべきではないとし、我々は常にあらゆる不確定性とともに生きているのだ、と主張している。

PMIのワーキンググループの中には、ガンがなかなか治癒しなかったが、自らのゲノム配列を調べてそれに基づいた治療を受けたことで、それ以来ガンが再発していないという人もいる。彼は、データを公開するかどうかは各個人が選べるようにするべきだという考えだ。

http://www.nature.com/news/giant-study-poses-dna-data-sharing-dilemma-1.18275

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