Nature/Scienceのニュース記事から



第90回(2015年10月9日更新)

STAP論文に対する最終結論

STAP細胞の検証・再現実験の結果をまとめた論文がNature誌に発表され、それについての記事がハーバード大学医学部のウェブサイトに掲載されている。

2014年初めから研究業界を騒がせたSTAP細胞は、世界中の多くの研究者らが再現を試みたにもかかわらず誰にも再現できなかった。STAP論文に研究不正とみられる箇所が複数見つかったことと相まって、Nature誌に掲載されたSTAP細胞の論文は撤回された。ところが一方で、STAP細胞は根本的には科学的に有効であるとする意見も根強かった。

そこで、7つの国際的な研究機関の研究者らが集まり、ハーバード大学医学部とボストン小児病院の研究者による指揮の元、STAP論文の再現を試みた結果を出し合った。中には、STAP細胞が最初に開発された研究室で行われた実験も含まれていた。さらに、既に公になっているゲノム配列データも、新しく開発されたアルゴリズムを使って解析した。

その結果、STAP論文で報告された発見は、やはり誰にも再現できなかったことがわかった。この結果はNature誌に掲載された。また並行して、多能性幹細胞の普遍的な特徴はどういうものかを述べたもう1つの論文も発表された。これは、研究者らが自分が作った細胞が本当にiPS細胞であるかどうかを判断するためのロードマップとなると期待されている。

研究者らが再現しようとした実験の中に、Oct4という遺伝子の発現を調べた実験がある。Oct4はiPS細胞のマーカーの中でも特に多くの研究者が必須だと認める遺伝子である。Oct4の発現を調べるためには通常、Oct4の存在下でのみ活性化される緑色の蛍光タンパクが使用される。もともとのSTAP論文でも、この緑色の蛍光が検出されたためSTAP論文の著者らは多能性が誘導されたと信じたのだった。

しかし再現実験においては、単に自家蛍光が見られたのみであった。自家蛍光とは、レーザーを当てた時に細胞内の分子がランダムに発光する現象のことである。STAP論文の再現実験において、シグナルとノイズを区別するために適切なフィルタを使用すると、Oct4は検出されなかった。

多能性幹細胞のもう1つの特徴は、テラトーマを形成する能力である。テラトーマとは、マウスに注入された幹細胞が組織へと分化する際に形成される良性の腫瘍のことである。もともとのSTAP論文は、テラトーマが形成されたとしていたが、再現実験においてはテラトーマは見られなかった。

また、ゲノムデータ解析により、もともとのSTAP論文の中でSTAP細胞であるとされた細胞の多くが、その由来になった細胞とはゲノム的に別物であることも明らかとなった。中には性別が異なるケースさえあったという。STAP由来の細胞がES細胞および胎盤幹細胞の両方の性質を持っていることを示そうとした重要な実験においても、そのSTAP由来とされた細胞は実際には、研究室にもともとあったES細胞と胎盤幹細胞が混ざったものであることがわかった。

理化学研究所は既にSTAP論文は科学的に正確ではなかったと結論づけているが、今回Nature誌に掲載された論文により、科学界においても改めてSTAP細胞は否定された形となった。

https://hms.harvard.edu/news/final-word-stap

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