Nature/Scienceのニュース記事から



第95回(2016年1月12日更新)

Cas9の改変によりCRISPR/Cas9ゲノム編集技術の精度が大幅に改善

CRISPR/Cas9は近年主流となっているゲノム編集技術である。主役はCas9という酵素で、guide RNAの助けによりゲノムの標的部位を認識し、DNAを切断する。切断されたDNAは、細胞がもともと持っているDNA修復機構を使って修復されるが、その際に短い配列が削除されたり挿入されたりする。

しかし、この技術も完全無欠ではない。Cas9は時に予期せぬ変異を起こさせる。CRISPR技術が実験室の中だけにとどまらず次第に臨床応用へと近づいてくるにつれて、ヒトの胚でこの技術を利用すべきかどうかの議論もなされるようになり、エラー率を低下させることが強く求められるようになってきた。

これまでの研究から、より短いguide RNAを使うことでエラー率をいくらか下げることができるとわかってきた。さらに昨年12月にはMIT/HarvardのDr. Feng Zhangらが、Cas9を改変してエラー率を下げることに成功したと発表した。また、マサチューセッツ総合病院のDr. Keith Joungらが発表した研究では、Zhangらとは違ってCas9のDNA結合部位を改変することでエラー率を下げることに成功した。

Dr. Joungらによる改変Cas9酵素(SpCas9-HFと名付けられた)を8種のguide RNAで試したところ、DNA切断効率はオリジナルのCas9と同等であった。さらに、オリジナルのCas9は8種のguide RNAのうち7種で複数のエラーを起こしたが、Sp-Cas9-HFは1種のguide RNAで1回のエラーを起こしたのみであった。

治療目的へのCRISPR/Cas9技術の応用例としては、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデルマウスで、その原因遺伝子変異を修復することに成功したと、別のグループが昨年12月に発表した。この研究では、ウイルスを用いてCas9を筋細胞へと導入した。ただし、このウイルスはSp-Cas9-HFに比べて長い期間Cas9を発現させ続けるため、DNAの標的部位以外の部位を切断してしまう可能性がある。

CRISPR/Cas9によるゲノム編集のエラー率を下げるには、Cas9を改変する以外にも、guide RNAのデザインを改変することも有効であると考えられる。だが、これらの努力によりエラー率が改善されても、臨床応用の際にはさらなる安全性の検証が必要だと研究者らは考えている。

http://www.nature.com/news/enzyme-tweak-boosts-precision-of-crispr-genome-edits-1.19114

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