研究者の声:オピニオン



2015年7月17日更新

Nature Newsに掲載されたThe Future of the Postdocsという記事を読んで

Nature newsで2015年4月に発表されてからすでに3ヶ月以上も経つのに未だにfrequently readの上位に残り続けている記事がある。それは「The Future of the Postdocs」という記事である。http://www.nature.com/news/the-future-of-the-postdoc-1.17253

この記事は、ポスドクの現状やポスドク問題について論じている。

記事によると、ポスドクの人数が多すぎることポスドクの給料が低すぎることポスドクから次のステップに進めないで不安定な職のまま高齢化する人が多いこと、などがポスドク問題の主要なポイントであるとしている。

そして、これらの問題を解決するためにこれまでに試みられてきた、あるいは提案されている対策として、

(1)ポスドクとして雇う人数を制限する(入り口を絞る)
 (2)ポスドクの最長年限を決める(一定期間経ったら追い出す)
 (3)ポスドクの給料を上げて雇用形態を正社員並みにする

が紹介されている。

本オピニオン記事では、これら対策案について私なりに考察をしてみたい。

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(1)と(2)は、ポスドク問題を解決するために既に試みられてきた対策だが、残念ながら大した効果は得られなかった。そもそも、「(1)ポスドクとして雇う人数を制限する」は、安く雇えるポスドク(しかも長時間働いてくれる)をたくさん使って論文を出したいPI達が反対するから無理な話であろう。

また、「(2)ポスドクの最長年限を決める」に関しては、ある一定期間を過ぎたポスドクの職位をpostdoctoral fellowからsenior scientistとかstaff scientistとかinstructorとか名前を変えただけの対策である。そのため、ポスドクを卒業したように見えても、実態はポスドクのままというケースが多かった(多少は福利厚生の面で有利になったが)。これも、PI達はポスドクをできるだけ安くたくさん雇いたいのだから仕方がないことであろう。

「(3)ポスドクの給料を上げて雇用形態を正社員並みにする」に至っては、純粋に資金が足りなくて無理である。このことは上記の記事にも指摘されている。(ちなみに、上記の記事によると、ポスドクの多くはこの(3)の案を最も支持しているようである。)

さらに問題なのは、これらの解決策にはある重要な視点が完全に抜け落ちていることにある、と私は考える。それは「PhDの学位を取った後、もしポスドクにならないのなら、彼ら彼女らはどのような職に就けるのか」あるいは「ポスドクとしての最長雇用年限を過ぎた人がその後どのような職に就けるのか」という視点である。

上記で紹介した記事では、ポスドク問題の原因は、「どうしてもアカデミアでPI職を狙いたいポスドクが一定数いて、でもアカデミアのPI職は数が少ないからそれらのポスドクが余ってくることだ」と考察している。そして、そうでない他の多くのポスドク(=アカデミアでPI職を狙っていない)は、アカデミアのPI職以外の職に就いている、と述べられている。しかし本当にそうだろうか?

私が見聞きする限り、実際のところは「アカデミアのPI以外でもいいから正規の職に就きたいが働き口が見つからないためにポスドクにとどまっている人」がかなりの数いるように思う。そして、これらの人たちの存在がポスドクの総数を押し上げているのではないかと感じられる。

また、PhDの学位を取ったばかりの学生も、できればポスドクなんかせずに正規の職に就きたいが、それは難しいので仕方なく最初のステップとしてポスドクになる人が多い。

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あまり意識されていないことだが、ポスドクへの間口はかなり広い。だから、Competitiveで条件の良い職に就けないようなPhD研究者は、とりあえずポスドクとして生活費を稼ぎ生きている。しかし、ポスドクへの間口の広さに比べ、ポスドクを脱出するための出口は悲しいほどに狭い。そのため結果的に、ポスドクという職に人が大量に集まって滞ってしまう。

仮に、上記の記事にある解決策(1)や解決策(2)が効果があったとしよう。そうすればポスドクの人数が減り、もしかしたら、結果として解決策(3)も実行できるようになる(=ポスドクの平均給与が上がる)かもしれない。しかし、それでポスドク問題は解決したことになるのだろうか。仮にそういう状況になったとしても、その陰では職に就けずに路頭に迷っているPhD所持者が大量に出現することになるだけではないのか。

身も蓋もない表現で恐縮だが、アカデミアか企業かにかかわらず、そもそもPhDを持った人材は世の中でそんなにたくさんは必要とされていないというのが事実だろう。必要ないのに毎年大量にPhD所持者が増えていく。それこそがポスドク問題の根本の原因ではないか。であるならば、ポスドク問題の有効な解決策は、PhDを取る人数を減らすこと、つまり、大学院の定員を減らすことになる。

しかしPI達にしてみれば、大学院生もまたポスドク同様に安くこき使える優秀な労働力であり、大学としても客である大学院生を減らすのは商売が立ち行かなくなってしまうことになる。したがって、大学院の定員を減らすという案も、仮にポスドク問題を根本的に解決する可能性があったとしても、実行/実現は難しいかもしれない。

だとすれば、若い人たちが「PhDはそれほど需要がない」という事実をしっかり認識して、「ポスドク問題」に自分が巻き込まれないように慎重に進路を考えるしかないだろう。

しかし、既にポスドクとしてポスドク問題の当事者になってしまっているのなら・・・、そのときは覚悟を決めて一生ポスドクをするか、死に物狂いでポスドクを脱出するか、あるいは誰かがポスドク問題を解決してくれるのを待つしかないのかもしれない。

この業界にいる者として、「The Future of the Postdocs」と聞いたら、誰もが自然と明るいイメージを浮かべるような日が来ることを強く願っている。


執筆者:元ポスドク

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