研究者の声:オピニオン



2015年12月22日更新

画像の編集と改ざんの違い


■ それ、画像の改ざんではないですか?

染色やWestern Blotting、電気泳動など、結果を確認する瞬間はドキドキしますよね。たとえば電気泳動のゲルの写真を撮ったところ、ゴミが写り込んでいたからトリミングした。一部bandが不鮮明な箇所があるからphotoshopでコントラストを調節した。でも、ちょっと待って下さい。それ、やっても問題ないですか?


■ 画像のデジタル化が進み、撮影・編集が簡単にできるようになってきた

スマートフォンやデジカメが身近になり、子どもも含め、多くの人が写真を簡単に編集できるようになりました。InstagramやPhotoshopのような画像編集アプリ・ソフトも数多く存在します。そもそもソフトやアプリを使わなくても、カメラ本体に「美肌モード」のような撮影モードを多数内蔵しているハードもたくさんあります。

画像の編集はとても身近なのです。これは実験で使われる機材にも当てはまります。確実にデジタル化してきています。顕微鏡による細胞や組織の写真、Western BlottingのPVDF膜のケミルミイメージングなどは、デジカメで撮影しTIFFやJPEGファイルとして保存できます。かつてはフィルムを現像して写真をプリントで管理したり、X線フィルムを暗室で現像したりしていましたが、最近そのような機会はめっきり減りました。


■ 撮影、画像編集、は一連の流れにある

少しでも画像に手を加えることを嫌う方もおられます。でも、待ってください。そのデータは、すでに編集されたものかもしれません。

たとえば画像データをRAWファイルで保存している場合、現像ソフトを使ってTIFFやJPEGなどに出力する必要があります。撮影時にTIFFやJPEGで保存している場合は、カメラ内で現像されているはずです。カメラや現像ソフトのメーカーによって得られる写真のテイストは変わります。つまり、手元で確認できる画像ファイルは、すでに何らかの編集が施された結果であると言えないでしょうか。

顕微鏡やゲル読影機などの装置には、専用の編集・解析ソフトが付属していることも多いです。感度や明るさはもちろん、中にはガンマやホワイトバランスなども操れる高機能ソフトもあるでしょう。

たとえばWestern Blottingで使われるLI-CORのスキャナーでは、PVDF膜のスキャン後に明るさを調整する画面(ソフトウェア)が自動的に起動されますし (写真1)、BIO-RADのGel Docの付属ソフトImage Labでは、bandの強さが最適になるAuto Scaleのボタンが存在しています (写真2)。



以上のことから、私は、デジタル機器で撮影したデジタル画像は、編集までが一連の作業と考えます。

ところで、アナログデータではどうでしょうか。デジタル機器のようにクリックひとつで画像を大きく変化させることはできませんが、撮影テクニックや機材の相性などで、得られるデータの質は大きく異なる可能性があります。

たとえば、Western Blottingで欲しいband以外に弱く光る非特異的なbandがある場合、この余計なbandが写らないように、露光時間を一瞬で切り上げるテクニックなどはマニュアルには載っていません。フィルムの現像も業者によって得られるプリントの画質は大きく異なります。デジタルとは違ったテクニックがアナログデータでもやはり必要だったと思われます。


■ 編集と改ざんの境目はどこか

画像の一部だけを切り貼りすることや、データのコピペ(パクリ)が「改ざん」とみなされうるという点においては、おそらくみなさんも同意されると思います。では、どこまでなら編集として許されるのでしょうか。

たとえば、蛍光染色で一部の色を変更することは改ざんでしょうか。Adobeのwebsiteでは、Photoshopを用いて、蛍光色素の赤をマゼンタに変更するテクニックを紹介しています(http://lp-tech.net/archives/448)。色盲の方には緑とマゼンタの組み合わせが視認性に優れているためです。色の一部を別の色に変更することは改ざんではないのでしょうか。

私は「写真全体にうすく編集すること」は問題ないと思っています。しかし、「濃い」編集が必要な場合は不自然な結果になりやすいものです。そのため、実験をやり直したり、条件を変えたりして、もう一度撮影しなおした方が、仕上がりは良くなると思っています。

残念ながら、意図してデータを改ざんしている研究者もおられるのでしょう。ゆえに、現時点では法による規制も必要だと思います。やがて、画像に対する取り決めができてくるのではないでしょうか。将来的には、色盲バリアフリーの色の編集が必須条件になっているかもしれませんね。


執筆者:研究もしている医師
http://camera-research-doctor-144.tumblr.com/

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