研究者の声:オピニオン



2016年12月27日更新

AIがバイオの研究業界を劇的に変えてしまうかもしれない

AI(人工知能:artificial intelligence)が流行っています。毎日のようにニュースで「AI」という単語を目にするようになり、医学生物学研究においてもAIが活用されているというニュースが珍しくなくなってきました。

ただ、実際のところAIという定義は曖昧で、ちょっと処理速度の速いコンピューターを使って行ったことまで「AIを使って・・・」という表現をされることもあるように思います。

ですが、AIをどのように定義するかは別として、コンピュータ全般の技術進歩は目覚ましく、我々バイオ業界においても、その影響を受けることは必至です(前向きな単語を用いると「恩恵」となります)。

そこで本記事では、AIを含むコンピュータ分野の技術革新が、今後のバイオ業界(特にアカデミック領域)をどう変えていくかを、勝手に予測してみようと思います。

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良くも悪くもバイオ業界の共通語は英語です。そして、それは多くの日本人にとっては、世界を相手に研究するときの大きな障壁となっています。事実、英語ネイティブと多くの日本人では、英語論文を書くスピードは段違いではないでしょうか。そして、AIの発展は、バイオ業界の共通語である「英語」に大きな変化をもたらす可能性があります。

英語ノンネイティブの研究者にとって英語で論文を書くのは本当に骨が折れます。文章のコピペがよくないということはわかっていても、ついつい過去の論文で使われている英語表現を使ってしまう人もいるのではないでしょうか。ですが、論文中のコピペ(文章の剽窃)に対する風当たりは年々厳しくなってきています。AIの進歩に従って、英語のコピペはすぐに「バレてしまう」ようになるでしょう。

実際、そのプロトタイプ的なプログラムは既に主要な出版社には導入されており、原稿中のコピペは投稿された時点ですぐに自動でチェックされています。ただ、現在の剽窃チェックのプログラムはまだ不完全なところもあります。しかし、そのプログラムの中身は当然改善されていくので、今後は原稿の文章(英語表現)がほぼオリジナルでないと論文として認められないというルールが出来上がってしまうかもしれません。そうなると、我々日本人のように英語がネイティブでない研究者は、今以上に不利な条件で研究活動を強いられる可能性があります。

ただ、AIの発展は、英語ネイティブでない研究者を助ける可能性もあります。一つにはAIが英文校正を自動で行ってくれるようになるという点です。現在、英語ノンネイティブな日本人研究者が書いた英語原稿の英文校正は、(1)英語が得意な知り合いの日本人、(2)英語ネイティブの友人、もしくは(3)有料の英文校正サービス、にお願いするという方法が一般的です。ただし、その研究論文の内容に精通し英文校正の経験がなければ、ノンネイティブな研究者が書いた英語論文を自然な形の英語論文に校正するのは難しいです。

実際、有料の英文校正サービスを頼んだにも関わらず、論文投稿後に「英語が不十分」というコメントが戻ってくることは少なくありません。また、日本人がアメリカにポスドク留学した場合、そこでの実験結果をもとに原稿を書いたとしても、そこのボス(英語ネイティブ)に「自分で書き直した方が楽だから」という理由でMethodの項目以外全て書き換えられるということがよくあります。

しかし、AIの場合は過去の論文で使われている英文情報が入力済み(別の表現を使えば「学習済み」)なので、AIに英文校正をお願いすれば、その場その場の状況に応じて適切で自然な英文へと校正してくれるようになるでしょう。また、もっと言えば、英文校正なんて面倒なことをお願いせずとも、日本語で論文を書けば、それをAIが英語論文へと自動で翻訳してくれるようになるかもしれません。

そして、英語論文を書くという「経験を積んだ」AIに、研究論文を書くために必要な論理的手法と過去の論文の検索方法を学ばせられれば、実験の方法と図ならびに図の説明文(Figure Legend)を用意するだけで、英語での完成論文を一瞬で作成してくれるようになるかもしれません。

そして、そこまで行けばAIの進歩は止まりません。その研究論文の目的と、実験プロトコルおよび生データを入力するだけで、完成原稿が出来上がるようにまでなるでしょう。さらに、この段階までAIが賢くなると、研究の目的を一文で入力すれば、過去の論文を検索し、何がわかっていないかを一瞬で判断し、そのわかっていないことを明らかにするために必要な実験計画をAIが出してくれるようになるでしょう。そして、AIが提示した計画に従って実験をしてデータを出し、その実験データを元にAIが研究論文を書くようになるかもしれません。

ここまで来ると、雑誌のImpact Factorなどは用をなさないかもしれません。どこの雑誌に論文が出たか、どこの研究グループから論文が出たか、が少なからず重要視されている現在とは様相がガラッと変わり、発表された実験データそのものが重要な意味を持ってくるでしょう。研究論文は文字通り「実験データが収載された書類」として扱われ、実験データを軸に一つの巨大なデータベースとなります。そして、AIは必要に応じてそれらデータベースから論文(実験データ)を参照して次の研究へと役立てます。

そして、事態はより極端なところまで進むでしょう。研究の目的を入力する必要すらなく、AIが過去の論文から明らかにすべき研究トピックをリスト化し、それぞれについて必要な実験リストを作成するようになると思われます。そして、我々研究者は、そのリストの中から自分が出来る実験に手を挙げて、報酬と引き換えに実験をするようになるのかもしれません。

その場合、おそらくAIは独自に研究者のデータベースを作成済みのはずなので、AI自身が作成した実験リストのどれを誰にさせるかをAIが各研究者に指示するようになるかもしれません。そして、それを拒否した研究者(もしくは能力不足等で実施できなかった研究者)は以後、ブラックリストに入れられて仕事が入ってこなくなるかもしれません。

この時点では、我々生身の研究者は単にAIの実験補助員(テクニシャン)としての役割しか与えられなくなっているのかもしれません。今よりも公正かつ迅速に研究が進むようになるので人類全体にとっては嬉しい世界かもしれませんが、我々研究者にとっては・・・な感じですね。

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以上、場末の研究者の勝手な将来予測(妄想?)でした。バイオ業界が私の妄想通りに進むことはないと思いますが、もし万が一私の予測が正しいとすれば、このような状況になるのに15年はかからないように思います。皆さんはどうお考えでしょうか???


執筆者:今は研究を楽しんでいる中年研究者

2016年12月28日追記:記事タイトルが記事の内容を正確に表していなかったため変更しました
 「AIの進歩によるバイオ研究業界への影響」→「AIがバイオの研究業界を劇的に変えてしまうかもしれない」


博士号を取得したけれど研究者以外の職に進みたいと思っている方におすすめの書籍です。

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