研究こぼれ話



2012年1月8日

ケンキュウシャになりたかった男

昔々のお話です。

C国という貧しい国に男が住んでいました。男は日ごろから「有名になりたい」「お金持ちになりたい」と思っていました。しかし男は、真面目にコツコツと働くことは大嫌いでした。そこで、幻の職業である「ケンキュウシャ」になることを決意しました。

「ケンキュウシャ」はC国では憧れの職業でしたが、C国には「ケンキュウシャ」は一人もいませんでした。そのため男は、自分がC国で唯一の「ケンキュウシャ」になれば、適当に講演をしたり本を書いたりコンサルタントをしたりするだけで簡単にお金儲けが出来ると思いました。しかし、「ケンキュウシャ」になる方法を知っている人間はC国にはいませんでした。

いつもなら簡単に諦めてしまうのですが、「ケンキュウシャ」としての悠々自適な人生を夢見て、男は必死で色々な情報を集めました。そして遂に、A国という金持ち国家に「ケンキュウシャ」がいることを突き止めました。

知り合いという知り合いに拝み倒してお金を借りて、男はA国まで行きました。C国からA国まで行くためには、C国のお偉いさん達の許可が必要であったので、A国に到着したときには集めたお金の半分を使っていました。

さて、事前の調査結果の通り、A国には何人かの「ケンキュウシャ」がいました。でも、どの「ケンキュウシャ」も男を相手にしませんでした。見ず知らずの人間に「ケンキュウシャ」になる方法を教えてくれるほど世の中は甘くありませんでした。

男は考えました。どうすれば相手をしてくれるのだろうか、と。

C国ではお金をあげると喜ばれます。そこで、「ケンキュウシャ」の一人に小額のお金を渡してみました。ニッコリされました。でもそれだけでした。

男は覚悟を決めました。ある「ケンキュウシャ」に、自分が持っているお金の全てを渡しました。男は「ケンキュウシャの弟子」となることに成功しました。

しかし男は、「ケンキュウシャ」の職場でいつも雑用ばかりやらされていました。「ケンキュウシャ」という職業が何なのかすらも知らされませんでした。そうこうしているうちに3年の月日が経ちました。男は悩みました。楽してお金儲けをするはずが、これでは単なる奴隷ではないか、と。

この3年間に男がしたことは「ケンキュウシャ」の小間使いのみでした。男が仕入れた「ケンキュウシャ」に関する情報と言えば、彼らが皆「るせ」「やちいね」「すんえいさ」といった不思議な文字列のバッジをつけていることだけでした。 ですが、それらのバッジをどうやって手に入れれば良いのかはわからずじまいでした。

そんなある日、男はひらめきました。バッジを自分で作ってしまったらどうだろうか、と。男は小間使いをする間、仕えている「ケンキュウシャ」のバッジを良く観察しました。そして、試行錯誤の末に本物そっくりのバッジを作ることに成功しました。

はじめに、そのバッジをつけて町に買い物に出ました。気づく人はいませんでした。 道ですれ違った人達はみな男に向かって微笑んでくれました。また店員は、これまでに味わったことのないような丁寧な扱いをしてくれました。

次に、別の「ケンキュウシャ」の下で小間使いをしている人間たちにバッジを見せました。誰一人として疑うものはいませんでした。それどころか、どうやって「ケンキュウシャ」になったのかを聞いてくるものさえいました。せっかくなので男は適当なことを言って教えた振りをして小金を巻き上げました。

最後に男は、自分と面識のない「ケンキュウシャ」に自作のバッジをつけて会いにいきました。その「ケンキュウシャ」は男を仲間だと思って自分の家に招待しました。パーティーは豪華でした。美味しいものを沢山ご馳走になりました。ついでに高価なものをこっそりと拝借して質屋で換金しました。

男は大満足でした。本物の「ケンキュウシャ」がいるA国ですら、自分の作った偽者のバッジに気づくものはいなかったのです。C国でばれるわけがありません。

そこで男はC国に戻り、C国で唯一の「ケンキュウシャ」として適当に周りを騙しながら末永く幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。


執筆者:ケンキュウシャになれなかったポスドク

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