研究こぼれ話



2012年1月30日

研究留学をするとお金持ちになれるか?

研究留学(海外で研究を行う)をすると、お金持ちになれるのでしょうか?いきなり結論ですが、研究留学をしてもお金持ちにはなれません。ですが、もちろん一般人以上にお金を稼いでいる人もいます。そこで、研究留学をしている人をパターンごとに分類し、お金持ちに成り易いかどうかを論じていこうと思います。


1. 企業からの留学

企業からの研究留学では、生活費(住居費)・渡航費・交通費・保険代などが支給される上に、通常の給料とは別に海外勤務手当などが与えられます。したがって、企業に勤める研究者で海外に来る人は、留学中にかなりのお金を手にすることができます。

一昔前(バブル期より前)は、留学を1年すると家が建つとまで言われていましたが、流石に現在はそんなことはないようです。しかし、それでも研究留学をしている日本人の中では、企業留学生の財政事情は群を抜いて良いです。

ただ、企業から留学している人の多くは、会社からの派遣ということによる研究などの自由度の少なさに不満を抱いているようです。ですが、資金的&将来的な安心感を有している上、会社内での様々な確執から(一時的とはいえ)開放されるので、精神的にも平和に暮らしている人が多いです。

近年では、国際的な治安の悪化/長引く日本の不況/海外に人を派遣するメリットの減少、などの理由から自社の研究員を研究留学させる企業は少なくなってきました。しかし、それでも大企業では比較的頻繁に研究員を海外派遣させているようです。また、企業からの海外派遣は、社内での報奨制度的な意味合いが強いことが多く、そのため派遣された人は帰国してからの地位も保障されやすいです。したがって、企業から留学する人は基本的には留学中も留学後もお金に困らないと思われます。


2. 国立の研究機関・大学関係からの留学

基本的には国内で所属しているところから給料が出て、留学先からは給料をもらっていない人が多いです(短期間なら出張扱いとして日本から給料が出ることがある)。

彼らの給料は特別多いということはないので、一般的には普通の生活(質素な生活)をしている人が多いようです。したがって、国立研究機関/大学関係からの留学という世間が感じる華やかな印象(?)とは異なっているようです。

ただし、近年では大学などでの職をキープしたまま海外に留学することが難しくなってきています。そのため、研究者の間では、国内に復帰できる場所をキープしたまま研究留学を出来るだけでも良しと見なす風潮にあるようです。(そのためか、日本に帰りたくても帰る場所がなく困っている研究留学生から見ると、こういった人たちは羨ましく映ることがあるみたいです)

結論として、この分類に属する人たちの留学中は、金銭的には中程度の待遇を受けているといった印象を受けます。ただ、それでも国立の研究機関/大学関係から派遣されるため、色々な特典を受けられることはあります。

彼らの帰国してからの金銭的なことですが、これは本当に人それぞれなので確定的なことは言えません。研究留学中の業績だけでなく、その人の能力・努力・運・コネなどによって変わってくるようです。


3. 医師の研究留学

全くの無給(日本の医局からも留学先からも給料をもらっていない)で留学してくる人の割合が少なくありません。このような人は、留学時代は収入がゼロなので基本的には生活が苦しいらしいです(本人たちに言わせると)。

ただ、無給であっても実家(自分または配偶者の親)が裕福であることが多く、金銭的に苦労をしている人は少ないように感じます。また、夏休み/冬休みと称して数週間日本に戻って医者バイトで短期間にまとまった金額を稼ぐことも可能ですので、無給留学のお医者さんの生活が厳しいといった印象はあまりありません(周りから見る限りは)。

さらに、日本に帰国すればまた医師としての仕事が出来るので、一般の人よりも裕福な生活ができます。そのため、研究留学をする医師の中には、無給留学は少し長い休暇と認識している人もいるようです。

もちろん、留学先から普通にお給料をもらっている人もいますし、お給料がなくても種々の奨学金制度などを利用して一定の収入を得ている人もいます。しかし、そういう収入は一般的にはやや少なめ(年に350万円前後のことが多い)なので、その収入だけで生活をしている人は、(留学中は)そんなに裕福な暮らしはしていないです。ただ、研究留学をする医師の年齢は平均すると30代半ば〜後半となるので蓄えもそれなりにあり、金銭的に苦労している人は少ない印象を受けます(研究留学をすることで多くのお金を稼いだという医師はほとんどいませんが)。


4.日本に基盤のない研究留学生

次は、日本に基盤のない人(日本に帰国しても就職する場所が確定していない人)の場合についてです。ここに属する人は、主にポスドクの職になります。日本での就職先を確保せずに研究留学をしている人は、別の言い方をすれば海外で働いているということです。したがって、このような人は基本的には職場から何らかの収入を得ています。何らかの収入とは具体的には、下記の3種類のどれかに当てはまりまることが多いです。

[1] 留学先の研究室からの収入(給料)
[2] 日本の奨学金制度からの収入
[3] 海外の奨学金制度からの収入

私が知る限りでは、上記の3種類のうちでは[1]の割合が最も大きいです。ただ、留学先の研究室が有名ラボなどの場合、ボスが給料なしでよければ来てもいいよということがあります。そのときは、[2]のように留学前に日本の奨学金制度(Fellowship)からの収入が確定してから留学することが多いです。[3]は、留学先の研究室のボスの方針で自分の給料は自分で賄えという感じで留学してから海外の奨学金制度に申請する(させられる?)場合を示しています。この場合は、留学した直後は研究室から給料が出ていることが多いようです。

それでは、これらの収入はどのくらいに設定されているのでしょうか?残念ながら、私は正確な平均値やバラツキなどは知りません。ただ、知り合いからの情報や、その他の情報などを合わせると、[1]の場合は年間3万ドル〜5万ドルが一般的、[2]の場合は最高で年間500万円強、[3]の場合は基本的には年間5万ドル前後、となっています。日本の助手の場合は年間600万円強〜で、一部上場企業の給料(30才前後:Ph.D.持ち)は年間700万円前後のようなので、上記[1]-[3]のお金は同世代の日本の研究者の給料よりもやや低目に設定されていることになります。しかし、研究留学をしている人は福利厚生や将来の保障がないため、実際に手元に残るお金の差は給料の額面の差以上になってきます。

したがって、日本に基盤のない人(日本に帰国しても就職する場所が確定していない人)は、基本的には厳しい経済事情のもとで生活していると言えます。ただし、ラボのボスをしている人の場合、話は変わってきます。そういう人達の給料はポスドクよりもずっと高いです(その分、苦労も多いですが)。しかし、ラボのボスを研究留学と言うのはおかしいので、そのような人達の経済事情をここで論じるのはやめます。

***

結論として、研究留学をしたからと言ってお金持ちになることはありません。特に、Ph.D.の研究者が日本に職を確保しないまま研究留学をした場合の経済事情は、あまり良いものではないです。しかし、研究留学には貯金通帳の数字には現れないメリットも多く存在しています。現在の日本の若者は内向き指向と言われていますが、もしチャンスがあったら積極的に海外に飛び出ていくのも悪くないのではないかと思います。


執筆者:浦島太郎

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