研究こぼれ話
Tweet2014年11月10日更新
千と千尋の神隠しの名シーンをポスドク風に改変してみました
Kazutoshi「あの・・・すみません。あ、あの・・・Kamajiさんですか?」
Kamaji「ん・・・?ん、んんー?」
Kazutoshi「あの、日本のボスに言われてきました。ここで働かせてください」
ポーン(メールが届く音)
Kamaji「ええい、こんなに一度に・・・。お前ら、仕事だー!」
タタタタターン(メールを返信する音)
Kamaji「わしゃあ、Kamajiだ。このラボのルーチンの実験の責任者をさせられてる古参のシニアポスドクだ。(ラボメンバーの方を向いて)お前ら、はやくせんか!」
Kazutoshi「あの、ここで働かせてください!」
Kamaji「ええい、手は足りとる。そこら中、独立を諦めた高齢余剰ポスドクだらけだからな。いくらでも代わりはおるわい。」
ビシャ・・・(ラボメンバーの一人が1xPBSを調製してるときに10xPBSのボトルを倒す)
Kazutoshi「あっ。」
(KazutoshiがこぼれたPBSを拭くためにペーパータオルを用意する間に、PBSをこぼしたラボメンバーが立ち去ってしまう)
Kazutoshi「あっ、どうするのこれ?ここにおいといていいの?」
Kamaji「手ぇ出すならしまいまでやれ!」
Kazutoshi「えっ?」
(KazutoshiがこぼれたPBSを拭いて、メスシリンダーで調製していた1xPBSをボトルに入れると、周りのラボメンバーたちがKazutoshiに作業をしてもらいたそうな目で見てくる)
Kamaji「こらあー、お前らー!また職探しをする生活に戻りてぇのか!?(Kazutoshiの方を向いて)あんたも気まぐれに手ぇ出して、人の仕事を取っちゃならねぇ。働かなきゃな、こいつらは無職になっちまうんだ。ここにあんたの仕事はねぇ、他を当たってくれ。」
(ラボメンバー達がブツブツと何かを言い出した)
Kamaji「なんだおまえたち、文句があるのか?仕事しろ仕事!!」
ガチャ(ドアが開く)
Ling「ゲストが持って来たお菓子だよー。なぁんだまたケンカしてんのー?よしなさいよもうー。(Kamajiの方を向いて)滅菌したチップは?ちゃんとオートクレーブから出しといてって言ってるのに。」
Kamaji「お、おぅ・・・。(ラボメンバーの方を向いて)お菓子だ、休憩ー!」
(LingがKazutoshiに気づく)
Ling「うわ!?英語が微妙な日本人がいちゃ・・・やばいよ!さっきPI連中が大騒ぎしてたんだよ!?」
Kamaji「わしの・・・遠い親戚だ。」
Ling「親戚ぃ?!」
Kamaji「働きたいと言うんだが、俺のところは手が足りとる。おめぇ、Yu Bahvaンとこへ連れてってくれねえか?後は自分でやるだろ。」
Ling「やなこった!あたいがクビになっちゃうよ!」
Kamaji「これでどうだ?ベルギー直輸入のトリュフだ。上物だぞ。どのみち働くには、このラボのボスのYu Bahvaと契約せにゃならん。自分で行って、運を試しな。」
Ling「チェッ!そこの子、ついて来な!」
Kazutoshi「あっ。」
Ling「あんたねぇ、はいとかお世話になりますとか言えないの!?」
Kazutoshi「あっ、はいっ。」
Ling「どんくさいね。はやくおいで。スーツケースなんか持ってどうすんのさ、コートも!」
Kazutoshi「はいっ。」
Ling「あんた。Kamajiにお礼言ったの?少しは英語喋れるんだろ?」
Kazutoshi「あっ、ありがとうございました。」
Kamaji「グッドラック!」
***
Ling「Yu Bahvaは隣の建物のてっぺんの教授室にいるんだ。あっちのエレベーターから行っといで。」
(KazutoshiがYu Bahvaの部屋に辿り着く。)
(部屋の奥の方に誰かがいるのに気がつく)
Yu Bahva「ノックもしないのかい!?」
Kazutoshi「!?」
Yu Bahva「ま、礼儀も知らない奴が来たもんだね。まぁ、いいわ。入っておいでーな。」
Kazutoshi「あっ、えっ、あ、あの・・・」
Yu Bhava「ボソボソ喋らないで、聞き取れるようにはっきり話しておくれ。」
Kazutoshi「あの・・・ここで働かせてください!」
(Yu Bahvaがギロリと睨む)
Yu Bahva「馬鹿なおしゃべりはやめとくれ。そんなひょろひょろに何が出来るのさ。ここはね、お前らのようなお上品な世間知らずが来るところじゃないんだ。野心に満ちたポスドクが独立を目指して馬車馬のように働くラボなんだよ。それなのにおまえのボスはなんだい?お客さま留学を希望するような人間ばかり紹介してきて。当然そんな依頼は適当にあしらうさ。おまえもこのラボには留学できないよ。・・・研究棟のセキュリティーセンターに電話してやろう。ぇえ?不法侵入、と伝えてやろうか。へへへへへっ、震えているね。・・・でもまあ、良くここまでやってきたよ。誰かが親切に世話を焼いたんだね。誉めてやらなきゃ。誰だい、それは?教えておくれな。」
Kazutoshi「ここで働かせてください!」
Yu Bahva「まぁだそれを言うのかい!」
Kazutoshi「ここで働きたいんです!!」
Yu Bahva「だぁーーーまぁーーーれぇーーー!!!なんであたしがおまえを雇わなきゃならないんだい!?見るからにグズで!甘ったれで!指示待ちで!英語の話せない人間に、仕事なんかあるもんかね!お断りだね。これ以上穀潰しを増やしてどうしようっていうんだい!それとも・・・論文にもならないグラント申請用の予備実験だけをずっとやらせてやろうかぁ?」
(Yu Bahvaの部屋に置いてあったベビーカーから何かが聞こえる)
Yu Bahva「はっ!?」
赤ん坊「あーん、あーん、あーーー」
Yu Bahva「どうしたの坊や、今すぐミルクをあげるからね・・・。(Kazutoshiに向かって)まだいたのかい、さっさと出て行きな!」
Kazutoshi「ここで働きたいんです!」
Yu Bahva「大きな声を出すんじゃないよ。(赤ん坊に向かって)あー、ちょっと待ちなさい、ね、ねぇ〜。いい子だから、ほぉらほら〜。」
Kazutoshi「働かせてください!!!」
Yu Bahva「わかったから静かにしておくれ!(赤ん坊に向かって)お〜お〜よ〜しよし〜」
(ミルクを飲んで赤ん坊が落ち着く)
Yu Bahva「契約書だよ。そこに名前を書きな。英語を読むのは出来るんだろ。その代わり、せめて健康保険代だけでも出して欲しいとか、簡単に論文になるプロジェクトが欲しいとか言ったらすぐ国に帰ってもらうからね。」
Kazutoshi「あの、名前をここに書けばいいんですか?」
Yu Bahva「そうだよ。もぅ、ぐずぐずしないでさっさと書きな!・・・っ全く。つまらない返信メールを送っちまったもんだよ。奨学金を持って来たら留学の受け入れを考えてもよいだなんて・・・。サインもしたかい?」
Kazutoshi「はい・・・。」
Yu Bahva「ふん、Kazutoshiというのかい?」
Kazutoshi「はい。」
Yu Bahva「長ったらしい名だねぇ。今からおまえの名前はKazだ。いいかい、Kazだよ。分かったら返事をするんだ、Kaz!!!」
Kazutoshi「は、はいっ!」
(Yu BahvaがラボのNo.2で現場を仕切るHa Kuを電話で呼ぶ)
Ha Ku「お呼びですか。」
Yu Bahva「今日からその子が働くよ。世話をしな。」
Ha Ku「はい。(Kazutoshiに向かって)名はなんという?」
Kazutoshi「え?かずと・・・あ、Kazです。」
Ha Ku「ではKaz、来なさい。」
***
(Ha Kuに現場の人間だけでのミーティングがこれからあることを聞いて、会議室に一緒に行く)
Kazutoshi「Ha Ku、あの・・・」
Ha Ku「無駄口をきくな。私のことはDr. Ha Kuと呼べ。」
Kazutoshi「・・・っ」
(ミーティングをする会議室にて)
ChiChi(ミニボス/ラボのNo.3)「いくらYu Bahva教授のおっしゃりでも、それは・・・」
Annie(ミニボス/ラボのNo.4)「英語が喋れないと困ります。」
Ha Ku「すでに契約されたのだ。」
ChiChi「なんと・・・」
Kazutoshi「よろしくお願いします。」
ポスドクの誰か「あたしらのグループには寄こさないどくれ。」
テックの誰か「英語が喋れないんじゃ仕事にならんわい。」
Ha Ku「ここで三週間も働けば意思疎通ぐらいは何とかなろう。それで使い物にならなければ、Yu Bahva教授に直訴でもするがいい。ミーティングは終わりだ!Lingはどこだ。」
Ling「えぇーっ、あたいに押しつけんのかよぅ。」
Ha Ku「人手を欲しがっていたな。」
ChiChi「そうそう、Lingが適役だぞ。」
Ling「えーっ。」
Ha Ku「Kaz、行け。」
Kazutoshi「はいっ。」
Ling「やってらんねぇよ!埋め合わせはしてもらうからね!」
ChiChi「はよラボに戻れ。」
Ling「ふん!・・・来いよ。」
(会議室からラボに向かう途中)
Ling「お前、うまくやったな!」
Kazutoshi「えっ?」
Ling「お前、とろいからさ、心配してたんだ。油断するなよ、わかんないことはおれに聞け。な?」
Kazutoshi「うん。」
Ling「ん?どうした?」
Kazutoshi「足がふらふらする。」
(ラボに到着する)
Ling「ここがおれたちの実験室だよ。毎日実験してたら何かの論文にはなるさ。共用の実験机。実験後は綺麗にするんだよ。」
Kazutoshi「Lingさん、あの・・・」
Ling「なに?」
Kazutoshi「ここにミニボスっていうひと沢山いるの?」
Ling「沢山?あんなの沢山もいたらたまんないよ。あいつらはYu Bahvaに気に入られることしか考えてないから気をつけな。」
Kazutoshi「んっ・・・ん・・・」
Ling「ん?おい、どうしたんだよ?しっかりしろよぅ。」
近くにいたラボメンバー「うるさいなー。なんだよLing?」
Ling「気持ち悪い奴だけどさ、新入りだよ。」
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執筆者:ススワタリのようなポスドク(コンペイ糖すき)