疾患・研究サマリー
Tweet糖尿病入門(2013年4月23日更新)
概要
糖尿病は、血中および尿中のブドウ糖濃度が慢性的に上昇する疾患である。ブドウ糖は摂取した食物に由来する。インスリンは、ブドウ糖を細胞へと取り込ませる働きを持つホルモンであり、これにより細胞はブドウ糖をエネルギーとして利用できるようになる。
1型糖尿病では、体がインスリンを産生することができない。2型糖尿病では、体がインスリンをうまく利用することができない。インスリンが十分に働かないと、ブドウ糖が血中にたまってしまう。
高血糖は、時間が経つにつれて重大な問題を引き起こす。目、腎臓、神経が障害されることがある。糖尿病はさらに、心疾患や脳卒中を引き起こしたり、さらには足の切断が必要となることさえある。妊婦も糖尿病にかかりやすく、この場合は妊娠性糖尿病と呼ばれる。
糖尿病の診断は血液検査で行われる。運動、体重管理、および食餌療法により糖尿病をコントロールすることができる。血糖値は継続的に測定し、処方された薬を投与する必要がある。
原因・発症率・危険因子
インスリンは膵臓で産生されるホルモンで、血糖値を制御している。糖尿病は、インスリンの量が少なすぎるか、インスリンに対する抵抗性、およびこれら両方により引き起こされる。
糖尿病を理解するには、まず最初に、食物が通常どのようにして分解されて体のエネルギーとして使われるのか理解するのが大切である。食物が消化されるときには以下のようなことが起きる。
・ブドウ糖と呼ばれる糖が血中に入る。ブドウ糖は体の燃料源である。
・膵臓がインスリンを産生する。インスリンの役割は、ブドウ糖を血流から筋肉や脂肪、肝細胞などに移行させて、燃料として利用可能にすることである。
糖尿病の患者は、体が糖を脂肪や肝臓、筋肉へと移行させてエネルギーとして利用・保存させることができないために、血糖値が高くなっている。これには、以下のような原因が考えられる。
・膵臓が十分にインスリンを産生できない
・細胞がインスリンに対して正常に反応しない
・上記の両方
糖尿病には主に2つの種類がある。これらの2種類の糖尿病では、原因と危険因子が異なる。
(1)1型糖尿病は、年齢に関わらず起こりうるが、主に小児や十代の若者に多い。このタイプの糖尿病では、膵臓のランゲルハンス島でインスリンを分泌するβ細胞が死滅することにより、体がインスリンをほとんどまたは全く産生できない。その原因は主に自分の免疫系が膵臓を攻撃するためであると考えられる。毎日のインスリン注射が必要である。
(2)2型糖尿病はより一般的なタイプで、主に成人で見られる。しかし、肥満率の上昇に伴い、近年では若者でもこのタイプの糖尿病を診断されることが多くなってきている。2型糖尿病の患者は、病識のない人が多い。
(注:妊娠性糖尿病は、妊娠前には糖尿病がなかった女性が妊娠中に高血糖を起こす場合をいう)
アメリカには糖尿病患者が2000万人以上いると言われている。さらに4000万人のアメリカ人が前糖尿病状態にあると考えられ、これらのケースはいずれ2型糖尿病へと移行する危険性がある。
症状
高血糖は次のような症状を引き起こす。
・視界不良
・過度の口渇
・疲労感
・空腹
・頻尿
・体重減少
2型糖尿病はゆっくりと進行するため、高血糖でも症状の出ない場合もある。1型糖尿病の症状は短期間で進行するため、診断がつく頃には症状が非常に重くなっていることもある。
糖尿病に罹患してから長期間経つと、次のような問題が起きることがある。
・夜に目が見えにくくなったり、光に対して過敏になったり、失明することもある。
・足や皮膚に痛みや感染が生じる。足の切断が必要になることもある。
・体内の神経が障害を受けて、痛みやぴりぴりする感じがしたり、あるいは感覚が失われる
・神経障害のため、食べたものを消化できなくなり排泄に問題が生じる。また勃起障害も起きうる。
徴候と診断
尿検査で高血糖がわかることもあるが、尿検査単独では糖尿病とは診断されない。血糖値が200 mg/dL以上の場合、糖尿病が疑われる。確定診断のためには、次のような検査が行われる。
血液検査:
(1)空腹時血糖値 --- この値が126 mg/dL以上という結果が2回出れば糖尿病と診断される。100から126 mg/dLの場合は、空腹時血糖値の異常、または前糖尿病状態と呼ばれ、この状態は2型糖尿病の危険因子であるとされる。
(2)ヘモグロビンA1c検査 --- 5.7%未満が正常、5.7%から6.4%が前糖尿病状態、6.5%以上が糖尿病と診断される。
(3)経口的ブドウ糖負荷試験 --- ブドウ糖飲料を飲んでから2時間後の血糖値が200 mg/dL以上の場合、糖尿病と診断される。この試験は2型糖尿病の診断によく使われる。
症状のない2型糖尿病の検査は、次のような人に薦められる。
・肥満で、なおかつ他の危険因子のある小児(10歳から始めて2年毎)
・BMIが25以上の肥満でなおかつ他の危険因子のある成人
・45歳以上の成人(3年毎)
治療
1型糖尿病には有効な根本治療法がなく、早期からインスリン治療が行われる。
2型糖尿病の初期には、生活習慣を変えることにより病気を治すことが可能であるため、食餌療法と運動療法が行われる。これで血糖値が正常レベルにまで下がるならばそれで問題ない。さらに、2型糖尿病は減量手術により治療可能な場合がある。生活習慣の改善により血糖値が十分に下がらない場合は、経口血糖降下薬が投与される。それでも血糖値が正常化しない場合は、インスリン注射が行われる。経口血糖降下薬には以下のようなものがある。
スルフォニル尿素系(SU薬)
膵臓のβ細胞に働きかけて、数時間にわたりインスリン分泌をうながし、血糖値を下げる。空腹時の血糖値をよく下げるという特徴があり、経口血糖降下薬で、最も多く使われている薬である。患者の膵臓にインスリンを分泌する力がないと効果が期待できない。インスリン分泌が増え、ブドウ糖を効率よく利用できるようになると体重が増えることがある。また、長く使っていると効果が現れにくくなる。服用後、食事をとらないと低血糖を起こす可能性がある。
副作用:低血糖、体重増加
ビグアナイド系(BG薬)
肝臓での糖新生を抑え、筋肉などでのブドウ糖の利用を促し、さらに腸管でのブドウ糖吸収を抑制することにより血糖値を下げる。SU薬に比べると血糖値を下げる力は弱いが、体重が増加しにくい。ビグアナイド薬のみの治療では、低血糖を起こす可能性は少ないといわれている。
副作用:低血糖、胃腸障害、乳酸アシドーシス
α-グルコシダーゼ阻害薬
消化管で多糖類を二糖類、単糖類(ブドウ糖を含む)へと分解する酵素であるα-グルコシダーゼを阻害することにより、小腸でのブドウ糖の分解・吸収を遅らせて、食後の急激な血糖値の上昇を抑える。 食後過血糖改善薬とも呼ばれる。食前の血糖値はそれほど高くないが食後の血糖値が上がりやすい患者に適している。α-グルコシダーゼ阻害薬のみの治療では、低血糖を起こす可能性は非常に低い。しかし、低血糖が起こったときは、必ずブドウ糖をとることが必要である。
副作用:お腹の張りやおならの増加、低血糖
速効型インスリン分泌促進薬
SU薬と同じように、膵臓のβ細胞に働きかけ、インスリン分泌を促す。飲んだあと短時間だけ作用する。食後の血糖値が高い患者に適している。服用後30分以内に効果があらわれるので、食事をとらないと低血糖を起こす可能性がある。
副作用:低血糖
チアゾリジン系(TZD薬)
主に脂肪細胞に存在するPPARgammaに作用して血液中のブドウ糖の利用を高めて血糖値を下げる。インスリン抵抗性改善薬とも呼ばれる。低血糖を起こす可能性は低い。
副作用:低血糖、むくみ、肝障害、体重増加
GLP-1受容体作動薬
インスリン分泌を促進するホルモンであるGLP-1の受容体に作用してインスリン分泌を促進する。 GLP-1は、食事をとると小腸から分泌されるホルモンで、血糖値が高い場合にのみインスリンを分泌させる特徴があるため、低血糖を起こしにくい。血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの分泌も抑制する。また、摂取した食物の胃からの排出を遅らせる作用や食欲を抑える作用などもある。さらに、インスリンを産生するβ細胞の増殖を促すのではないかと期待されている。
DPP-4阻害薬
インスリンの分泌を促すホルモンであるGLP-1の分解酵素であるDPP-4を阻害することで、インスリンの分泌を上昇させる。血糖値の高いときだけ作用し、インスリン分泌をうながします。DPP-4阻害薬のみの治療では、低血糖を起こしにくく、SU薬にみられるような体重増加はない。
副作用:低血糖、胃腸障害
血糖値、血中コレステロール、血圧をよりよく制御することにより、腎疾患、目の疾患、神経系疾患、心臓発作、脳卒中のリスクを減らすことができる。また、糖尿病の合併症を防ぐために、少なくとも年2回から4回は診療を受けるべきである。
予防
理想的な体重とアクティブな生活習慣を維持することで、2型糖尿病を防ぐことができる。1型糖尿病には予防法がない。