海外ラボリポート



藤田雄 博士 〜米国カリフォルニア大学サンディエゴ校から(2015年12月4日更新)

はじめに

この度は海外ラボリポートの執筆の機会を頂戴し、ありがとうございます。私は東京慈恵会医科大学を2007年に卒業後、5年間の臨床経験を経て、国立がん研究センター研究所の落谷孝広先生のご指導のもとで学位を所得しました。2015年7月に渡米し、カリフォルニア大学サンディエゴ校でポスドクとして留学生活を送っております。

まだ、渡米後半年も経過していませんが、こちらでの生活がようやく整ってきたところですので、特に留学先の選び方に関する情報を中心にまとめたいと思います。これから海外留学を考えておられる学生や研究者の方々の参考になれば幸いです。


(写真1:UCSDのMoores cancer center)

留学先の決定

臨床現場から離れて、日本での研究生活が2年を経過したころ、keystone symposiaで発表する機会を得ました。ポスター発表でしたが、世界中の研究者がワインを片手に議論している姿がとても印象的でした。その時にインテグリンαvβ3によるがん幹細胞化に関する発表に大変興味を持ち、たまたま話しかけたのが今のボス、Dr. Chereshでした。

彼のラボの研究内容が自分の研究の延長線上にあり、liquid biopsyを積極的に行っている話を聞くことができましたが、その時はポスドクのポジションに関することなどは全く話題に上がりませんでした。その後、自身の仕事を論文にまとめ、学位を取得できる目処が立った段階で、Dr. Chereshにポスドクのポジションをメールでアプライしてみると、fellowshipがあれば受け入れるとのお返事があり、その後はスカイプ面接とラボミーティングでの発表を通じて留学が決定しました。

私の場合は、今のラボ以外に選択肢がなかったため、非常に幸運であったと思います。結果的に、今のラボで自分は間違いなかったと思います。自身の経験を踏まえて、留学先を決定する際に重要だと思ったことを述べたいと思います。

1)留学場所:

米国、ヨーロッパ、アジアなど多くの留学先があり、コネクションがあれば留学先が自動的に決まってしまうこともあると思いますが、もし選択肢が複数あるのなら、その留学環境を感じるためにその土地に留学前に訪れる(できれば家族で)ことをお勧めします。また研究者に限らず、知人が一人でも住んでいる場所であると、セットアップ時に助かると思います。

サンディエゴに限って言えば、まさにサイエンスヘブンです。UCSDはアジア人で溢れていますし、日本食に事欠くことは全くありません。人種差別は少なく(差別がないとは言えませんが)、志の高い日本人研究者にもしばしば出会います。一年中南国のような天候のため、住んでいる人がみな大らかで優しく、せかせかしていません。

また、サンディエゴに来て感じたことは、非常に女性研究者が多いことです。私の研究室も半分以上が女性で、ミーティングで女性がリードすることもしばしばです。この土地は、日本人にとって地理的にも近いため、独身の方も子持ちの方も、多くの方が留学先として設定するに価する場所だと思います。

2)人種:

PIが違えば、全くラボのスタイルが違います。中国人がPIであれば、ラボにはアジア人が多くいますし、白人であれば、白人中心になります。ですので、東海岸であろうと西海岸であろうと、PIによって自身のスタイルも自然と変わっていくものだと思います。

私のラボは、実験中に白衣やメガネの着用をしつこく言われますが、隣のラボではTシャツ半ズボンで研究しています。研究所はアジア人が多いためか、休日に研究している学生やポスドクを多く見ます。

3)給料:

私は、日本の奨学金を得ることを強くお勧めします。留学先から給料を支払ってもらうことも海外で成功する重要な要素だと思いますが、PIは採用時にfellowshipの有無を判定基準にしていることが多いのも実情です。一度ラボで働けばわかると思いますが、奨学金なのかボスが給料を支払っているかなどは誰一人気にしません。研究費が打ち切りになって給料の支払いが止まった方も知っていますし、グラントからの給料であれば限られた研究しかできないこともあります。

ただ、奨学金に関して一つ気をつけなければならないことがあります。アメリカでポスドクとして採用されるためには、NIHが設定している最低給与基準をクリアしていることが採用規定となっている大学が多くあります(東海岸では無視されることもあるようです)。例えば年間400万円の奨学金をもらったとしても、円高の状況であれば、NIHの採用基準をクリアできないケースもでています。つまり、奨学金は取れたのに採用を拒否されるケースもあるわけです。

この状況のため、日本学術振興会海外特別研究員の制度では本年より100万円までの小型奨学金の受領を許可しました。留学するということは、国際間の様々な情勢にも左右されることを忘れてはいけません。情報は日本にいてもネットを通じていくらでも得ることができます。奨学金申請を出し忘れたとか、出願時期が自分とは合わなかったと言う方もごくまれにいますが、留学をする前からどれだけ適切な情報を得て、自身のキャリアデザインを考えることができるかが留学成功の鍵を握っているだと思います。

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