海外ラボリポート



佐野晃之 博士 〜米国ニューヨーク大学から(2016年4月8日更新)

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1)研究費がなくなれば終わり

アメリカの場合、研究者の給与は大学からは出ません。独立数年までは大学からスタートアップのパーケージの一部として支払われますが、それ以降は、自らが獲得した研究費から賄われます。

また、独立研究者は大学に間借りしているという考え方ですので、研究をするためのスペースを貰うために大学にお金を入れなければなりません。ですので、多くの場合fellowshipをとってくることが推奨されます。また、本当に優秀なポスドクでも自分のfellowshipが切れた、ボスの大きなグラントが終わってポスドクを維持することができなくなり、帰国したという話もよく聞きます。

2)生活費、医療費が高額

私はニューヨークにいるため、日本食の購入などには特に困りませんが、その分生活費は異常に高いです。それを補うために、マンハッタンにあるほとんどの大学が職員のためにアパートを所有しており、discountされた家賃で、Housingを使用することができます。

NYUの場合、2016年現在で、ワンルーム(studio)1600ドルほど、ワンベットルーム(one bed room)2300ドルほどです。コロンビア大学やロックフェラー大学も同様のhousingを持っており、値段はNYUより少し安いと聞きます。

私の場合、職場であるラボは2階、我が家は同じ建物の21階にあります。エレベーター1本で行き来できるため、家族のいる私にとっては非常にいい環境だと思いますが、外国人ポスドクは奴隷のようだといい、数年でマンハッタンの外に比較的安いアパートを探します(それでもワンベットルームで1600ドルほど。マンハッタン内に、サポートなしで住む場合はワンベットルームで3000ドル以上)。

医療保険費は年々高騰しています。日本では考えられないような金額です。ニューヨークのほか、大都市では家賃が高いです。他は比較的リーズナブルですが、日本食などは手に入りにくいと聞きます。

3)英語の問題

これは、非常に難しいです。私は4年滞在していますが、完璧などということは不可能で、稀に、コミュニケーションが全く取れないということもあります。

私に何かを聞いてくる人は、私の英語を我慢して何としても理解しようとしてくれますが、私を議論で負かそうとしてくる時は、お手上げです。非常に心苦しい思いをします。私のようなできない例とは違い、英語が得意な方もいますが、その方々をもってしても、ストレスなく完璧にというのはあり得ないといいます。

4)アメリカに適応できない

日本人の考え方は、多くの場合、海外の方々に理解されません。何も語らなくても伝わる、我慢する、「和をもって尊しとなす」というようなことは、尊敬こそされますが理解されません。アメリカは交渉社会で、自らで自らを守らなければいけません。主張するところは主張しなければ、とんでもないことも起こります。

特に、私が留学のためにインタビューに行った時、現在所属しているラボでしかインタビューを受けませんでした。理由はいろいろありますが、主には武士道のような考え方です。候補先に礼、義を示したはずが、現ボスからは、消極的で、アメリカでは最も嫌われる行為であると言われました。なんとか誤解を解き、こちらのラボにお世話になっていますが、4年経った今でも、その日本的な考え方をなんとかしろと言われます。

ですが、この日本人の持つ真摯さと相手を尊敬するという気持ちは伝わります。時に、いい共同研究に発展し、仲間として信頼できる関係を構築するのに必要です。私は心の底から仲間だと言える人が何人もできました。一生の財産です。


Annual retreatにてラボメンバーと

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最後に

これは、私が4年で経験したことです。もちろんほかの方が考えられていることと違うこともあります。一番大切なことは、自分自身が何をしたいかです。踏み出すことによりいろいろなものが得られます。うまくいっても失敗しても、海外で研究したということは財産になります。初めの2年は、辛くて日本に逃げ帰りたいと思ったことも何度かありました。今でもたまにあります。それでもアメリカで研究しているということは、将来の自分にとって大きな財産になることは確実です。迷っている方がいれば、必ずこう答えるようにしています。飛び込んでみてください。なんとかなります。

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執筆者:佐野晃之
 所属:ニューヨーク大学

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