教授と僕の研究人生相談所
Tweet第94回(更新日:2026年3月1日)
この業界、寿司でも食わなきゃやってられない
僕「教授、僕らの連載、最後に更新されたのが去年の2月です」
教授「1年前なんてつい最近の話だ」
僕「そんな老人みたいなこと言わないでください」
教授「俺はもう老人だ。昨日の夜に何を食べたかも覚えていない。だが、前回の記事で寿司が食べたいと言ったのは覚えている」
僕「そうです。なので、今日は個室でお寿司が食べられる場所を予約しました」
教授「君の本の印税でか?」
僕「この連載の本、お陰様で今もまだちょくちょく売れてはいるのですが、残念ながらここの食事代を賄えるほどには売れてないんです」
教授「ということはもしかして・・・俺にたかる気か?」
僕「そんな人聞きの悪いことを言わないでください。というか、ここで食事をしながら僕らの連載記事のことを話す経緯については、メールできちんと説明したと思うんですけど」
教授「俺は老人だ。ただの老人じゃないぞ。老害だ。自分のポジションは手放さないけど、女子枠設置とかは応援しちゃうようなジジィ教授と同じカテゴリだぞ!」
僕「そういうセンシティブな話題はやめてください。あと、念のため注記しますけど、僕も教授も女子枠には賛成も反対もしていません。なので読者の皆様、いたずらに叩かないでください」
教授「このビビりめ。炎上商法で君の本が売れたら、もっと印税が入るのに」
僕「そういうのは止めてください。この連載もそれなりに続いているので、ふとした拍子に教授とか僕の素性がバレてしまうかもしれませんよ。普段の言動とこの連載でのセリフが似通っているかも、というのはリアルで近い距離にいると何となくわかったりするので」
教授「え、そんなことってあるの?この連載の教授が自分だってバレたらまずいんだけど」
僕「とつぜん素になって心配しないでください。口調まで変わってるじゃないですか」
教授「そうか。じゃあ、話をもとに戻そうか」
僕「そうですね。今日の食事代は有難いことにBioMedサーカス.comの編集部が出してくれます。でも、その代わりとは言っては何ですが・・・」
教授「この本の宣伝をしてくれ、ってことだろ」
僕「もうちょっとオブラートに包んでください」
教授「ここここ・・・のののの・・・」
僕「それはビブラートです。というか、文字ではそのボケは伝わりにくいですし、オブラートをビブラートと勘違いするネタは大昔からあるので、そのギャグは多分そんなに面白くないです」
教授「大昔からいるボケ老人だと?」
僕「(教授のボケはスルーしながら)今度発売される『誰がバイオ研究の査読システムをダメにしたのか』という本の紹介を僕らの連載でしてくれませんか、ってことです」
教授「要は寿司食わせるからその本を宣伝しろ、ってことだろ。すごい良い本でした。みんな買ってね。はい宣伝終わり。さ、寿司食おうぜ」
僕「教授、さすがにそれはダメです。色々な意味で多方面に失礼すぎます」
教授「そうか。たしかにそうだな。悪かった。でも、結局は宣伝しろってことだろ。つまりは、褒め称えろと」
僕「いえ、そんなことはないです。編集部の方からは、内容に問題があったら正直に批判とかしてもらっても大丈夫と言われています。あと、著者からもこの連載で取り上げられることは事前に了承してもらってるようです」
教授「え、そうなの?」
僕「そうですよ。しかも、その著者の方は、僕らの連載のファンとのことで全ての連載記事を読んでくださっていて、しかも本も6冊全部買ってくれてるみたいです」
教授「じゃあ、なおさら褒め称えないとまずいんじゃないか?」
僕「いえいえ、教授に厳しいことを言われるのも覚悟している、というか忌憚ない意見を言ってもらえると嬉しい、というようなことを言っているらしいです」
教授「Mなのかな?」
僕「そういう下品なことは言わないでください」
教授「そうか。で、どうする?」
僕「どういう意味ですか?」
教授「今日はとりあえずこの本の内容について話せばいいのか?」
僕「まあそうですね。お料理を食べながらゆっくりと話しましょうか。でも教授、事前にこの本は読んできてますよね?」
教授「読んだよ。生成AIが書いたんかな?」
僕「いきなり何ということを言うんですか?」
教授「褒め言葉だよ」
僕「褒め言葉に聞こえないんですが・・・」
教授「そうか?生成AIはすごいぞ。綺麗な文章を書く。俺らの業界は古い体質だからな、論文執筆に生成AIを使ったらダメだとか言う老害ジジィどもが偉そうにふんぞり返っているが、10年も経てば状況は変わる。なんで生成AIで文章を作ってないんだ、とか言われるようになるんじゃないか」
僕「そうなりますかね?」
教授「知らん。そうなってもならなくてもいい。俺はその頃は既には引退していて悠々自適な生活を送っているから、沈みゆくバイオ研究業界を眺めながら酒でも飲んでるだろうよ」
僕「・・・」
教授「ま、というわけで、生成AIが書いたんじゃねって言うのは褒め言葉だ。読みやすい本だったよ」
僕「なるほど。で、内容はどうでしたか」
教授「生成AIが書いたにしては良く書けてる」
僕「生成AIが書いたわけではないです」
教授「そうか。でも、もし仮にあの本を生成AIが書いたとしたらすごいな。もう人間はいらなくなるな」
僕「たしかに、あの内容の本を生成AIが書けたとしたら驚きですね。でも、そうなりますかね?」
教授「なるだろうね。ま、あの本は人間が書いたんだろうけど、今の生成AIでも、あのくらいの内容の文章は書けそうではある」
僕「脅威ですね」
教授「君ら現役世代にとってはね。俺らジジィ世代にとっては、これから引退して働かないでも飯が食えるから大丈夫だよ」
僕「本当に大丈夫ですか?」
教授「どういう意味だ?」
僕「色んなことを生成AI、というか人工知能に頼っていたら、そのうちAIが老人はいらないとか言って駆逐されますよ」
教授「大丈夫だよ、AIを開発するのは若い世代だが、それを使って世の中をどう変えるかの政策を決めるのはジジィ世代の政治家だ。自分の首はしめない。そういう例をこれまでの何十年でいくつも見てきた」
僕「・・・」
教授「で、その本の内容だが・・・」
僕「どうでした?」
教授「ま、特に新しい情報はなかったな。査読システムが崩壊しているのは今や常識だし、それに出版業界が関わっていること、Cell・Nature・Science至上主義が問題なこと、オープンアクセスの罪、各々の研究者が見て見ぬ振りをしてること、そしてその結果として業界全体が瀕死状態にあること、なんてのは言うまでもないことだからな」
僕「でもそれって、教授がこの業界の表も裏も知り尽くしているからなのでは?」
教授「そうかな?」
僕「そうですよ。僕にとっては、この本に書かれていることで知らないこととか沢山ありましたもん」
教授「無駄にこの業界に長くいたから、俺はそういうのを知ってるだけないのかもしれんな。まあ確かに、若い人とかは読んでもいいかもしれん」
僕「そう思います。でも、この本に書いてある査読システムの問題とか知ったら、みんなバイオ業界から逃げてしまうように思いますが」
教授「実際にみんな逃げてるだろ?最近では、修士号・博士号をとった奴はほとんどがアカデミアに残らず企業に行くんじゃないのか?しかも、バイオ研究とは関係ない職種に就く奴も多い。君のところもそうだろ?」
僕「たしかにそうですね。アカデミアに残ろうとする人は稀ですね」
教授「だろ?僕はアカデミアに残りたいと思ってます、とかお目々キラキラで言ってくる学生がいると、正気かお前?って言いたくなるもんな」
僕「僕はそこまでは思いませんが・・・」
教授「そうか?君はまだアカデミアで頑張ろうと思ってるのか?」
僕「そうですね。まあ身バレを防ぐために今の僕のポジションについては明言しませんが、これからもアカデミアで頑張ろうかなと思っています。今さら会社には行けなさそうですし、他の職種の仕事も難しそうという消極的な理由ですけど。あと、毎日が辛いんですけどね」
教授「そこだよ、問題は」
僕「え、どういう意味ですか?」
教授「君だって世間一般の標準から見たら、かなり賢い。で、毎日真面目に頑張ってきている」
僕「ど、どうしたんですか急に?」
教授「そんな優秀で真面目な君が、何年も何年も同じ分野の仕事を頑張ってきている。しかもその仕事内容は複雑で、専門性も高く、誰もができるものではない」
僕「ほ、褒められてるんですか?」
教授「そんな君が他の仕事がないから、という理由で、将来の補償もなく給与も安く、毎日が辛い職場でないと働けないというのは、君が選んだキャリアパスが外れだということだ。ま、世の中を見る目がなかったということだ。ご愁傷さま(と言いながら、目の前のコハダの寿司を口にいれる)」
僕「・・・」
教授「お、このコハダうまいな。ここはいい店だ。あれ、なんか元気ないな?おなかいっぱいなのか?俺が代わりに食ってやろうか?」
僕「いえ、食べます。というか寿司でも食わないとやってられない気分です」
教授「俺も毎日そういう気持ちで生きてきた。今のポジションでもそう思うことがよくある」
僕「え、教授でもそうなんですか?」
教授「そうだよ。この業界、ポストが上がっても給与はそんなに上がらないしな。でも、それでも俺ら世代はまだいいよ。老後は安泰、とまでは言い切れないが、まあそこそこの暮らしはできるだろうな。でも、君ら世代はどうかな?そもそも、この業界にいる奴らは、定年までまともな職で働きつづけられるかもわからんだろ」
僕「そうなんですよね・・・」
教授「この話題になるとどうしても暗くなるな」
僕「はい・・・。どうすればいいですか?」
教授「知らん。君の人生は君のものだ。色々と本気で考えるしかないだろうな」
僕「ですよね」
教授「とはいえ、知らない仲ではない。困ったことや愚痴が言いたくなったらいつでも連絡してきていいぞ」
僕「ありがとうございます」
教授「だが、そのときは回らない寿司を奢れよ(穴子の寿司を口にいれながら)」
僕「・・・」
教授「で、オチはないんだが、どうする?宣伝してくれと頼まれた本のことに何か触れておくか?」
僕「必ずしもオチが必要というわけではないですが」
教授「そうか。じゃあ、今日はこのくらいにしようか。ところで、その本はいくらで売るんだ?」
僕「えっと、たしか300円ちょっとかと」
教授「え、そんなに安いの?今から俺が食べようとしている中トロの一貫より安いんじゃないのか」
僕「そうですね」
教授「そんなに安いんなら、その本は『買い』だな。読者の諸君、バイオ業界で研究している人たちはお金がなくて苦しいとは思うが、この本の内容は300円ちょっとなら安い。買うべきだ。ま、300円だすんなら、俺はその本を買うよりも寿司をもう一貫食べるけどね」
僕「・・・」
執筆者:「尊敬すべき教授」と「その愛すべき学生」
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