教授と僕の研究人生相談所



第95回(更新日:2026年6月3日)

君が輝ける場所はバイオ系アカデミア以外にもきっとある

僕「教授、今回もよろしくお願いします」

教授「この連載、途中かなり間が空いたりしたけど、編集部から愛想をつかされたりしないのか?記事のアクセス数もそんなに多くないはずだし、だって売れてないだろ?読者からの質問だって年単位で来てないし」

僕「編集部の方々はとても親切なんです。基本的にはメールでのやり取りだけなんですけど、担当編集の方からのメールを読むと、いつも元気づけられます」

教授「ん?そんなにメールのやり取りをしているのか?連載の間隔がこれだけ開いているのに?」

僕「連載が中断していても、ちょくちょく挨拶とか現状報告のメールはしてましたから」

教授「そうなのか。君はそういうところはマメだよな。俺からのラインやメールにも、いつもきちんと返事してくるし」

僕「そりゃ教授からの連絡は無視しませんよ」

教授「他の人からのはスルーするのか?」

僕「スルーする・・・するー・・・する?今のはギャグでしょうか?突っ込んだ方がいいですか?」

教授「ギャグでもなんでもない。スルーしてくれ」

僕「そうですか。まあ、教授以外からのラインやメールでも基本的には返事しますね。教授は返事はしないんですか?って愚問ですね」

教授「そうだな。俺は自分が重要だと判断したものしかしないしな」

僕「だから僕からの連絡は基本スルーなんですね」

教授「まあな。で、今回の記事はどうするんだ?質問は来てないんだろ」

僕「それがですね、教授。久しぶりに質問が来たんですよ」

教授「あなたに遺産相続の権利があるから振込先口座を教えてほしい、とかという質問メールか?」

僕「違います。そういうのは詐欺メールです」

教授「君は引っかからないのか。つまらん」

僕「そんなのに引っかかる方がレアですよ」

教授「そうか。で、質問内容は?」

僕「あまりまだ知られていないバイオ研究業界の爆弾を教えてほしい、という内容です」

教授「どういう意味だ?」

僕「その質問メールは教授にも送っていますが、やっぱり読んでいないんですね」

教授「俺がそんなの読むと思ったのか?」

僕「思ってはいませんけど、今の発言は質問メールを送ってくださった方に失礼です」

教授「確かにそうだな。君のメールなんか読むはずないだろ、という意味だったが、読者にも失礼だったかもしれないな。すまん」

僕「僕には謝ってくれないんですか?」

教授「謝ってほしいのか?」

僕「いえ、いいです。話が先に進まないので、とりあえずこの質問メールを読んでください(iPadにメールを表示して渡す)」

教授「(読む)」

僕「どうですか?」

教授「読んだ」

僕「回答は?」

教授「AIに聞けばいいんじゃないの」

僕「いえいえいえ。そんなのダメですよ」

教授「俺だって知らんよ、そんなの。というか、この質問者はすでにいくつか『爆弾』というか、この業界の問題点を挙げてるだろ。それだけわかってれば十分だよ」

僕「読者の皆様への補足ですが、今回の質問者様はバイオ研究業界にはいろいろな爆弾(すでに爆発してるのもある)があると書いていて、例えば『IFの高いジャーナルの論文は捏造だらけ』『でも、そんなジャーナルに論文を出さないとポストが得られない』『日本の経済が落ち込んでいて、為替の問題で日本人研究者が海外に留学するのが難しい』『留学したらしたで、日本とのパイプが切れて帰ってこれないことが多い』『女子枠のせいで男性研究者が悲惨なことになる』『そもそも今の若い人はバイオ系アカデミアには残らない』『しかも、日本の科学政策は無能が考えているとしか思えないほど酷い』などを挙げられています」

教授「辛辣だな」

僕「ですね。全く救いのない業界に見えますね」

教授「実際そうだしな」

僕「そんな業界にいる僕たちはどうなるんでしょうか」

教授「俺はもう逃げ切りだよ。君は違うけどな」

僕「ですよね。どうすればいいですか?」

教授「メールしてくれた人の質問には答えず、君のその質問に答えてほしいのか?」

僕「どっちにも答えてください」

教授「強気だな」

僕「人生がかかっているので」

教授「必死だな。まあ、君の質問には答えようがないよ。というか、君はまだ恵まれてる方だろ。一応はきちんとしたポストに就いてるわけだし」

僕「でも全然安定ではないです」

教授「アカデミアの研究者なんて、世界中どこでもそんなもんだよ。安定が欲しいんだったら、即刻別の道を探すべきだな」

僕「やっぱりそうなんですね・・・」

教授「アカデミアの基礎研究、特に俺らみたいなバイオ研究は、基本的には国の税金に依存している。で、バイオの基礎研究に国が準備できるお金の額に比べると、それを使って研究したい人間は多すぎる。だから『競争的資金』って呼ばれるんだよ。だがな、どれに資金を投入するかは同じ研究分野の人間が選ぶ。国の役人が直接選ぶわけじゃないんだよ、あいつらは研究とかわからんから。だから、どの研究プロジェクトにお金を落とすかは、同じ分野の研究者が選ぶことになる。ということは・・・その先は言う必要ないですよね」

僕「唐突に某企業の問題発言をぶっこまないでください。しかも、それかなり前の話ですよね」

教授「俺はいつもそこの鉛筆を使ってるんだが、それを使うたびに思い出すんだよな。製品はいいのに残念なことだ」

僕「話がずれていますし、あんまり特定の企業様をターゲットにしないでください。危険です」

教授「そうか。俺はそこの会社の製品を愛用してるんだけどな」

僕「媚びても何もくれませんよ」

教授「そうだろうな。まあ、そこの鉛筆はいっぱい持ってるからいいや。で、何の話だっけ?研究費の審査を牛耳ってる大御所研究者たちと仲良くなれば研究費が取れやすくなるって話だっけ?」

僕「そういう危険な発言は本当に控えてください。聞いてるだけで怖くなります」

教授「そうか。で、君の質問内容は何だっけ?お茶漬けは何味がいいですか、って質問だったよな(手元のメニューを見ながら)」

僕「全然違います。僕の相談は、お先真っ暗な感じのバイオ系アカデミアでどうすればサバイブできるか、ということなんですが・・・」

教授「横文字が多いな。ルー大柴をレスペクトしてるのか?」

僕「そのネタも古いですね。しかも教授も横文字が多いですよ」

教授「ミーはルー大柴はグレェイトなピーポォだと思ってるからな」

僕「そういう話も個人的には興味がありますが、脱線しまくりなので話を元に戻します。まあ、僕の相談内容は今は置いておきます。相談者様の内容を先にお願いします」

教授「この業界にある『爆弾』か?たくさんあると思うけどな。君はどう思う?」

僕「そうですね・・・本当に色んな問題というか爆弾がこの業界にあると思うんですが、その一つは今流行りの女子枠でしょうか。相談者様のメールにも女子枠のことが書かれていますし。教授はこの問題どう思いますか?」

教授「ノーコメント」

僕「そんなこと言わずに」

教授「この問題はセンシティブすぎるから、公の場では話せない」

僕「僕らの素性はバレてないので大丈夫です。忌憚のないご意見を伺えればと思います」

教授「そうか。じゃあ、俺の個人的な勝手な意見でも言ってみるか」

僕「お願いします」

教授「女子枠という制度には良い面も悪い面もある。だが、今この問題をややこしくしている原因の一つは、女子枠のことを議論するとき、単純に『男』vs『女』の図式にしていることだと俺は思う」

僕「違うんですか?」

教授「違うね。本当は、『女子枠がなかったから得した男』vs『女子枠がなかったから損した女』vs『女子枠ができて損する男』vs『女子枠ができて得する女』、だ。ま、わかりやすく言えば、俺ら世代の男は得したが俺ら世代の女は損した。だが、今の若手の男は損をして、若手の女は得をしている」

僕「まあ、そうですね」

教授「でだ、損した世代の女性は、『自分たちが苦しんだから女子枠は必要だ』と思う気持ちがあるように俺は感じる」

僕「妥当ですね」

教授「ま、全員が全員そう考えているわけではないとは思うけどね。でだ、女子枠で得する女性も、女子枠には積極的には反対しないだろう」

僕「ですよね。でも、女子枠で損する男性は反対しますよね」

教授「当たり前だな。でも、得していた世代の男性、俺みたいな大した能力がないのにポジションをゲットできたじじぃ連中だ、は、女子枠があろうがなかろうが自分のポジションには影響しないから反対はしない。それどころか、中には、偉そうに女子枠を擁護したりする。そっちの方が『俺わかってる感』を出せるしな」

僕「そういうところはあるかもしれませんね。でも、教授なら今の世の中でもきちんとしたポジションをゲットしているとは思いますが」

教授「お世辞はいらないよ。いずれにしろ、女子枠に賛成するか反対するかの話し合いが行われるときは、各々の属性や目論見によって主張するところが変わってくる、ということだ。だから議論は噛み合わない。ま、意図的に『男』vs『女』の図式にして、議論をまとまらないようにしてる勢力もいそうだがな。いずれにしろ、俺は女子枠があろうがなかろうが自分の人生には影響はないからどうでもいいんだけどな」

僕「そんなこと言わないでくださいよ。ちなみに、教授は女子枠は必要だと思うんですか?」

教授「日本のアカデミアのポジションの男女比率について、何らかのアクションは必要だとは思うよ。とはいえ、今のやり方が絶対的に正しいというつもりはないけどね。かと言って代替案が俺にあるわけでもない。いや、なくはないか。でも、それを言ったところでどうこうなるもんじゃないから敢えては言わないけどね」

僕「教授くらいのお力があれば、この問題を何とかしてくれるようにも思うんですが」

教授「世辞はいらん。でもな、女子枠うんぬんよりも『外国人枠』とかというのが来ないようにするのが大事だと俺は思ってるけどね」

僕「外国人枠?それって、日本国籍を持ってる人は応募できないポジションとかということですか」

教授「そうだ。これまでの科学政策に対する国の迷走っぷりを見ていると、国際化を目指すとか何とかいって、そういう枠ができないとも限らないからな」

僕「そうなったら本当に悲惨ですね・・・」

教授「ま、そんときは俺は本当の意味でリタイアしてるからいいけどな」

僕「日本が衰退するのを見るのは寂しくないんですか?」

教授「そんなのはもう慣れたよ」

僕「・・・」

教授「あー、それとな、『爆弾』で思い出したんだが、今やこの分野の学術論文は捏造だらけだろ」

僕「相談者様も書いていましたね」

教授「だから、そういうのを防ぐために、ジャーナル側はwestern blotのゲルの生データ(uncroppedの画像)なんかも出せって言ってる。あれ、もっとエスカレートするぞ」

僕「と言いますと?」

教授「全ての図の生データを出せとか、実験ノートのコピーを出せ、とか言ってくるんじゃないか。しかも、実験ノートは日本語じゃだめ、とか言うだろうな」

僕「メチャクチャですね」

教授「(ピー)とか(ピー)の論文みたいにメチャクチャだろ。あいつらの捏造とかパワハラ・セクハラはまだ表に出てないからな。それも『爆弾』だ。いつ爆発するか俺は密かに楽しみにしている」

僕「固有名詞は避けてください」

教授「そうか。じゃあ、伏字にしておいてくれ」

僕「言われなくてもそうします」

教授「まあ、さっき言った『ジャーナルが生データとかを厳しく要求するようになるかもしれない』という点についてだが、そういう極端なことは、さすがにすぐには導入されないと思う」

僕「でも、いずれはそういう感じになりそうですね。そのときは教授はリタイアしてるとは思うんですけど、僕はまだ研究者をしている気がします」

教授「そうなったら君は別の職を探した方がいい」

僕「またまたそんなことを」

教授「冗談なんかで言ってるわけではないぞ。この業界は色々おかしい。それなのに、真面目に頑張っている人間をさらに大変な目にあわせるルールが次々と出てきている。(ピー)とか(ピー)みたいな、バレなきゃ何やってもOKみたいな人間なら問題ないけど、君みたいなタイプの人間は必ず病む。君はまだ若い。今なら職も変えられる。君が研究を好きなことは知っているし、研究職のようなタイプの職種があっているのも理解している。だが、君が輝ける場所はおそらく他にもある。ま、今日明日でどうにかしないといけないわけではないから、じっくりと考えるんだな」

僕「なんてコメントすればいいかわからないのですが、ご助言ありがとうございます」

教授「今日はこんなところにしようか」

僕「はい、ありがとうございます。個人的な内容であっても、また相談したりしてもよろしいでしょうか」

教授「寿司と酒をご馳走してくれるならいつでもいいぞ」

僕「教え子にたかるのはやめてください。恥ずかしいですよ」

教授「変なプライドを捨てるのも、この業界でサバイブするにはネセサリーだ(キリッ)」

僕「・・・」

執筆者:「尊敬すべき教授」と「その愛すべき学生」

*このコーナーでは「教授」への質問を大募集しています。質問内容はinfo@biomedcircus.comまでお願いいたします(役職・学年、研究分野、性別等、差し支えない程度で教えていただければ「教授」が質問に答えやすくなると思います)。

本連載の書籍化第6弾です!

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