生成AIが書いたバイオ系短編小説集



生成AIが書いたバイオ系短編小説集

代償は零(ゼロ)に収束する

帝都大学バイオ工学研究所の夜は、いつも冷徹な静寂に包まれている。
 助教である神楽坂(かぐらざか)は、薄暗い廊下の壁に背を預け、激しい敗北感に震えていた。
 ガラスの向こうでは、同期の毒島(ぶすじま)が、大勢の報道陣や学部長に囲まれてフラッシュを浴びている。

毒島が発表した「細胞若返り製剤・プランクトンB」。それは、老化によってコピーミスを起こした遺伝子を完全に修復し、肉体を全盛期の状態へと巻き戻す、ノーベル賞確実と噂される夢の薬だった。

会見が終わり、人が去った研究室で、毒島は神楽坂に向けて傲慢な笑みを浮かべた。
 「神楽坂、君の『細胞寿命の引き伸ばし』という理論も悪くなかったよ。ただ、僕の方が少しだけ、自然の真理に近かったようだ。努力賞としては認めてあげるよ」

毒島のあの勝ち誇った目、哀れむような口調。それが神楽坂のプライドを完璧にずたずたにした。この研究のアイデアの基礎は、もともと学生時代に神楽坂が提案したものだったからだ。毒島はそれを要領よく盗み、先に形にしたに過ぎない。
 神楽坂の心の中で、どす黒い嫉妬が煮え繰り返っていた。

***

「あいつが手にするはずだった名声も、富も、すべて俺のものだ。元々は俺のアイデアなんだからな」
 午前二時。神楽坂は警備員の巡回ルートを完璧に把握し、毒島の研究室に潜り込んだ。
 心臓が耳の奥でうるさく脈打っている。狙いは、厳重に保管されているはずの「最終試薬のカプセル」だ。

しかし、拍子抜けするほど簡単にそれは見つかった。毒島のデスクの上、書類の山に紛れて、琥珀色の液体が入った小さなカプセルがケースに入って置かれていたのだ。

「詰めが甘いんだよ、毒島」
 神楽坂はポケットから、あらかじめ用意していた外見がそっくりの偽物のカプセルを取り出し、すり替えた。本物を手に入れた瞬間、指先から脳へと冷たい歓喜が駆け抜けた。
 「これで、明日から若返るのは俺だ。あいつは偽物を飲んで、大舞台で恥をかけばいい」

***

自宅のマンションに戻った神楽坂は、狂ったように笑いながらカプセルを水で飲み干した。
 効果が表れるのは早かった。
 数時間後、ベッドから起きて鏡の前に立った神楽坂は、自分の目を疑った。
 白髪交じりだった髪はカラスの濡れ羽色になり、目尻のシワは完全に消え去っている。肌には二十代の頃のみずみずしいハリが戻っていた。体中から、かつて忘れていた全能感が溢れてくる。

「素晴らしい……! これなら、毒島を追い抜いて新しい論文をいくらでも書ける。俺の勝ちだ!」

神楽坂は、抑えきれない高揚感とともに研究所へ向かった。
 しかし、廊下で出くわした毒島は、若返った神楽坂の姿を見ても、驚く様子を一切見せなかった。それどころか、憐れむような、冷え切った目で神楽坂をじっと見つめた。

「おはよう、神楽坂。ずいぶんと顔色が良さそうだ。……いや、良すぎるな。私の計算通りだ」
 その言葉に、神楽坂は背筋に冷たい氷を押し当てられたような感覚を覚えた。
 「……何の話だ?」
 「君が昨夜、私の部屋に忍び込むことは分かっていたよ。だから、あそこに『未完成の試薬』を置いておいたんだ」

毒島は眼鏡の奥の目を細めた。
 「その薬には、致命的な欠陥がある。細胞の修復速度をコントロールする『ブレーキ』の遺伝子が組み込まれていない。一度作動すれば、エネルギーを限界まで使い果たすまで、細胞の巻き戻しが止まらなくなるんだ」

毒島の言葉が終わるか終わらないかのうちに、神楽坂の体に異変が起きた。
 激しいめまいとともに、視界がぐらりと低くなる。着ていた白衣の袖がだぼつ yき、手首が衣服の中に隠れていく。ズボンの裾を踏みつけ、神楽坂はその場に激しく転倒した。

「な、なんだこれは……!? 手が、縮んでいる……?」
 声を出そうとしたが、出てきたのはかん高いつんざくような悲鳴だった。高校生、中学生、小学生へと、彼の肉体は猛烈なスピードで若返り、いや、「幼児化」していく。

「毒島! 助けてくれ! 止める方法は……戻す方法はあるんだろう!?」
 床に這いつくばり、ぶかぶかの服の中で溺れそうになりながら、神楽坂はかつての友を見上げた。

毒島は冷酷な裁判官のように、小さくなっていく神楽坂を見下ろしていた。
 「方法? あるわけないだろう。君はいつもそうだ。他人の結果だけを欲しがり、その裏にあるリスクや論理を学ぼうとしない。これは、君の浅ましい強欲さが招いた『自爆』だよ。私の手を汚すまでもなかった」

***

それから一時間後。
 静まり返った研究所の廊下には、主を失った、だらしなく広がる白衣と衣服だけが残されていた。
 神楽坂だった存在は、赤ん坊の段階すら通り越し、目に見えないほど小さな単細胞の塊へと分解され、最後は空気中に静かに溶けて消えていった。この世に生きていた証拠ごと、完全に消滅したのだ。

毒島は感情の籠もらない手つきで床の衣服を拾い上げ、大きなゴミ袋へと押し込んだ。
 「さて、神楽坂助教の失踪届の手続きを始めないとな。研究のプレッシャーに耐えかねての夜逃げ。動機としては誰もが納得するだろう」

窓の外からは、何も知らない学生たちの明るい笑い声が聞こえてくる。
 毒島は自席に戻り、静かに顕微鏡を覗き込んだ。彼の横顔には、同僚を一人抹殺したことへの罪悪感も、哀れみも、ひとかけらも浮かんでいなかった。ただ、次の研究への冷徹な野心だけが、その瞳の奥で怪しく光っていた。


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