教授と僕の研究人生相談所



第67回(更新日:2016年12月17日)

自分の強みを知るのは難しい 1ページ目/全2ページ

僕「もう年末ですね、教授。仕事納めは終わりましたか?」

教授「君の顔も今日で見納めになるといいな」

僕「いきなり辛辣なこと言わないでくださいよ」

教授「早く実家に帰れよ(ボソ)」

僕「え、何か言いました?」

教授「いや、何も。君は帰省しないのか?」

僕「え、何を規制するんですか?」

教授「は?いや、何でもない。もう年末だな」

僕「ええ、もう年末ですね。あ、『きせい』って実家に帰るという意味の帰省だったんですね。すみません。日本語って難しいですね」

教授「君と会話する方が難しい」

僕「またまたそんな。ところで教授、今年はどうでしたか?」

教授「君に言う必要はない」

僕「えー、そんな。つれないことばかり言わないでくださいよ。でも教授、今日は冷たいというよりも疲れてますね。大丈夫ですか?」

教授「俺のことが心配なら、早く解放してくれんかね。一息つくために来た喫茶店にまで付いてこられたら気の休まる暇がない」

僕「う・・・確かにそうですね、すみません。でもちょっとだけ僕の話に付き合ってくださいませんか。今日のコーヒー代は僕が払いますから」

教授「いやいい。汚い金で奢ってもらっても嬉しくない」

僕「汚くないですって」

教授「誰を騙したんだ?」

僕「誰も騙してませんって。僕らの本が思ったより売れたんで、ここの喫茶店のコーヒー代くらいは印税で払えるんです」

教授「やっぱり騙して手に入れた金か。あんな本を買わされた奴は可哀想だな」

僕「えー、そんなこと言わないでくださいよ。本を買ってくださった方からメールも頂いているんですから」

教授「ふん。で、何万部売れたんだ?」

僕「え・・・?」

教授「思ったより売れたって言ったから、何万部売れたのかって聞いたんだ」

僕「えっと・・・実売数は大人の事情で明かせないんですが、発売後2週間での販売数は(ピー)部です」

教授「は?たったそれだけか?」

僕「え、えぇ・・・何かすみません」

教授「いや、あの内容を考えれば、2週間でそれだけ売れたとしたら御の字だな。それに、それだけ売れてれば、こないだのケーキセット(第1巻の『おまけ対談』参照)と今日のコーヒー代くらいは払えるか」

僕「は、はい。でも、僕らの本のちょっと前に発売された『博士号を取得した私がアメリカの製薬会社でテクニシャンをやってみた』は、すごく売れてるらしくて、それは発売から一ヶ月が経過してから急に売れ出したようなんですよね。だから、僕らの本もこれからぐっと売れないかな、とちょっと期待してるんです」

教授「どのくらい売れたんだ?」

僕「その本ですか?僕が知ってる範囲で(ピー)部です」

教授「ほぉ。で、その本の内容はどんなんだ?君は読んだのか?」

僕「えぇ。あんまり大きい声では言えないんですが、特別にゲラ刷りを送ってもらったんです。だから買ってはいないんですよね」

教授「ゲラ刷りは著者からか?」

僕「いえ、編集部からです。僕らの本を出す準備をしているとき、参考までにってことで送ってくれたんです。すごく面白かったですよ。教授にもお渡しできると思うので編集部に確認してみますね」

教授「いやいいよ、読む時間ないし。君に簡単なあらすじを教えてもらえばいい」

僕「あらすじと言っても、タイトルそのものがあらすじみたいなもんなんですけどね」

教授「タイトル?」

僕「はい。『博士号を取得した私がアメリカの製薬会社でテクニシャンをやってみた』というタイトルなのですが、本の著者は日本で博士号を取ってアメリカでポスドクをしたんですが、途中からアメリカの製薬企業でテクニシャンをしてたようなんです」

教授「それは興味深いキャリアパスだな」

僕「えぇ、そうなんです。で、そのポスドクからテクニシャンへとキャリアチェンジした体験談を、僕らの連載が掲載されてるBioMedサーカス.comで連載という形で紹介してたんですが、その連載って3年くらい前のものなんです。で、今回、その作者の連載終了後から現在までの状況をアップデートした文章を追加して本として出版したんです」

教授「なるほど。で、その人は今どうなってるんだ?」

僕「えっと、それはある意味でネタバレになるので公には出来ないんですが(ピー)なことがあって(ピー)で(ピー)なんです」

教授「興味深いな。で、その本は長いのか?」

僕「分量的にですか?えっと、そんなに長いとは思わなかったですね。読みやすかったですし、僕はその内容にとっても興味があったので、一気に読んでしまいました」

教授「そうか。じゃあ今度俺も読んでみるかな」

僕「えぇ、面白い本ですよ。博士号を取ったとしても、別に研究職にこだわらなくても幸せになれるんだと思いました」

教授「何を今更なことを言ってるんだ。むしろ博士号を取って研究職にこだわってる奴の方が不幸せになるぞ、これからは特にな」

僕「えー、そうなんですか。僕はやっぱり研究者として生活していきたいなと思ってるんですが・・・。でも、この本の作者さんって、絶対に僕より優秀で賢いんですよね。そんな人でも状況によっては研究職でなくテクニシャンとして生きていかざるを得ないって事実にちょっとショックを受けたんです」

教授「作者は優秀なのか?」

僕「と思います。何ていうか、文章から滲み溢れる優秀さが感じられるんですよね」

教授「何だそれは」

僕「いやまあ、何となくって感じなんですけど。でも、この作者さんは本も出してますし」

教授「君だって本を出したじゃないか」

僕「いやまあそうなんですが・・・」

教授「ふん。その作者が君よりも圧倒的に優秀なのは、まあそうだろう。君より優秀でない人間を探す方が難しい」

僕「ぐ・・・」

教授「だが、『本を出した』という一点においてだけは、その作者と君は同格だ。よくいるんだよ、意味もなく引け目を感じて無駄に自信をなくす奴がな。で、そういう奴に限って、変なところで傲慢になって慢心して失敗するんだ」

僕「ぐ・・・」

教授「客観的に自分というものを理解できていないんだよな。だから他人と自分を比較するときも、何となくその場の雰囲気で引け目を感じたり逆に傲慢になったりもする」

僕「返す言葉がありません・・・」

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