教授と僕の研究人生相談所



第67回(更新日:2016年12月17日)

自分の強みを知るのは難しい 2ページ目/全2ページ

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教授「まあいい。君はもう帰れ。俺は引き続きコーヒーを飲みながら今年の振り返りとかをここでする」

僕「僕も一緒に振り返っていいですか?」

教授「俺の一年の振り返りをするのに、君が同席する意味がわからん。君は君の好きな場所とタイミングで自分の振り返りをすればいいだろう」

僕「まあそうなんですが・・・。でも、せめて読者からの相談に一つだけでも答えていただけないでしょうか。読者からの相談が溜まりに溜まってます」

教授「ふん、会ったこともない奴の相談なんか興味ない」

僕「そんなこと言わないください。あ、これなんかどうでしょうか。僕らの本を読んでくださった方からのメッセージに教授への相談が含まれてたんです」

教授「あの本を読んだのに俺に相談をしたいなんて、この相談者の頭は大丈夫なのか?」

僕「いきなり毒を吐かないでください」

教授「そもそも俺はあの本は5冊くらいしか売れんと言っていたんだぞ。でも実際はもっと売れてるんだろ?この事実だけを持ってしても俺の言うことは適当だということがわかる。そんな俺に相談なんかしても時間の無駄だ」

僕「教授らしいもっともらしい屁理屈ですね」

教授「ふん」

僕「で、この相談は、某旧帝大の医学部4年生からのお便りの中にあった内容なんですが、医学部ながら基礎医学に興味があり将来は臨床医ではなく基礎研究の世界で生きていきたいようなんです。で、医者になった時点で大きな遅れがあると言われているようなので、基礎研究の世界で生きて行くためのアドバイスが欲しいようなんです」

教授「医者でもない俺に聞く相談じゃないな。却下」

僕「いえいえ、そんなことないですよ。基礎研究の世界の裏も表も知り尽くした教授だからこそ相談者もメールをくれたんだと思いますよ。僕らの本も買ってくれたようですし」

教授「ふん、お買い上げありがとうございました。では次回作でお会いしましょう」

僕「意味がわかりません」

教授「俺は、この相談メールにある前提がわからん」

僕「と言いますと?」

教授「基礎研究をするにあたり、医者になった時点で大きな遅れがある、とあるが、そうなのか?」

僕「どうなんでしょう?」

教授「そりゃあ、医学部に入って医者になる勉強をしたあとで植物や海洋生物とかの分野の基礎研究をしたいってなったら、ある意味で『遅れ』と表現しても間違いではないだろうよ。だがな、医学系や生物学系の分野の基礎研究ならば、医者になるための勉強はむしろアドバンテージだと思うぞ」

僕「なぜですか?」

教授「そんなの当然だろ。医学系や生物学系の基礎研究のほとんどは、語弊を恐れず極論すれば、その最終目的は人の健康を促進させることだ。つまりは、病気を治すだとか、病気にならないようにするだとか、そういうことだ。だから、そういう基礎研究をする上で、医者になるための勉強をしたという経験は非常に大事だ。それに、仮に医者として第一線で働かなかったとしても、患者と直に接したことがあるというのは、基礎研究をする上での良いモチベーションになることもある」

僕「なるほど」

教授「君も俺もそうだが、ほとんどの医学系や生物学系の基礎研究をやってる奴らは、自分が関係している病気の患者がどういうものかを知らない。なのに、論文を書くときや研究費の申請書なんかには、この研究は◯◯の病気の治療に役立つ、みたいに書くんだよ。ほんと文字通り口だけって感じだよ。だから口八丁な奴が偉くなったりするんだよ、この世界は」

僕「はあ」

教授「だから、今回の相談者は基礎研究の世界に入るにあたり、『遅れ』なんて引け目を感じる必要は全くない。さっきの君の話とも関係するが、この相談者も自分のアドバンテージを客観的に見れてないんだよな。ま、若いから仕方ないとは思うがね」

僕「医者になった時点で遅れという発言は、どうも周囲の声のようですから、もしかしたら医者の間では基礎研究の世界に行く人間に対して思うところがあったりするのかもしれませんね」

教授「そうかもしれんな。どの世界でも、ダメな奴ほど自分たちの世界から別の世界に飛び出そうとしている人間には辛くあたる」

僕「ということは、この相談者へのアドバイスは周りの声に惑わされずに客観的に自分を見て頑張れ、ということになるでしょうか」

教授「ふむ。君にしてはまともな要約だ」

僕「恐縮です」

教授「だが、実はそれ以上に重要なアドバイスがある」

僕「え?」

教授「俺からの具体的で実践的なアドバイスは、医学部にいる間に医者として働いてくれる嫁を見つけろ、ということだ。それか、医学部ということを使って資産家の令嬢をゲットしろ、だな」

僕「また叩かれそうなアドバイスを・・・。でも、何でですか?」

教授「ふん、世の中は金だ。基礎研究なんてやってても金にならんことが多い。で、金がなければ生活も不安定だし、精神的にも辛い。そんなとき、金があって生活が安定してれば、気持ち的にも落ち着いて研究に専念できる。この違いは大きいぞ。それに、そもそも研究に割ける時間というのは、年とともに減るんだよ」

僕「何故ですか?」

教授「ふん、年をとれば体力的にも精神的にも疲れやすくなる。それに家庭を持てば、色々と自分の時間を家庭の用事にとられる。ま、一部のボッチャン研究者は、嫁があたかも自分の第二のママのようになってくれて、研究以外の用事は全てやってくれたりすることもあるけどな。顔つきが幼くて、ひたすら研究のことばかりを楽しそうに話してるそれなりの職位の男性研究者の多くはそのタイプだな。ま、君は結婚できるかどうかすら怪しいから、一生、自分の時間を全て研究に使えるぞ。よかったな」

僕「あんまり嬉しくありません・・・」

教授「ま、いずれにしろ、今回の相談者は基礎研究の世界に入るにあたり、大きな遅れを取ったと引け目を感じる必要はない。むしろ、医者になるための勉強は基礎医学の研究をする上で大事なステップだったと思えばいい。で、基礎研究の世界に入ったら、その場その場で必要なことに全力を尽くせばいいんだ。ま、それに加えて、できることならば、お金の心配がないように条件の良い嫁をゲットしておくんだな」

僕「後半のアドバイスは色々と叩かれそうですが、今回もありがとうございました」

教授「それにしても、自分がどんな強みを持っているかよく理解できてない奴ってのは本当に多いんだよな」

僕「僕の強みってなんでしょうか?」

教授「俺に冷たくされてもヘコたれずに話を聞きにくるメンタルの強さ、かな」

僕「・・・」

教授「ふん、誉めてるんだよ。とりあえず今日は帰れ。来年も、俺のつれなさに君の心が折れるまでは君の連載に付き合ってやるよ」

僕「はい。来年もよろしくお願いします。今年は色々とお忙しかったのにありがとうございました」

教授「あと実家には帰れよ。ご両親が待ってるぞ。君みたいな奴でも帰省すれば喜んでくれるだろう」

僕「・・・」

教授「ちなみに、俺は値がはるものが貰えると喜ぶ」

僕「・・・」

教授「だから、戻ってくるときは俺へのお土産は忘れずにな」

僕「・・・」

執筆者:「尊敬すべき教授」と「その愛すべき学生」

*このコーナーでは「教授」への質問を大募集しています。質問内容はinfo@biomedcircus.comまでお願いいたします(役職・学年、研究分野、性別等、差し支えない程度で教えていただければ「教授」が質問に答えやすくなると思います)。

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