研究者のためのライフハック的思考術
Tweet第7回(更新日:2013年12月9日)
インターネットを使って自分を売り込む2
本連載は、ライフハック(人生・仕事を効率化)という概念が、研究者のキャリア構築にどのように役立つかを考察しています。
研究者にとって自分および自分の研究を周りに知ってもらうことは重要です。インターネットが普及する前は、論文発表や学会などで自らを売り込むことが主要な手段であったため、教授クラスの研究者でないと自分を知ってもらうことは難しい状況でした。しかし今では、学生やポスドクでも、インターネットを通じて研究者としての自分を広く世間に知ってもらうことが可能です。
研究者がキャリアを構築していくためには、「自分が誰を知っているか」よりも「誰が自分を知っているか」の方が重要です。そのため、自分と直接の関係がない第三者に自分をアピールできるインターネットは、活用次第では研究者のキャリア構築に役立ちます。
前回(第6回)は、自分を世界に向けて発信できるインターネット・ツールの概要を紹介しました。今回は、それらツールの利点・欠点について紹介します。
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(1)情報発信を主目的としたツール
はじめに、情報を発信することを目的としたツールの紹介です。これにはホームページ、メールマガジン、ポッドキャスト、ネットラジオ等が含まれます。ポッドキャストは音声や動画をウェブ上で公開するもので、ホームページやメールマガジンの音声・動画バージョンです。
これらは、基本的には一方通行の情報発信ツールです。しかし、情報(研究業績や研究内容など)を秩序立てて発信できるため、その情報に価値があれば、研究者としての自分を広く世間に知ってもらうことができます。一方で、発信する情報に価値があまりない場合には、それらは誰の目にも触れることなく情報の海に沈んでしまいます。また、上記ツールを使用するためには、ある程度の専門的知識(HTML/CSS、音声・画像編集など)が必要となってきます。そのため、以下で紹介するツールよりも、情報を発信するための準備に時間がかかることがあります。
(2)公開した情報に対するコメントを第三者が閲覧できるツール
次に紹介するのは、発信した情報に対する他者の反応を第三者が閲覧できるツールです。ここに分類されるものは、ブログやTwitterなどが挙げられます。ブログやTwitterを使用するためには特殊な専門知識は必要ありません。インターネットに繋がっているパソコンがあれば、思い立った日に誰でも無料で始めることが出来ます。これらツールは、自分が発信した情報に対する閲覧者のコメントを第三者が見ることが出来ます。さらに、そのコメントに対する自分の意見・考えを同じブログやTwitterで公開することも出来ます。そのため、ホームページなどでの「あらかじめ準備された情報(公的な自分)」を発信することに加え、他者との対話(リアルタイムなものも含む)も公開できるため、自らの人間性も世間に知ってもらうことができます。
しかし、このような利点はそのまま欠点にもなり得ます。誰でも気軽に始められるということは、研究者としての自分を世界に発信できる人が多くなるということです。そのため、特別な目的や戦略を立てずに情報発信をした場合、自分の情報は他の人が発信した情報に埋もれてしまいます。また、ブログやTwitter上の情報は誰でも許可なく閲覧できるため、愉快犯的に悪意あるコメントを残す人も出てきます。そのような人とのやり取りは時間を無駄に消費するだけです。また、自分に対する悪意のコメントを読むことで心を乱し、研究活動に支障をきたす可能性もあります。
(3)他者との交流を重視したツール
最後に紹介するのは、Mixi・Facebook・LinkedInなどに代表されるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)です。
これらツールは他者との交流を重視していることが特徴です。これらサービス内には、いくつものコミュニティーが存在しており、研究者が集うものもあります。そこでは、自分の研究分野に関する意見交換や議論が出来るため、研究者としての自分を直接的に売り込むことが出来ます。
しかし、SNSの世界は閉じられた空間であることが多いです。そのサービス/コミュニティーの外にいる人には、中で何が行われているかを見ることが出来ません。そのため、これらのツールは、自分を広く世間に発信するという目的には向いていません。ただ、LinkedInは他のSNSとは少し趣が異なります。このサービスは、自分の専門性(職務経験など)をインターネット上で公開することで、その業界内でのネットワークを広めることを目的としています。自分に関する情報は、LinkedInに加入していない人でも閲覧できるため(ユーザー同士の交流内容は閲覧できない)、MixiやFacebookよりも多くの人に研究者としての自分を知ってもらえることが期待できます。
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以上、研究者としての自分を売り込むことの出来るインターネット・ツールを紹介しました。それぞれのツールは全てプラスとマイナスの側面があります。そのため、何を目的として自分(および自分の研究)をインターネット上で公開するのかを良く考えた上でツールの選択をすることをお勧めします。
最終回となる次回は、これまでの総括となります。お楽しみに。
本記事は2010年~2011年に北米東海岸の研究者ネットワークJaRANのメールマガジンで連載されていた記事を転載したもので、記載してある内容は連載当時の情報となります。