執筆者自身による研究論文レビュー
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『尿酸結晶により惹起される炎症反応はP2Y6を介する』
更新日:2012年2月27日
原著論文:P2Y6 receptor signaling pathway mediates inflammatory responses induced by monosodium urate crystals.
The Journal of Immunology 188:436-444, 2012.
執筆者:多田弥生
立正佼成会附属佼成病院皮膚科
概要
痛風の原因である尿酸結晶で表皮ケラチノサイトを刺激したところ、IL-1α, IL-8/CXCL8, IL-6の産生が促進された。また、これらのサイトカイン産生はP2Y6特異的阻害剤により抑制され、痛風マウスモデルにP2Y6阻害剤を投与したところ、炎症を抑制できた。これの結果からP2Y6阻害剤は尿酸結晶の関連した炎症の治療薬となりうる可能性があると考える。
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はじめに
尿酸は核酸を構成するプリン体の最終代謝産物であり、生体内で尿酸がある一定濃度以上になると、尿酸結晶として析出する。特に関節周囲に析出した場合には痛風としての臨床を呈することは古くから知られているが、尿酸結晶がなぜ炎症を惹起することができるのかについては不明であった。近年、死細胞の細胞質の成分のうち、尿酸結晶(monosodium urate crystal:MSU crystal)が樹状細胞に対して非常に強いアジュバント効果を示すことが報告された1)。その後、MSUの貪食細胞への作用機序、その結果としての炎症の惹起についての詳細が次々とわかってきている。
MSUがmonocyteなどに貪食されると、ライソゾームの透過性が亢進し、ライソゾーム内容物が細胞質内へ出てくる。この中で特にCathepsin BがNALP-3, ASC, CARDINALの三つの蛋白複合体からなるNALP-3 inflammasomeの形成を促進する。NALP-3 inflammasomeは pro-caspase 1に結合し、これを活性型caspase-1とし、活性型caspase-1はpre-mature IL-1βを活性型IL-1βとし、活性型IL-1βは内皮細胞、線維芽細胞からMyD88依存性にIL-6, IL-8産生を促進し、炎症が惹起されるとされている2-4)。しかし、上皮系の細胞へのMSUの作用についてはこれまでのところ報告がない。一方で1981年にGoldmanは乾癬の表皮内に尿酸結晶が存在することを偏光顕微鏡などの所見をもって報告しており5)、つまり、乾癬などの皮膚疾患においてはケラチノサイトが尿酸結晶から作用を受ける可能性があると考えられる。さらに、渡辺らはケラチノサイトがタンパク質レベルでNALP3、ASC、Caspase-1、活性型IL-1βを有していることを報告しており6)、この結果は、MSUがケラチノサイトに作用した場合にケラチノサイトはNALP-3 inflammasomeを形成し、活性型IL-1βを産生できることを示唆している。そこで、我々はMSUがケラチノサイトからのサイトカインやケモカイン産生にどのような影響を及ぼすかを検討した。
方法
Normal human keratinocyte(NHK)をMSU刺激下で24時間培養し、培養上清中のサイトカイン、ケモカインをELISAにて測定した。また、実験によっては受容体拮抗剤(receptor antagonist)の存在下でNHKをMSU刺激した。マウスin vivoモデルではair pouch内または腹腔内にMSU投与1時間前にP2Y6 receptor antagonistを投与し、air pouch内または腹腔内に遊走してきたLy-6G陽性細胞(好中球数)フローサイトメトリーにて計測した。
結果と考察
MSU存在下でNHKを培養すると、MSUは濃度依存性にNHKからのIL-1α, IL-1β, IL-6, IL-8の産生を促進した。さらに、NHKをIL-1 receptor antagonist存在下でMSU刺激し、サイトカイン産生をみたところ、IL-1 receptor antagonistは濃度依存性にIL-6, IL-8, MIP-3αの産生を抑制したが、IL-1α, IL-1β,の産生は抑制しなかった。つまり、NHKから産生されるIL-1がその他のサイトカイン、ケモカインを誘導することがわかった。次に、IL-1のうちIL-1αとIL-1βのどちらが誘導により関わっているかを検証した。IL-1α中和抗体がMSU刺激下でのIL-6, IL-8産生を抑制したため、NHKにおいてはIL-1αが他のサイトカインの産生誘導により重要であると考えられた。
Monocyteなどの貪食細胞ではMSUが細胞内に貪食されることにより作用を発揮することが示されているが、NHKがMSUを貪食している像は電子顕微鏡を用いた検討では認められなかった。また、貪食抑制作用のあるcytochalasin DでNHKを処理してもMSU刺激によるNHKからのサイトカイン産生は抑制されなかった。そこで、NHKではMSUの刺激を下流に伝える別の機序が貪食以外に存在すると考え、さらに、MSUがプリン体の最終代謝産物であることから、プリン体受容体の関与について検証する事にした。すると、P2 receptor antagonist (Suramin), P2Y receptor antagonist(Reactive Blue 2)ともにほぼ完全にMSUによるIL-1α, IL-8, IL-6産生を抑制した。
つぎにP2Y receptor のうち、どの受容体が特に関与しているかを調べるため、NHKに発現しているP2 receptorを調べた。MSU刺激によりP2Y6とP2Y14の発現が転写レベルで上昇したが、抑制効果を示したReactive BlueはP2Y14ではなく、P2Y6の拮抗薬であるため、P2Y6に注目した。P2Y6の発現はreal time PCRでも、蛋白レベルでもMSU刺激によって増強した。そこで、P2Y6 receptor antagonistの作用を検討したところ、P2Y6 receptor antagonistはMSUによるIL-1α, IL-6, IL-8産生を抑制した。同様にP2Y6 antisense oligonuceotidesもMSUによるIL-1α, IL-6, IL-8産生を抑制した。次に、この抑制効果のin vivoでの意味を検証するためマウスの皮下にair pouchを作り、ここにMSUを注入する事により遊走してくる好中球をP2Y6 receptor antagonistが抑制できるかどうかをみたところ、P2Y6 receptor antagonistは有意にair pouch内への好中球浸潤を抑制した。さらに、痛風のマウスin vivoモデルとして用いられているマウス腹膜炎モデルにおけるP2Y6 receptor antagonistの効果をみたところ、P2Y6 receptor antagonistは有意に腹腔内への好中球遊走を阻害した。
おわりに
我々の結果はMSUはP2Y6を介してケラチノサイトでは、IL-1αなどのサイトカイン産生を誘導し、炎症を惹起することを示している(図)。P2Y6 receptor antagonistによってこの炎症が抑制できることから、P2Y6 receptor antagonistは痛風結節などMSUの関連する炎症性皮膚疾患の治療薬となりうる可能性があると考える。
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参考文献
1) Shi, Y., Evans, J. E. & Rock, K. L. Molecular identification of a danger signal that alerts the immune system to dying cells. Nature 425, 516-521 (2003).
2) Chen. C. J. et al. Myd88-dependent IL-1 receptor signaling is essential for gouty inflammation stimulated by monosodium urate crystals. J. Clin. Invest. 116, 2262-2271 (2006).
3) Martinon, F., Petrilli, V., Mayor, A., Tardivel, A. & Tschopp, J. Gout-associated uric acid crystals activate the Nalp3 inflammasome. Nature 440, 237-241 (2006).
4) Hornung, V. et al. Silica crystals and aluminum salts activate the NALP3 inflammasome through phagosomal destabilization. Nat. Immunol. 9, 847-856 (2008).
5) Goldman, M. Uric acid in the etiology of psoriasis. Am. J. Dermatopathol. 3, 397-404 (1981).
6) Watanabe, H. et al. Activation of the IL-1β-processing inflammasome is involved in contact hypersensitivity. J. Invest. Dermatol. 127, 1956-1963 (2007).