執筆者自身による研究論文レビュー
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『Identification of innate IL-5-producing cells and their role in lung eosinophil regulation and antitumor immunity』
更新日:2012年3月16日
原著論文:Identification of innate IL-5-producing cells and their role in lung eosinophil regulation and antitumor immunity. The Journal of Immunology 188: 703-713 (2012)
執筆者所属:1富山大学大学院医学薬学研究部(医学)免疫バイオ創薬探索研究講座 (寄附講座)、2富山県薬事研究所
概要
IL-5は好酸球を制御するT細胞由来のサイトカインであるが、IL-5産生細胞の生体内局在は不明な点が多い。我々はIL-5/Venusノックイン(KI)マウスを作出し、T細胞とは異なる新たなリンパ球亜集団(原始IL-5産生細胞)が定常的にIL-5を産生すること、それが肺組織に多数存在することを発見した。さらに、原始IL-5産生細胞が肺における好酸球の維持に関与し、癌細胞の肺転移を監視し抑制に貢献していることを本研究で明らかにした。
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IL-5と好酸球
インターロイキン(Interleukin:IL)は免疫担当細胞に作用するサイトカインであり、現在までにヒトで38種類(IL-1〜IL-38)、マウスで37種(IL-1〜IL-37)が同定されている。サイトカインは免疫学的特性や構造上の類似性から複数のグループに大別される。例えば、細胞性免疫や細胞傷害性CD8+ T細胞を活性化させ、ウイルス感染細胞や癌細胞の抗原特異的な排除に作用するIFN-γ は1型ヘルパーT(Th1)細胞により産生される。また、IgE産生と肥満細胞活性化、好酸球誘導、寄生虫の感染防御に係わるIL-4、IL-5、IL-13はTh2細胞により産生される。IL-5はTh2細胞のみならず肥満細胞や好酸球、好塩基球などにより産生される。マウスにおいてIL-5はIgMやIgAなどの自然抗体の産生に寄与するB細胞(B-1細胞)の生存や分化に不可欠である。マウスおよびヒトIL-5は好酸球の生産や生存維持に必須である [1]。
好酸球は細胞内顆粒のカチオンタンパク質を保有し寄生虫感染防御に貢献する。しかしながら、気管支喘息や接触性皮膚過敏症などのアレルギー疾患において、好酸球は炎症局所に浸潤し組織傷害を惹起し炎症を増悪化させる。好酸球がどのような組織で定常的に生産され生存しているのか、それらを制御するIL-5が局所でどのような細胞により生産されるのか、は重要かつ興味深い研究課題である。
Innate Lymphoid Cell (ILC)
近年、新たなリンパ球集団としてILCが同定され、その生理作用が脚光を浴びている [3]。免疫系は貪食細胞や顆粒球が主体をなす自然免疫とリンパ球が主役である獲得免疫に大別される。ILCはTh2サイトカインを産生し自然免疫の制御、獲得免疫の惹起に関わる。ILCはアレルギー反応の誘導因子であるIL-25やIL-33に応答し多量のTh2サイトカインを産生するが、それらは複数の細胞集団より構成されると考えられる。ILCの一つであるナチュラルヘルパー細胞は脂肪組織に点在するリンパ球クラスター内に存在し、IL-4、IL-5、IL-6、IL-13等を自然に産生する細胞として報告された [4]。IL-13産生細胞として同定されたNuocyteは腸管粘膜固有層、腸管膜リンパ節などの腸管免疫関連組織に局在し、寄生虫の排除にその役割を担う事が示された [5]。さらにILCは肺組織や気管支周辺でインフルエンザウィルスの排除や気管支喘息にも関与することが相次いで報告されてきており [6, 7]、免疫系の制御における役割が注目されている。
IL-5/Venusノックインマウスの作製とIL-5産生細胞の同定
IL-5を産生する細胞はTh2細胞をはじめ複数同定されている。我々はT細胞欠損マウスや肥満細胞欠損マウスでもIL-5が産生されることから、炎症局所ではこれまで知られている細胞集団とは異なる細胞群がIL-5を産生していると考えた [8]。新たなIL-5産生細胞を同定するため、本研究ではIL-5/Venus KIマウスを作出した。このマウスではIL-5遺伝子の翻訳開始点以降が黄色蛍光タンパク質(Yellow Fluorescent Protein:YFP)の変異体であるVenusの遺伝子に置換されており、IL-5産生細胞はフローサイトメトリー法や免疫組織染色法により容易に検出できる仕組みになっている(図1)。このマウスを用いてIL-5産生(Venus陽性)細胞の同定を試みた結果、定常状態においてTh2細胞に比べ多量にIL-5を産生する細胞を見出した。この細胞は主に肺組織と腸管粘膜固有層に存在しており、その細胞表面マーカーを検討してみると、血球系列マーカー陰性で幼若な細胞に発現が見られるc-kitを発現している事が明らかとなった。さらに他の細胞表面マーカーの解析を行いILCの表面マーカーと比較したところ、我々が新たに見出した細胞は既知のILCと類似している点もあるが、明確な違いがあることも明らかになった。ナチュラルヘルパー細胞と同様にVenus陽性細胞は定常状態でIL-5を産生するが、前者は脂肪組織に局在し後者は肺組織や腸管粘膜固有層に検出できる。両者の局在する組織は異なるらしい。また、ILCはIL-25やIL-33に応答してTh2サイトカインを産生するが、IL-13産生NuocyteはIL-25とIL-33に同程度の反応性を示す。我々のVenus陽性細胞はIL-33により高い応答性を示すなどNuocyteとの違いも認められた。我々の研究成果を他のILCと比較し、我々はVenus陽性細胞をInnate IL-5-Producing Cell(原始IL-5産生細胞)と呼ぶことにした。今後、原始IL-5産生細胞がILCのなかで独立した細胞群であるのか、既知のILCの前駆細胞ないし分化の異なる細胞であるか詳細な検討を行う必要がある。
図1
A)IL-5KIマウス作製設計図。野生型IL-5遺伝子座の翻訳開始点(ATG)にVenus遺伝子を置き換えることにより、IL-5の発現条件が整うと換わりにVenus遺伝子が発現する仕組みである。B)フローサイトメトリー法によるVenusの検出。図は肺組織のリンパ球集団に存在するVenus陽性(IL-5産生)細胞を青色ゲートで示してある。C)蛍光免疫組織染色法によるVenusの検出。図は肺組織中のVenus陽性細胞の局在を示してある。赤色はVenusを、緑色はT細胞を、青色は核を表す。
肺に存在する原始IL-5細胞の生理作用
アレルギー様の疾患にIL-5依存性の好酸球増多が気管支粘膜に集積することは良く知られている。我々は原始IL-5産生細胞が肺に最も多く存在していることに着目し、細胞の肺における役割を検討することにした。原始IL-5産生細胞は気管支や細気管支の周囲を取り巻くように分布しており、IL-33の気管支内投与によって顕著に細胞数が増加した。その部位は気管支に炎症が起こると好酸球が集積する部位でもあり、原始 IL-5産生細胞の産生するIL-5により好酸球が肺に遊走してくる可能性がある。
定常状態においても一定の割合で原始 IL-5産生細胞が肺に存在している。IL-5欠損マウスの肺組織内の好酸球数は野生型マウスのそれのおよそ1/3であった(図2)。好酸球の生理作用として、寄生虫感染防御の加え、抗腫瘍免疫にも一役買っているとの報告がある [9]。IL-5欠損による好酸球の減少が抗腫瘍免疫の低下の一翼を担っている可能性を考え、IL-5欠損マウスにメラノーマ細胞を移植し肺転移の経緯を野生型マウスのそれと比較した。IL-5欠損マウスでは野生型と比較してメラノーマ細胞の肺転移が有意に増悪していた(図2)。メラノーマ細胞の肺への浸潤に伴い、肺に原始IL-5細胞数と好酸球の割合が増加する現象も観察された。これらの結果は、定常状態で原始 IL-5産生細胞から産生されるIL-5が肺組織内の好酸球を恒常的に維持し肺への癌転移を監視し、必要に応じて肺転移を抑制している機構が存在すると考えられる。
図2
A)野生型とIL-5欠損マウスの肺組織中の好酸球(青色ゲート)の割合。B)野生型とIL-5欠損マウスにおけるメラノーマ肺転移実験。メラノーマ細胞移入後14日目の肺を示す。
今後の研究の発展
これまでに、IL-5やIL-5受容体に対する抗体を利用してIL-5の細胞内シグナル伝達を阻害し、喘息などの好酸球依存性のアレルギーの治療に利用する前臨床研究がなされている。抗IL-5抗体(mepolizumab)を治療に用いると血液中や喀痰中の好酸球数は著明に減少することは確認されているが、喘息の臨床症状の改善には至っていない。現在、抗IL-5抗体(reslizumab)やIL-5レセプターα鎖に対する抗体(benralizumab、MEDI-563)を利用し引き続き臨床試験が行われており、後者はIL-5レセプターを含有する好酸球などを殺傷させるという知見も得られている [10]。現行の治療において喘息は年齢や重症度にもよるが、副作用の強いステロイド剤などの抗炎症薬を常用するケースが多い。この結果、気道の炎症や肺機能は改善されるが、長期の免疫応答の障害がおこり細菌や寄生虫感染防御の脆弱化に陥り、好酸球の枯渇が本研究の結果のように癌細胞の転移を許してしまう危険性をはらんでいる。この相反する作用が免疫のジレンマであり、どちらか一方に偏った方法ではなく、中長期的な視点で免疫のバランスを考慮した喘息治療が必要になってくるのではないか。この観点においてIL-5による好酸球の制御機構や他のTh2サイトカインの作用機序の解明が重要であり、今後は原始IL-5産生細胞を含むILCの制御機構や病態の発生における関与が研究の焦点になると考えられる。
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参考文献
1. Takatsu, K., Nakajima, H. (2008) IL-5 and eosinophilia. Curr Opin Immunol 20, 288-94.
2. Yoshida, T., Ikuta, K., Sugaya, H., Maki, K., Takagi, M., Kanazawa, H., Sunaga, S., Kinashi, T., Yoshimura, K., Miyazaki, J., Takaki, S., Takatsu, K. (1996) Defective B-1 cell development and impaired immunity against Angiostrongylus cantonensis in IL-5R alpha-deficient mice. Immunity 4, 483-94.
3. Spits, H., Cupedo, T. (2011) Innate Lymphoid Cells: Emerging Insights in Development, Lineage Relationships, and Function. Annu Rev Immunol.
4. Moro, K., Yamada, T., Tanabe, M., Takeuchi, T., Ikawa, T., Kawamoto, H., Furusawa, J., Ohtani, M., Fujii, H., Koyasu, S. (2010) Innate production of T(H)2 cytokines by adipose tissue-associated c-Kit(+)Sca-1(+) lymphoid cells. Nature 463, 540-4.
5. Neill, D.R., Wong, S.H., Bellosi, A., Flynn, R.J., Daly, M., Langford, T.K., Bucks, C., Kane, C.M., Fallon, P.G., Pannell, R., Jolin, H.E., McKenzie, A.N. (2010) Nuocytes represent a new innate effector leukocyte that mediates type-2 immunity. Nature 464, 1367-70.
6. Chang, Y.J., Kim, H.Y., Albacker, L.A., Baumgarth, N., McKenzie, A.N., Smith, D.E., Dekruyff, R.H., Umetsu, D.T. (2011) Innate lymphoid cells mediate influenza-induced airway hyper-reactivity independently of adaptive immunity. Nat Immunol 12, 631-8.
7. Bartemes, K.R., Iijima, K., Kobayashi, T., Kephart, G.M., McKenzie, A.N., Kita, H. (2012) IL-33-responsive lineage- CD25+ CD44(hi) lymphoid cells mediate innate type 2 immunity and allergic inflammation in the lungs. J Immunol 188, 1503-13.
8. Moon, B.G., Takaki, S., Miyake, K., Takatsu, K. (2004) The role of IL-5 for mature B-1 cells in homeostatic proliferation, cell survival, and Ig production. J Immunol 172, 6020-9.
9. Simson, L., Ellyard, J.I., Dent, L.A., Matthaei, K.I., Rothenberg, M.E., Foster, P.S., Smyth, M.J., Parish, C.R. (2007) Regulation of carcinogenesis by IL-5 and CCL11: a potential role for eosinophils in tumor immune surveillance. J Immunol 178, 4222-9.
10. Molfino, N. A., Gossage, D., Kolbeck, R., Parker, J. M. and Geba, G. P. (2011), Molecular and clinical rationale for therapeutic targeting of interleukin-5 and its receptor. Clinical & Experimental Allergy. Clin Exp Allergy doi: 10.1111/j.1365-2222.2011.03854.x