骨肉腫がん幹細胞分画におけるmicroRNA-133aの臨床的意義ならびに治療的意義



執筆者情報

執筆者:藤原智洋、川井章、尾封q文、落谷孝広

執筆者所属:国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野、国立がん研究センター中央病院骨軟部腫瘍・リハビリテーション科、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科整形外科学教室

原著論文:Clinical Relevance and Therapeutic Significance of microRNA-133a Expression Profiles and Functions in Malignant Osteosarcoma-Initiating Cells. (Stem Cells 32:959-973, 2014)

更新日:2014年4月26日

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概要

本研究では、骨肉腫組織内のCD133high分画ががん幹細胞様形質を示し、miR-133aがその形質を制御し得ることを見出した。locked nucleic acid (LNA)を用いたmiR-133aの機能阻害により、動物生体内において腫瘍進展抑制効果を得た。さらに、臨床検体組織におけるmiR-133aおよびその標的分子の発現が骨肉腫患者の予後と密接に相関していることが明らかになった。

緒言

不均一な細胞集団である癌組織の中に幹細胞様の細胞が含まれることが様々な悪性腫瘍で明らかにされている [1,2]。いわゆるがん幹細胞(Tumor-initiating cells; TICs)と呼ばれるこの細胞集団は、薬剤耐性能や浸潤・転移能も有していることが明らかにされている[3,4]。がん治療において、薬剤耐性能や浸潤・転移能は克服すべき課題であり、その意味でもがん幹細胞の性状解析とそれを標的とした新規治療法の構築は非常に重要な課題である。肉腫は極めて組織学的不均一性が強い腫瘍の1つである[5,6]。これまでに肉腫におけるがん幹細胞の存在を示唆する報告も散見されるが[7,8]、その分子機構ならびに制御方法は未だ解明されていない。我々は骨肉腫におけるがん幹細胞様形質を確認すると共に、その分子機構の解析ならびに複数の性質を同時に制御し得るmicroRNA(miRNA)を基盤とした核酸製剤の可能性を検討した。また、臨床検体および臨床データを解析し、このような悪性形質を司る分子を治療標的とする臨床的意義を検討した。

骨肉腫CD133high分画が示す悪性形質とmiR-133aによる制御

骨肉腫の複数の細胞株ならびに患者生検検体においてCD133high分画は10%以下の割合で存在することが判明した。この分画は自己複製能力と分化能を同時に有し、浮遊細胞塊形成能力を持つとともに薬剤抵抗性及びより強い浸潤能を示した。また、本分画において自己複製、薬剤排出ポンプおよび転移に関与するマーカーは発現亢進を示し、動物生体内においても顕著な造腫瘍性を示すことが判明した。CD133high分画およびCD133low分画におけるmiRNAのmicroarray解析を行ったところ、前者においてmiR-133aの発現亢進が示された。miR-133a分子の細胞内導入により、CD133low分画の浸潤能が亢進し、逆にlocked nucleic acid(LNA)を用いた機能解析により、CD133high分画の浸潤能が抑制されることが判明した。

化学療法によるmiR-133aの発現誘導

骨肉腫治療に用いられるドキソルビシン(DOX)、シスプラチン(CDDP) の暴露により、ヒト骨肉腫高転移細胞株においてmiR-133aの発現が亢進することが判明した。miR-133aの細胞内導入により骨肉腫細胞の浸潤能が亢進することから、化学療法に際して本分子を機能阻害することが治療抵抗性誘導の抑制に重要であると考えられた。

担癌動物に対するLNA-antmiR-133a全身投与の効果

LNA-antimiR-133aの生体内効果を骨肉腫自然肺転移モデルを用いて解析した。ルシフェラーゼ発現ヒト骨肉腫高転移株をヌードマウスの脛骨内に移植し、(i)生食/生食群、(ii)LNA-NC(コントロールLNA)/生食群、(iii)LNA-antimiR-133a/生食群、(iv)LNA-NC/CDDP群、(v)LNA-antimiR-133a /CDDP群の5群に分けて評価した。腫瘍内のmiR-133a発現抑制にはdrug delivery systemを必要とせず、LNA-antimiR-133a尾静注のみで十分な効果が確認された。治療実験の結果、LNA-antimiR-133a併用の有無による腫瘍サイズの変化はみられなかったが、LNA-antimiR-133aとシスプラチンの併用群において肺転移形成は最も強く抑制された。miR-133aの配列はヒトおよびマウスの種間で保存されておいるが、経過観察中に明らかな毒性はみられなかった。

miR-133aの標的遺伝子の同定

Ago-2複合体に対する免疫沈降ならびにmiR-133a導入によるmRNAの変化のmicroarray解析からmiR-133aの標的分子を同定した結果、がん抑制性機能を有する複数の標的遺伝子が同定された。それぞれのsiRNAを用いた機能解析から、SGMS2, UBA2, SNX30, ANXA2が浸潤能制御に関与していることが判明した。これらの分子の3’UTR assayにより、標的遺伝子の発現が理論上の結合部位を介してmiR-133aによって制御されていることを確認した。また、先行の動物治療モデルにおけるLNA-antimiR-133a投与群の腫瘍内において標的分子が亢進していることを確認した。

miR-133aおよびその標的遺伝子の発現と骨肉腫患者の臨床的背景との相関性

骨肉腫臨床検体におけるmiR-133aの発現を新鮮切除生検組織を用いて解析した結果、CD133high分画におけるmiR-133aは亢進していることが判明し、細胞株より得られた結果との整合性を得た。さらに、国立がん研究センター中央病院で得られた生検検体48例を対象にmiR-133aおよびその標的遺伝子の発現と臨床データを解析したところ、腫瘍内miR-133aの発現高値および標的遺伝子の発現低値が患者予後不良と有意に相関していることが見出され、本分子を治療標的とする意義が示された。

考察

がん治療は今、がん組織に潜む治療抵抗性の高い、あるいは、治療抵抗性を獲得した細胞集団にどう対処していくかという新たな課題に直面している。「がん幹細胞理論」は未だその全貌は明らかになっていないが、このようながん組織内の機能的不均一性に着目した様々ながん種の治療開発に寄与している。我々は骨肉腫組織内のより強い悪性形質を示す細胞集団を同定し、現行治療法に核酸製剤を加えた新しい前臨床試験を行い、以下の4つの事項を見出した。第一に、骨肉腫CD133high分画にはがん幹細胞様性質を示す細胞がenrichされていることを見出した。この分画は浮遊細胞塊形成能、浸潤能、造腫瘍能といったいわゆるがん幹細胞様形質を示した。この分画を狙い撃つことが重要と考えられるが、CD133は正常骨髄細胞などにも発現がみられることから標的とするには安全性が危惧される。従ってこの分画の性質および分子機構を解析し、導き出されたpathwayの制御を介して悪性形質を抑制することが重要と考えられた。第二に、miR-133aがCD133high分画の性質に関与することを特定した。miR-133aの標的遺伝子として特定された複数の標的遺伝子の一部はがん抑制性の機能を示すことが報告されており、骨肉腫における新たな機能分子の更なる解析が望まれる。第三に、LNAはアンチセンス型miRNA阻害剤として固形がん治療に有効性を示すことが判明した。LNAはリボ核酸の五炭糖の2’位と4’位とがメチレン架橋(O-CH2-架橋)され、コンフォメーションをN型となるように化学修飾することにより対象核酸分子とのハイブリダイゼーションが強化されている。既に慢性C型肝炎に対する治療薬として臨床治験の段階に入っており、新規核酸医薬として注目されている[9,10]。これまでに固形がんに対する有効性試験の報告は乏しく、骨肉腫治療における有効性が期待される。第四に、骨肉腫がん幹細胞様性質を制御するmiR-133aおよびその標的遺伝子は骨肉腫における新たな予後因子であることが判明した。近年、ヒト悪性腫瘍におけるがん幹細胞マーカー発現率と患者の予後との間に負の相関があることが報告されつつある。本研究により、肉腫においてもがん幹細胞様性質関連分子に対する治療的意義が示されることとなった。

本研究により、骨肉腫の組織不均一性と治療抵抗性との関連が明らかとなり、複数の標的遺伝子を持つmiRNAの機能阻害により悪性形質を制御できる可能性が示された。さらに臨床検体の解析によりmiR-133a機能阻害の治療的意義も示された。LNAは新規核酸製剤としてその可能性が注目されており、肉腫治療においてもその効果が期待される

参考文献

1. Reya T, Morrison SJ, Clarke MF, et al. Stem cells, cancer, and cancer stem cells. Nature. 2001;414:105-111.
2. Clarke MF, Dick JE, Dirks PB, et al. Cancer stem cells--perspectives on current status and future directions: AACR Workshop on cancer stem cells. Cancer research. 2006;66:9339-9344.
3. Clevers H. The cancer stem cell: premises, promises and challenges. Nature medicine. 2011;17:313-319.
4. Visvader JE, Lindeman GJ. Cancer stem cells in solid tumours: accumulating evidence and unresolved questions. Nature reviews. Cancer. 2008;8:755-768.
5. Aogi K, Woodman A, Urquidi V, et al. Telomerase activity in soft-tissue and bone sarcomas. Clinical cancer research : an official journal of the American Association for Cancer Research. 2000;6:4776-4781.
6. Naka N, Takenaka S, Araki N, et al. Synovial sarcoma is a stem cell malignancy. Stem Cells. 2010;28:1119-1131.
7. Gibbs CP, Kukekov VG, Reith JD, et al. Stem-Like Cells in Bone Sarcomas: Implications for Tumorigenesis. Neoplasia. 2005;7:967-976.
8. Siclari VA, Qin L. Targeting the osteosarcoma cancer stem cell. Journal of orthopaedic surgery and research. 2010;5:78.
9. Lanford RE, Hildebrandt-Eriksen ES, Petri A, et al. Therapeutic silencing of microRNA-122 in primates with chronic hepatitis C virus infection. Science. 2010;327:198-201.
10. Kim M, Kasinski AL, Slack FJ. MicroRNA therapeutics in preclinical cancer models. Lancet Oncol. 2011;12:319-321.

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