Nature/Scienceのニュース記事から



第6回(2011年5月13日更新)

ヒトゲノムの価値はいくらか?

ヒトゲノム研究の金銭的利益の推定金額は高すぎるのではないかと経済学者は懐疑的である。

調査会社Battelle Memorial Instituteが、ヒトゲノム研究に投資された費用は141倍の利益になって返ってきているという結果を発表した。国が投資した3.8ビリオンドルは、1988年から2010年の間に796ビリオンドルの経済効果をもたらし、2010年だけで31万の雇用を産んだとしている。

これに対し経済学者たちは、この調査は伝統的な方法で行われたものの、計算の方法に問題があると指摘している。例えば、プロジェクトで働いた人たちへの給料などといった、プロジェクトのコストが、利益として計算されていることなどが理由だ。

この試算で用いられた方法は、大まかな全体像をつかむのに向いていると、今回の調査の共著者は言う。研究に投資された資金がいくらの経済効果をもたらしたかという数値を出すのは非常に難しいということは広く認められるものである。近年では、研究の経済的価値を定量する試みというのは普通のことになりつつある。しかし、経済学者の中には、このような解析は問題があると主張する者もいる。その理由は、このような解析はたいてい客観的ではなく、経済効果の定量というのは微妙なものであり、そしてコストとベネフィットが曖昧だからだ。

今回の調査では、1988年からヒトゲノムプロジェクトに対する国からの資金投入のデータを長期に渡って集め、関連プロジェクトに対する資金も考慮に含めた。これらの資金が産業や学問の成長を産むなど、経済効果にどのように影響したかを調べた。この解析の結果によれば、初期投資は244ビリオンドルの個人所得として返ってきた。さらに、3.8ミリオンの雇用を創出した、というものである。さらに今後も利益は続くだろうとしている。

この報告を批判する人たちも、別にゲノムプロジェクトの重要性を否定しているわけではない。だが、現時点では何ドルの価値があったかを言うのは難しい、と主張している。例えばヘルスケアや環境に対する実際の利益は圧倒的である。ただ、この計算方法は満足できる数値をはじき出すだろうが、正しいものを測定しているかどうかは不明だ、と彼らは言う。

調査会社側はこのような批判は想定していたが、ただ全体としてヒトゲノムプロジェクトが研究や雇用、産業の生産性にどのように影響したかという点にフォーカスしたかったのだという。彼らは、公的資金というものには、これらの資金を使わなければ減税できただろう、という機会費用の問題がつきものだが、自分たちはそのような議論には参加しないという立場を取っている。

批判派は、このような試算には再現性がないことが多い、と指摘する。しかし、このような調査結果は大学にとっては説得性に欠けるものの、具体的な数字が欲しい政策立案者には嬉しいだろう。これらの研究プログラムを拡大したいと既に主張している人々にとっては役に立つだろう。たとえ完全に説得性がなくても、何らかのエビデンスがあるのは助けになる。

http://www.nature.com/news/2011/110511/full/news.2011.281.html

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