Nature/Scienceのニュース記事から



第7回(2011年5月14日更新)

グラント申請で成功するには

数学的な解析によれば、研究費申請の採択率が15%程度の時には、より多くの申請を出した方が研究費を獲得しやすいという論文がPLoS Oneに発表された(Roebber, P. & Schultz, D. M. PLoS ONE 6, e18680 (2011))。しかし著者らは、研究費の申請書を書くのに多くの時間を取られると、科学的な生産性は落ちると警告する。

ある研究者は、採択率が15%以下になると研究をするのに状況は本当に悪くなると言う。採択率は20%程度の時には、研究費の申請書を大量に書かなくてもやっていけるが、採択率が15%以下になると、申請書の数で勝負する方が得策になってくる。

世界中の国々の研究費申請の採択率は、現在20%程度であり、引き続き減少していく傾向にある。

この論文では、科学者のジレンマを見るのにゲーム理論を利用した。すなわち、他の研究者と共同で少数の申請書を出すか、自分一人で多数の申請書を出すか、というジレンマだ。彼らは、500人の科学者からなる2つのグループが、同程度のレベルの申請書を出すものの申請書の出し方の戦略は異なるという状況を想定した。

片方のグループは年に1回申請書を出し、もし採択されたらそれ以降は現在の研究費の期間の最後の年までの間は申請を出さないとした。もう片方のグループは、申請が採択されるか否かに関わらず半年毎に申請書を出すとした。

このような条件設定においては、半年毎に申請書を出し続けるグループは、採択率が10%から20%の場合に最も多くの研究費(全体の60%)を獲得することができる計算になる。一方、1年に1回しか申請書を出さないグループは、 採択率が20%以上もしくは5%以下の場合に研究費全体の50%を獲得できる。さらに、採択率が25%以上の場合には、研究費全体の60%を獲得することができる。

さらにこの論文では、「クーリングオフ期間」も考慮に入れた。すなわち、申請が何度も却下された研究者は、1年間は再申請できないことにした。その場合、多数の申請書を出すグループの方が、より多くの研究費を獲得することになる(全体の57.7%)。このグループに属するそれぞれの研究者の採択率は17.4%であり、少数の申請書しか出さないグループの12.5%よりも高い。このようなクーリングオフ期間は、受け取る申請書の数を減らす目的でイギリスの Engineering and Physical Sciences Research Council (EPSRC)が実際に導入している。イギリスのある研究者は、「クーリングオフ期間の導入により、より多くの申請書を出す方が有利な状況となっている。これは、EPSRCが本来目指していたことではない。」と言う。

ウィーン医科大学の複雑系の専門家、Stefan Thurnerは、この論文で使われたモデルは「妥当」であり、大局的な視点からシステムを理解する助けになると言うしかし彼は、これを意思決定の唯一の根拠として使うべきではないと警告する

イギリスの研究委員会のスポークスマンによれば、EPSRCの研究費申請採択率は、この解析とは逆に改善してきており、現在は35%である。

http://www.nature.com/news/2011/110510/full/news.2011.279.html

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