Nature/Scienceのニュース記事から



第10回(2011年6月17日更新)

ゲノムの研究が双子の謎の疾患を解決

シークエンシングが、小児稀少疾患についての何年にも及ぶ推測を終わらせる。

2年前、13歳のAlexis Beeryは咳と呼吸困難を発症し、それがあまりにも重症だったために、夜の間に彼女が死なないように彼女の両親は乳児用のモニターを彼女の部屋に取り付けたほどだった.Alexisはしばしば、あまりにも長い間酷く咳き込んだために嘔吐してしまうほどで、呼吸をし続けるためだけにアドレナリンを毎日注射しなくてはならなかった。それでも医師は何が問題なのかわからなかった。

Science Translational Medicineに発表された論文で、テキサスのヒューストンにあるBaylor College of Medicine Human Genome Sequencing CenterのRichardGibbsが率いる研究グループは、彼らがどのようにしてAlexisとその双子の弟NoahのゲノムをシークエンスしてAlexisの咳の原因を突き止めたかを述べた。この発見が治療に結びついたのである。現在はAlexisはサッカーをしたり走ったりしており、彼女の呼吸困難は消失した、と彼女の母親のRettaは言う。

「正直なところ、Alexisがこの問題を乗り越えられるかどうかわかりませんでした。」とRettaは言う。「シークエンシングが彼女の人生を取り戻してくれたのです」

Beery家の双子は5歳のときに ドーパ反応性ジストニアという、運動機能に問題を引き起こす遺伝子疾患の診断を受け、それ以来薬を飲み続け、一見効果があるかのように見えていた。Alexisの咳と呼吸困難が酷くなった時、この双子の神経内科医はこの症状はジストニアとは無関係ではないかと考えた。

この双子の母親のRetta Beeryの夫Joeは、カリフォルニアにあるバイオテック会社Life TechnologiesのCIO(最高情報責任者)である。Rettaは、子供たちのゲノムをシークエンスして確実な応えを見つけるように強く要求した。Life Technologies社は、自社のSOLiDシークエンシング技術を使ってBaylor Collegeでこの研究を行うための資金を援助した。これによりこの双子が、ドーパ反応性ジストニアのいくつかの症例に関与するとされていたsepiapterin reductaseという酵素をコードする遺伝子SPRに変異があることが突き止められた。

Sepiapterin reductaseは神経伝達物質であるドパミンとセロトニンの合成に必要な酵素である。双子はそれまでにすでにジストニアの治療のためにドパミン前駆物質を摂取していた。そのため、研究は彼らがセロトニン前駆物質5-hydroxytryptophanも合わせて摂取するとよいのではないかと示唆した。その治療を初めて1ヶ月後には、Alexisの呼吸困難は消失した。Noahの字を書く能力も改善され、さらに彼は学校でよりよく集中できるようになったと母親のRetta Beeryは言う。

ゲノムシークエンシングは既にガン治療の方針決定を助けたり、原因の特定が困難な稀少疾患を診断・治療することにも使われており、今回の発見はゲノムシークエンシングの臨床における一つの成功例である。

「この研究は、稀少疾患の遺伝子診断が治療に直接結びついた良い例です」とオランダのRadboud University Nijmegen Medical CenterのJoris Veltmanは言う。

実際、このような研究は、近いうちにほぼ全ての稀少疾患の原因遺伝子を解明することが出来るだろうという希望を科学者たちに与えている。これは重要なことである。なぜなら、より稀な疾患で苦しむ人の数は、心疾患のような主要な疾患よりも当然少なく、研究のための資金がほとんど得られないからだ。また、ほんの少数の人しか罹らない疾患のための大規模な臨床試験を行うことも不可能である。

さらに、稀少疾患を診断する専門医が比較的少ないため、これらの疾患は診断されなかったり誤った診断をされたりして、適切な治療が受けられなかったりしている。Retta Beeryはこのことを充分すぎるぐらい知っている。彼女の子供たちは2歳の時に脳性まひという誤った診断を受け、6歳のときに何百もの検査を受けるまで正しい診断と治療が受けられなかったのだ。そしてAlexisは6年もの間、結論の出ない検査を受け続けようやくシークエンシングにより呼吸困難の原因がわかったのだとRetta Beeryは言う。

発表された論文では、シークエンシングが診断までの長い道のりを短縮できるだろうと示唆している。なぜなら、シークエンシングでは可能性のある全ての遺伝子変異を同時に調べることにより、特定の生化学的経路を狙った治療への道筋を導くものであり、稀少疾患の専門家によらずとも可能だからである。Gibbsは今後3、4年で単一遺伝子欠陥による疾患の90%が解決するだろうと予測している。

無作為の全ゲノムおよびエクソームシークエンシングは、稀少疾患の患者の診断と治療に計り知れない影響を与えるだろうとVeltmanも同意する。彼の働くセンターでは現在、知的障害や盲目、聾唖、運動障害、遺伝性腫瘍などの疾患の患者に、エクソームシークエンシングを提供している。エクソームシークエンシングとは、全ゲノムではなく遺伝子のコーディング領域のみをシークエンスするものである。

大きな疑問は、いつ全ゲノムシークエンシングが廉価になって臨床で普通に使用できるようになるかである。Gibbsは、今日発表された研究は、双子のゲノムをシークエンスするのにかかった3万ドルを含めて、全部で10万ドルのコストと2ヶ月の時間がかかったと見積もる。しかし、いくつかの会社はシークエンシングを5000ドルから7000ドルという低料金で提供している。研究者たちは、シークエンシングが1人の患者につき1000ドルにまで下がれば一般に広がるだろうとしている。

Beeryは、シークエンシングを必要とする他の家族にとっては待ちきれないだろうと言う。

「私たちと医療保険会社が支払った金額やかかった時間、そして子供たちが味わった苦しみを考えると、バカげています。本当ならただ血液を採取すれば答えがわかったはずだったのですから。」とBeeryは言う。

http://www.nature.com/news/2011/110615/full/news.2011.368.html

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