Nature/Scienceのニュース記事から



第14回(2012年1月15日更新)

命を救う科学を検閲するな

H5N1の変異情報を限定された専門家にのみ公開するのは容認できないとPeter Palese氏は言う。Peter Palese氏は、マウントサイナイ医科大学微生物学科の学科長およびHorace W. Goldsmith professorである。以下は、Palese氏によるコメントの概要である。

鳥インフルエンザウイルスH5N1をより伝染しやすく変異させたウイルスが開発された。アメリカの生物安全性当局が、その変異についての詳しい情報を発表しないよう求めている。

我々は以前、1918インフルエンザウイルスの研究をしており、このウイルスをより伝染しやすくする変異を導入する技術を開発した。1990年代に、スペイン風邪で亡くなったアメリカ兵士の肺組織から変性したウイルスが発見された。我々は、現存のウイルスと、変性した1918ウイルスとの間で遺伝子をひとつずつ入れ替えることにより、変性した1918ウイルスを生き返らせることに成功した。それを発表しようとしたところ、当局からストップがかかった。そのような危険な情報を一般に公開するべきでないという理由だ。

我々は、研究結果を発表することにより、このウイルスをより危険なものにする方法、裏を返せばこのウイルスを不活化する方法も明らかになるだろう、それにより世の中はより安全になるのだと当局に説明し、幸い、その後の話し合いは建設的に進み、発表は許可された。その結果、他の研究者たちによる1918ウイルスの研究が爆発的に進み、現在ではアマンタジンやタミフルなどの抗ウイルス薬がこのウイルスに対して有効であることがわかっている。このようにして、このウイルスの危険から人類を守ることに成功したのだ。もしあのとき、我々の研究結果の詳細が発表されなければこのウイルスの研究は進んでおらず、今でも人々はこのウイルスが悪用される恐怖と共に暮らしていたかも知れない。

アメリカ当局はその経験がありながら、今回、H5N1ウイルスの伝染性を高める変異について詳細は限られた専門家のみに公開するべきとしている。研究しても成果を発表できないようなウイルスを誰が研究したいと思うだろうか。また、詳細を知るべき専門家を誰がどのようにして選ぶのか。

危険なウイルスだからこそより多くの研究がなされるべきであり、研究結果も広く発表するべきだ。当局は、検閲的な行為をやめて、この危険なウイルスについての研究を促し、世の中をより安全にするべきだ。

http://www.nature.com/news/don-t-censor-life-saving-science-1.9777

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