Nature/Scienceのニュース記事から



第17回(2012年5月17日更新)

ヒトは稀少変異に満ちている

ヒトのゲノム配列をこれまで以上に詳細に調べた結果、1,000人に5人以下の稀少変異が誰にでも存在し、健康に重要な役割を持つ可能性が高いことがわかった。

今日Science誌に発表された2つの論文で、ヒトのほとんどの遺伝子変異は稀少であること、稀少変異の方が一般的な変異よりもタンパク質の構造に影響しやすく、その結果、生物学的・医学的な影響も出てくる可能性が高いことが報告された。これらの論文と、先週Scienceに掲載されたもう1つの論文は、1万年ほど前に農業が始まりその数千年後から人口が急増したために、このような大量の稀少変異が発生し、まだ自然淘汰により間引かれていないのだとしている。

以前は主に一般的な変異に関する研究がされていたが、これらの変異の疾患への寄与が明らかになることは少なかった。

今日発表された2つの論文は、遺伝子の各塩基を100回以上もシークエンスする「deep sequencing」という手法を用いている。

1つの論文では、2,440人のサンプルで15,585種の遺伝子を調べた結果、見つかった変異のうち86%が稀少変異であった。さらに、生物学的・医学的に何らかの影響が出ると予想される変異のうち95%が稀少変異であった。

もう1つの論文では、14,002人のサンプルで202種の遺伝子を調べた結果、変異の95%が稀少変異であり、74%は全体で1人か2人にしか見られない変異であった。

Human Genome Projectのようなイニシアチブは、変異した時に疾患を引き起こす遺伝子を見つけることや、個体によってユニークな遺伝子プロファイルに基づいて疾患リスクを予測するといったもくろみを掲げていたが、このように多数の稀少変異が存在するということは、それらを完遂するのは大変難しいということを示している。先述の1つ目の論文では、調査した各個人が、平均25-31個の独自の変異を持っていると推測している。これらの稀少変異と疾患の関係を明らかにするのは簡単ではないだろう。これらの論文では、稀少変異と疾患との関連を見つけるのには何千もの、場合によっては2万人もの人を調べなくてはならないだろうとしている。

さらに、稀少変異の多くは、特定の地理的ルーツを持つ人にのみ見られたため、あるグループの人で特定の変異と疾患との関連がわかったとしても、同じことが別のグループの人でも言えるとは限らない。

今回の発見により、遺伝子の機能を調べる方法を考え直さなくてはならないことが示唆された。稀少変異と複雑な形質とを結びつける、また、何千もの稀少変異の機能を現在よりも大幅に速いスピードで調べるための新しいツールを作り出す必要がある。

Humans riddled with rare genetic variants.:Nature, 17 May 2012
 http://www.nature.com/news/humans-riddled-with-rare-genetic-variants-1.10655

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