Nature/Scienceのニュース記事から



第19回(2012年5月26日更新)

福島第一原発からの放射能による推定被曝量が発表される

日本の主要各紙で、東京電力による推計では福島原発からの放射性物質の放出量がこれまでの政府による推計のおよそ2倍、チェルノブイリ原発事故での放出量の17%であったことが報じられた。

Nature誌でも、国際機関による独立した2つの調査が、福島第一原発から出た放射性物質が原因で癌を発症する人はほとんどいない、また、仮に発症したとしてもそれが原発から出た放射性物質のせいだと明確に証明することはできないだろうと結論づけたことが取り上げられている。
Nature (2012) 485, 423−424 http://www.nature.com/news/fukushima-s-doses-tallied-1.10686

これらの調査によれば167人の原発作業員が、癌を発症する危険性がわずかに高くなるレベルの放射線(100mSv以上)を受けた。167人の内訳は、東電社員が146人、契約社員が21人。一般の住民にはほとんど影響はなく、作業員についても、人数が少ないこと、また、日本のような先進国ではもともと癌の罹患率が高いことから、仮に癌を発症したとしても、原発事故に直接結びつけられることはないだろうとしている。

6人の作業員が、政府により緊急時の作業員に認められている上限の250mSvを超える線量を浴びた。制御室にいた2人は、ヨウ素剤を飲んでいなかったために、600mSv以上の線量を浴びた。2人とも今のところ、被曝が原因と見られる健康異常は見られていない。

高い線量を受けた作業員の多くは、事故後早い時期に被曝している。最初の頃は、照明の消えた制御室で待機していたり、少人数のチームが原子炉のある建物に入って損傷を調べたり手作業で操作を行っていた。これらの作業員の多くは、その時の放射能レベルがどれぐらいなのかわかっていなかった。モニタリングシステムが故障していたためだ。

チェルノブイリ原発事故では11万人の作業員のうち0.1%が白血病を発症したが、全てが原発事故のせいだというわけではなかった。

福島原発の近隣の住民の被曝量は10mSv以下という推定となった。事故後数ヶ月経ってから避難指示の出た地域では、10-50mSvと推定された。これらの地域の乳児は、甲状腺に100-200mSvの被曝を起こすレベルのヨウ素131に曝された可能性があるが、1080人の子供を調べた結果、甲状腺への被曝は50mSv以下であった。

通常の状態でも、40%の人は何らかの癌をいずれ発症する。そのため、仮に癌になってもそれが放射能のせいかどうかはわからない。むしろ、地震による心理的ストレスの方が健康に大きな影響を与えるという学者もいる。チェルノブイリの避難者でも、PTSDの率が一般の人よりも高かった。

福島の原発事故以来、国民は政府を信用できなくなっていたが、これらの国際機関による報告がその不信感を軽減する助けになるのではないかとも考えられるが、一方で、国際機関が短期間の滞在・調査のみで性急な報告を発表することを批判する声もある。

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