Nature/Scienceのニュース記事から



第22回(2012年6月14日更新)

胎児のゲノムを両親のDNAから推測

胎児の遺伝子変異を調べるためには、これまでは、羊水か胎盤組織を採取しなければならなかった。この方法は流産を引き起こす可能性があった。このほど胎児の母親の血液と父親の唾液を調べることで、胎児のゲノムを再構築できることがScience Translational Medicineに発表された。

妊婦の血中には、胎児由来のDNA断片と妊婦自身に由来するDNA断片が含まれている。これらの無細胞DNAのうち、13%が胎児由来である。この研究では、妊娠18.5週の母親の血液から5ngの無細胞DNAを単離し、これをDeep-Sequencingという方法で約78回調べた。

母親の血球細胞のDNAをシークエンスして母親のゲノムを再構築し、遺伝子変異体やハプロタイプの特定のブロックが、母親の血中の無細胞DNAとしてどのくらいの割合で現れるかをコンピューターで予測した。実際に血中に無細胞DNAとして現れた割合が予測よりも高かった場合、胎児由来の遺伝子物質を読んでいると判断した。

父親の寄与分としては、唾液(血液でも良かったが今回は入手できなかったため)のゲノムをシークエンスし、その変異体の中で、母親の血中でも見られたものは、胎児由来のDNAを見なされた。

また、親から受け継いだのではなく新しく出現した変異も検出できるようにした。

このようにして推測された胎児のゲノムがどの程度正しいのかを調べるために、子供が産まれた後で、臍帯血中の細胞から単離したDNAをシークエンスしたところ、98%の正確さであった。妊娠8.2週の時点でサンプルを採取した場合でも95%の正確さであった。

胎児の出生前診断に必要である羊水穿刺は侵襲的な方法であるため、流産を引き起こす可能性がある。今回の研究のように両親の血液や唾液などの非侵襲的に採取できるサンプルで広範囲にわたる遺伝子を調べることができるようになれば画期的なことである。

一方で、多くの親は産むか産まないかの重大な決断をするために検査をするにもかかわらず、考える時間はほとんどなく、しかもこのような検査からわかった遺伝子変化のほとんどは、いまだにその意味が明らかになっていない。また、技術が進歩すればするほど、他と違うことを欠陥であるとする考え方が広まってしまう、と懸念する声もある。

ゲノムの中でも重大な疾患に関与していることが知られている特定の部分のみにターゲットを絞るアプローチの方が望ましいかも知れない。ゲノムの全てを調べてしまうと、深刻な倫理的問題が発生する可能性がある。

http://www.nature.com/news/fetal-genome-deduced-from-parental-dna-1.10797

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