Nature/Scienceのニュース記事から



第24回(2012年6月22日更新)

iPS細胞から初歩的な肝臓組織を誘導することに成功

横浜市立大学のタケベらは、ヒト皮膚細胞から得られたiPS細胞から、肝臓様の組織をインビトロで誘導することに成功し、国際幹細胞学会の年会で発表した。論文発表にはまだ及ばないが、発見自体は臨床で多くの利用法が見込まれるものである。

タケベらは、ヒト皮膚細胞をリプログラムしてiPS細胞を得た。このiPS細胞を特別にデザインされた培地で9日間培養したところ、肝細胞の生化学的マーカーを発現していることがわかった。さらに、血管内皮細胞と間葉細胞を添加して2日間培養したところ、発生初期の肝臓と思われる長さ5ミリの立体的組織が形成され、liver budと名付けられた。

Liver budは、胆管を持っておらず、肝細胞板は形成されなかったが、血管は存在していた。Liver budは実際の肝臓で発現している遺伝子の多くを発現しており、マウスに移植すると、ヒト肝臓では代謝されるがマウス肝臓では代謝されない薬物も代謝されることがわかった。タケベらは、血管ネットワークを持ちなおかつ機能を持つヒト臓器をiPS細胞から初めて作製したと主張している。この成功に重要だったのは、血管内皮細胞と間葉細胞を添加するタイミングであったとのことである。

今回作製に成功した肝組織は立体的構造を持っており、長期的な移植だけでなく、移植ドナーが見つかるまでの一時的な利用、あるいは肝機能がいずれは戻ってくるであろうと思われるケースでの一時的な利用などに可能性がある。しかし、実際に臨床で使用される前に、適切に配置された肝小葉が含まれているかどうかを初めとして、確認しなくてはならないことが多い。また、慢性肝疾患の治療に用いるためには、組織が5年以上安定な状態にある必要がある。さらに、形成される組織はちょうどよい大きさに維持されなければならない。

足場構造を使って立体的な肝臓用組織を作製する技術は、他の研究者らによっても開発されている。例えばMITのある研究者は、機能を持ちなおかつマウスに移植可能な、足場構造を持った組織片を作製した。臨床で利用できるようにするために、現在は、この2センチの組織片に含まれる肝細胞の数を増やそうと試みている。

現在のところタケベらは、彼ら作製したliver budは、薬物の毒性試験に有用だろうと考えている。なぜならこの目的には胆管が必要ないからだ。また、タケベらのliver budはiPS細胞から作製されているため、初代培養から作製された組織と違って、稀少疾患のモデルとして、あるいは特定の遺伝的背景を調べるのにも有用となるだろう。

次のステップは、このLiver budに胆管を持たせるなど、より肝臓に近づけることであろう。

http://www.nature.com/news/rudimentary-liver-grown-in-vitro-1.10848

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