Nature/Scienceのニュース記事から



第26回(2012年7月12日更新)

癌の周りの細胞が抗癌剤に対する抵抗性の原因を作っている

癌に対する分子標的療法は、個々の症例で発癌の原因となっている変異を同定し、その変異を持つタンパク質の働きを抑える。そのため、従来の化学療法で見られた副作用を回避することができる。

しかし、抗癌作用は長くは続かないことが多い。例えば、分子標的薬であるvemurafenibは、進行性黒色腫において最初は劇的な効果を発揮するが、ほとんどの症例で数ヶ月以内に癌が再発してしまう。この原因について研究した2報の論文がNatureに掲載され、その概要がNature Newsで紹介されている。
http://www.nature.com/news/neighbouring-cells-help-cancers-dodge-drugs-1.10952

分子標的療法の薬効を長続きさせるための研究は主に、癌細胞そのもので行われてきたが、今回発表された2つの論文では、癌細胞を支えている間質細胞に着目して研究を行った。41種類のヒト癌細胞株のうち37種が、通常は間質に存在するタンパク質を添加して培養すると、分子標的薬に対して脱感作した。これらのタンパク質の非存在下では、分子標的薬は脱感作しなかった。また、癌細胞を、通常癌細胞のすぐそばに存在する細胞と一緒に培養することで、これらの細胞が癌を保護するタンパク質の発生源であるらしいことも示唆された。

これら2つの論文で報告されている発見の中でも衝撃的なのは、Hepatocyte Growth Factor (HGF) というタンパク質がvemurafenibに対する薬剤耐性を引き起こしていることだ。これらの論文ではさらに、vemurafenib投与を受けた患者の血液を調べ、HGFレベルが高い患者ほど寛解状態が続きにくいことをつきとめた。これらの治験を元に、HGFのようなタンパク質の産生を抑える薬物を分子標的薬と組み合わせるなどの治療法が可能になるかも知れない。

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