Nature/Scienceのニュース記事から



第34回(2012年9月6日更新)

アルツハイマー病治療薬開発の新しい流れ

この夏、2つのアルツハイマー病治療薬の臨床試験がネガティブな結果に終わった。1つはJohnson & JohnsonとPfizerのbapineuzumab、もう1つはEli LillyのSolanezumabで、両方ともアルツハイマー病の原因だと考えられているβ-アミロイドを標的とする抗体医薬であった。

しかし、研究者たちは、アミロイド仮説(β-アミロイドが症状を引き起こす原因であるという仮説)を捨てるのではなく、同じ薬物をより早い段階の患者で試すことができるよう、革新的な臨床試験デザインと新しい診断法に希望を託している。このような、アルツハイマー病治療薬開発の新しい流れについて、Nature Newsで論説されている。
http://www.nature.com/news/alzheimer-s-drugs-take-a-new-tack-1.11343

ところが、投資家はこれまでに巨額の資金を投じた臨床試験が失敗に終わったことに恐れをなして、アルツハイマー病を初めとする認知症の治療薬開発を支持することに消極的になるだろうという懸念もある。

アミロイド斑は神経細胞を殺して神経細胞間のネットワークを壊すことでアルツハイマー病を引き起こすと考えられているが、この説には状況証拠しかない。剖検によれば、アミロイド斑の数と症状の重篤度には相関がある。また、β-アミロイドの産生に関わる遺伝子上の変異はいずれも発症リスクを上昇させるか、あるいは保護的な効果がある。しかし、アミロイド仮説が正しいかどうかは、いまだはっきりした答えが出ていない。

Eli Lillyのsolanezumabは、β-アミロイドがアミロイド斑を形成する前にβ-アミロイドを認識してブロックする。しかし、軽度から中等度のアルツハイマー病患者で、記憶やその他の認知機能および食事や自分の身の回りの世話といった用事をこなす能力の低下を遅らせる効果は見られなかった。

Johnson & JohnsonとPfizerのbapineuzumabはアミロイド斑を標的とした抗体である。bapineuzumabはsolanezumabより毒性が高いため低用量しか投与できなかったことも原因かもしれないが、プラセボに比べて何ら良い効果は見られなかった。

研究者の間では、β-アミロイドを標的とするという戦略に問題があるのではなく、治療タイミングに問題があるのではないかという考え方が広がっている。脂肪のプラークが冠動脈に貯まっていくように、アミロイド斑も生涯にわたって蓄積していく。中年の患者にコレステロール低下薬であるスタチンを投与して将来の心臓病を避けるのと同様に、抗アミロイド薬も早い段階で投与すればアルツハイマー病を予防できるのではないか、というわけだ。しかし、これを証明するためには、何万人もの人々のケースを何十年にもわたって追跡し続けなければならず、不可能に近い。

このような状況にも関わらず、来年、抗アミロイド薬がアルツハイマー病の初期の症状を未然に防ぎ認知機能の低下を停止させることができるかどうかを見るために、3つの臨床試験が開始される。

これらの試験は遺伝的に危険因子を持っていたりアミロイドレベルが高かったりして発症リスクが高いと考えられる患者で実施される。そのうちの1つである The Alzhheimer's Prevention Initiative による臨床試験では、アルツハイマー病を早期に発症する稀少変異を持つコロンビアの大家族で、Genentech社のcrenezumabの効果が試される。この試験では、未発症のメンバーで通常なら避けることのできない認知機能の低下がどうなるか5年間追跡して調べる予定である。さらにこの臨床試験では、脳の画像解析によるアミロイドレベルや脳脊髄液中のアミロイドレベルなどのバイオマーカーを特定し、crenezumabやその他の薬物の有効性を評価するのに使用することも狙っている。

理論的には、予防薬(認知機能の改善)ではなく、バイオマーカーやサロゲートマーカーの変化に基づいて承認される。しかし、信頼できるバイオマーカーとして何を用いるかについては、ハードルは非常に高く設定されるだろう。

これら3つの臨床試験のうち、2つは現在のところまだ資金調達の段階である。多くのアルツハイマー病の専門家は、この夏の残念なニュースが投資家たちの意欲をそがないことを願っている。

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