Nature/Scienceのニュース記事から



第35回(2012年9月13日更新)

ヒトES細胞がスナネズミで聴力を回復させることに成功

聴力障害の多くは、内耳と脳との結合部が破損することにより起きている。イギリスの研究グループが、ヒトES細胞を用いて、スナネズミにおいて、この結合部の重要な構成要素である聴覚神経を修復して聴覚を回復させることに成功し、Natureに発表した。この論文についてNature Newsで紹介されている。
http://www.nature.com/news/human-embryonic-stem-cells-restore-gerbil-hearing-1.11402

ES細胞はこれまでにも聴覚神経に分化させることができることはわかっていたが、移植した細胞が聴力を回復させたのは今回が初めてである。

著者らは何年にもわたってヒトES細胞を聴覚に必要な2種の細胞へと分化させる研究を行ってきた。2種の細胞とはすなわち聴覚神経細胞および内耳有毛細胞である。

著者らは、ヒトES細胞を、2種の線維芽細胞成長因子、すなわちFEF3とFGF10で処理し、2つの異なるグループの始原感覚神経細胞を作製した。有毛細胞に似た細胞は耳上皮前駆細胞(OEP)、神経細胞に似た細胞は耳神経前駆細胞(ONP)と名付けられた。

次に、ウアバインを投与して聴覚神経を損傷させたスナネズミにONPを移植したところ、10週間後には移植された細胞が突起を伸ばして脳幹への接続を形成した。続いてそれらのスナネズミの聴覚を調べたところ、移植により、かすかな音も聞こえるようになっており、聴力は46%回復していた。

この結果は、これまでに発表された、ES細胞により嗅覚や視覚を含む感覚機能を修復できるという研究を補強するものである。

ただし、内耳は非常に精密な構造であるため、損傷の受け方は症例によって異なり、それぞれの患者に合わせた治療が必要となるだろう。

また、人工内耳が機能するためには聴覚神経が機能していることが必要なので、幹細胞による治療が可能になればより多くの患者の治療につながるのではないかと考えられる。

今回の発見を臨床応用するためには、治療効率と再現性を高めたり、安全性を確認したり、効果の持続性を確認する必要があるため、今回の発見に基づいて最初の治療を実行するまでに少なくとも15年はかかるのではないかとの試算もある。

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