Nature/Scienceのニュース記事から



第37回(2012年9月28日更新)

中国の会社がアメリカのシークエンス会社を買収

アメリカのDNAサービス会社 Complete Genomics は、優れた技術を持っているが、商業的にはあまり成功しなかった。ヒトの全ゲノムを読む技術はすばらしかったが、会社の存続が危ぶまれていた。世界最大のシークエンシング施設を持つ中国の会社BGIが1億1760万ドル(約94億円)でComplete Genomicsの株式を取得して両社が合併することが明らかになった。この救済は、経営陣によって歓迎されただけでなく、選択肢が減ることは遺伝学の発展にとって問題だと懸念していた人々にとっても朗報となった。

もしComplete Genomicsが倒産したらIlluminaの独壇場になるだろう。現在、Illumina製の装置が、世界のほとんどのシークエンシングに使われている。この分野での競争を維持することで、価格が抑えられ、技術もより進んでいくだろう。

BGIもComplete Genomicsと同様に装置や試薬よりはむしろシークエンシングサービスを提供しているが、Illumina製の装置に主に依存している。Complete Genomicsは独自の装置とソフトウェアを持っており、これはヒト全ゲノムをシークエンシングするのに特化している。

変化のめまぐるしいこの分野の技術を比較するのは難しいが、2011年に行われたある分析によれば、Illuminaに比べてComplete GenomicsはDNA中の変異を見つけるには劣っていたが、正確さでは勝っていた。7月にComplete Genomicsは、シークエンシングのエラーを1000万塩基につき1塩基にまで抑え、必要DNA量も抑えることが可能な技術を開発したことを発表している。この技術はさらに、父親の染色体由来のDNA断片と母親の染色体由来のDNA断片を区別することもできる。これにより、例えば、変異が遺伝子の片方のコピーだけで起きているのかそれとも両方のコピーで起きているのかもわかり、その個体が疾患を発病するリスクが高いのかそれとも単に因子のキャリアーでしかないのかもわかる。

これは、全ゲノムシークエンスの解釈や解析方法を根本から変えるものになるのではないかという予測もある。BGIがComplete Genomicsを取得したことで、引き続きComplete Genomicsの技術が利用可能となる。これら2社が合併したことで、両者の強みが組み合わさり、より大きな強みとなるであろう。

Complete Genomicsの市場は成長の準備が整ったと見る投資アナリストもいる。ヒトゲノムシークエンシングはこれまで主に、タンパク質をコードしているエクソン領域に絞って行われてきたが、これはゲノム全体の1.5%に過ぎない。しかし、最近のENCODEプロジェクトなどにより、タンパクをコードしていない領域の機能が明らかになりつつある。これからは全ゲノムシークエンシングが主流になっていくのではないか、これまでは需要が追いついていなかっただけだと、このアナリストは分析している。

シークエンシングサービスへの需要も増加しつつある。多くの研究者たちはシークエンシングのデータは使いたいが、それを自分たちで行うために人的・物質的投資はしたくない。大型の大学附属シークエンシングセンターですら、需要が多くて供給が追いついていないこともよくある。

Complete Genomicsの最大の欠点は、結果を得るのに2,3ヶ月かかってしまうことで、これは医療現場からは敬遠される点である。しかし、同社の技術は今後スピードアップする見込みである。BGIに買収されたことで技術革新が失速する恐れもあるが、BGIはComplete Genomicsの現在のスタッフは同社に残り、開発は引き続き行う予定であるとしている。

いずれにせよ、選択肢はいくつかあった方がよい。もし1種類の試験方法と1種類の機械と1種類の処理方法しかなかったら、それでも物事は進むだろうが、スピードは落ちるだろう。

http://www.nature.com/news/china-buys-us-sequencing-firm-1.11472

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