Nature/Scienceのニュース記事から



第47回(2013年1月29日更新)

睡眠の質の低下と健忘が、老化していく脳にとって厄介な理由

人が老化していくにつれ、脳の特定の部位の劣化が睡眠の質を下げ、記憶の保持を障害することが、Nature Neuroscienceに発表された論文で明らかになった。

老化と脳細胞の脱落、睡眠障害、記憶機能の低下は関連があるとされているが、これらの要因が互いにどのように関連しているのかは不明だった。

今回発表された論文では、20歳前後の18人、および60代後半から70代後半の15人の、知的機能が正常な成人が集められた。彼らは、ペアになった単語のリストを覚えるように言われた。10分後に参加者らはいくつかの単語のペアを思い出すよう言われ、さらにその後、脳の電気活動を記録しながら夜の睡眠を取った。翌朝、脳をスキャンしながら再度いくつかの単語を思い出した。

以前の研究結果と同様に、高齢の参加者は若い参加者に比べて記憶試験での成績が低く、さらに、深い睡眠と関係している遅い脳波が有意に減少していた。

深い睡眠の減少度合いと記憶障害の度合いには相関があり、徐波が少ない人ほど記憶試験の成績が低かった。これらの差は、 内側前頭前皮質と呼ばれる脳部位の灰白質の縮小とも相関していた。

老人で睡眠が障害されることは長い間わかっていたが、その理由はわかっていなかった。今回の発見は、脳の劣化、記憶力の低下、そして睡眠の低下がお互いに関係していることがわかった。

新しく形成された記憶は睡眠により強化されることはよく知られている。また、遅い脳波は、記憶形成に必須の脳部位である海馬から、脳の他の部位へと情報を移転して長期的に記憶できるようにするプロセスを促進すると考えられている。

今回の論文におけるこの発見により、内側前頭前皮質の劣化が、深い睡眠の時に起きる遅い脳波を減少させることが示唆された。その結果高齢の参加者は若い参加者に比べて単語のペアの記憶を固定化する能力が低かったのだと考えられる。

この研究は睡眠と認知の関係に重要な知見を提供するものである。しかし、今回見られた解剖学的な差異は、単なる体積の減少というよりは、もしかすると神経変性の初期なのかも知れない。参加者の脳の病理を調べることができないのが大きな制限だが、高齢の成人を時間を追って観察するか、痴呆症のグループを追加して差異を比較するとおもしろいかも知れない。

昨年、睡眠の中断がその後のアルツハイマー病の診断を正確に予測しているという予備的な結果が発表された。アルツハイマー病では睡眠障害がもっと顕著であり、次はこれらの患者での睡眠障害が記憶障害と相関しているかどうか見るとよいだろう。もし相関があれば、睡眠を治療のターゲットとすることでアルツハイマー病の症状を軽減できるかも知れない。

http://www.nature.com/news/why-poor-sleep-and-forgetfulness-plague-the-ageing-brain-1.12303

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