Nature/Scienceのニュース記事から



第48回(2013年2月5日更新)

転移している最中の乳がん細胞が新しい技術により捉えられる

がんにおいてより多くの症例で死因となっているのは実はがんそのものよりも転移である。しかし、上皮細胞は通常は互いに接着しており、病巣を離れて転移していくには適さない。上皮がんが転移する際に、上皮細胞がより未分化な間葉細胞へと変化した上で血流に乗って転移するという理論が一般的であり、このような上皮細胞から間葉細胞への変化はEMT (Epithelial-Mesenchymal Transition)と呼ばれている。

しかしながら、EMTの研究はこれまで主に動物モデルやヒト細胞株において行われてきたのみであった。なぜなら、がん組織には間葉系間質細胞が存在するため、染色により上皮細胞と間葉細胞を区別するのは難しく、さらに、循環がん細胞の解析も、間葉系由来の血球系細胞からがん細胞を分離するのに上皮細胞マーカーに頼っていたため、困難であったからである。

このほどScience誌に発表された論文では、循環がん細胞を、上皮細胞と間葉細胞とに分けて周りの血球系細胞から区別する新しい技術を確立した。まず、7つの上皮細胞マーカーと3つの間葉細胞マーカーによるin situ hybridization (ISH) で上皮細胞と間葉細胞を染め分けることができることを確かめた。さらに、こうして染まった間葉細胞はがんに由来することも、HER2のISHにより確認された。また、これらのマーカーは血液細胞には発現していないことも確認された。

次に、このISHによる上皮細胞と間葉細胞の染め分け技術を循環がん細胞にも応用するため、 microfluidic HB (herringbone)-chipが使用された。このチップを循環がん細胞のマーカーに対する抗体の新しい組み合わせ (EpCAM, EGFR, HER2) でコートし、循環がん細胞を捕捉できるようにした。このチップで乳がん患者の血液から捕捉された循環がん細胞を、先ほどのISHで染め分けて解析した。その結果、化学療法の効果があった時には間葉細胞様の特徴を持つ循環がん細胞の割合が減少し始め、化学療法が効かなかった時にはその後に間葉細胞様の循環がん細胞の割合が再度上昇することがわかった。

研究チームは現在、さらに例数を追加すること、また、別の種類のがん患者においてもこの技術を試すことを計画している。それにより今回の結果が確認されれば、創薬の糸口となるかも知れない。

また、この新しい技術により、多くの循環がん細胞が上皮細胞様および間葉細胞様の双方の特徴を持つことも明らかとなった。つまり、完全に間葉細胞様にまで変化した細胞が必ずしも悪玉だとは限らず、今後は2種の細胞の中間の特徴を持つ細胞が治療のターゲットとなることもあり得るという。

http://www.nature.com/news/breast-cancer-caught-in-the-act-of-spreading-1.12342

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