Nature/Scienceのニュース記事から



第54回(2013年12月21日更新)

2013年バイオ科学ニュース

Nature誌において、2013年の特筆すべき科学の進歩が紹介されている。その中でも特にバイオ科学の分野に関する項目を紹介する。

■ 脳の10年(Decade of the brain)
神経科学分野の研究は、分子・細胞レベルのものから徐々に、神経ネットワークがどのようにして記憶や思考を生み出しているのかという研究へと移っていった。EUでは13億ドルをかけて、スーパーコンピューターでヒトの脳を刺激するというプロジェクトが発表された。カルシウムセンサー色素により、脊椎動物としては初めてゼブラフィッシュで神経の発火が可視化された。半透明の組織を化学物質により透明にするCLARITYという処理の開発により、脳をスライスすることなく脳構造をマッピングすることが容易になった。従来の神経解剖学的なアプローチも、ヒト脳の詳細な三次元アトラスであるBigBrainの完成により日の目を見た。遺伝子改変されたマウスの海馬の神経細胞を光で刺激することにより架空の記憶を形成することができることがわかり、そう遠くない将来に神経シグナルを正確に操作することができるようになるのではないかと期待される。

■ ウイルス克服(Vanquishing viruses)
ポリオは現在、主にパキスタンとナイジェリア、アフガニスタン南部においてのみ見られるが、撲滅までの道のりは平坦ではなさそうだ。その他の地域でも孤発性に広がりを見せ、ソマリアでは180例以上が報告されている。戦乱のシリアやイスラエル南部でもポリオは広がりを見せている。また、H7N9トリインフルエンザウイルスも新規に現れた。4月に中国で再発したが、鶏取引市場が閉鎖され、事態は速やかに制御下におかれた。143例の感染と、45件の死亡が確認された。冬期に向かって再燃しないように注意が払われているが、このウイルスは鶏では発症しないため、完全に制御するのは困難である。また、MERSコロナウイルスの制御もうまくいっておらず、185例の感染と74件の死亡例が報告されている。多くは中東やヨーロッパであった。

■ 遺伝子特許(Gene patents)
7月、最高裁が「天然に存在するヒト遺伝子では特許は取れない」という判決を出した。Myriad Geneticsという診断薬メーカーは、BRCA1とBRCA2という2つの癌関連遺伝子の特許を持っており、それにより乳癌感受性試験キットの特許を保護していたが、先述の最高裁の判決後、複数の企業がBRCA1とBRCA2の診断キットを低価格で発売した。Myriad社はBRCA1/BRCA2の診断キットは特許により守られるべきだとして既に6社に対して訴訟を起こしている。また、Sequenom社は、母体の血液中に存在する胎児由来の染色体を調べることにより、非侵襲的に胎児の染色体異常を検出するサービスを提供しているが、この特許も覆された。その際、Myriad社のBRCA診断法の件が引用された。現在、アメリカの特許審査官は、遺伝子や細胞などの天然に存在する物質に対する特許は以前に比べて却下する傾向が強くなってきているという。

■ HIV研究の進歩(Progress on HIV)
1月には、早期の治療開始により免疫系が正常に保たれること、3月には、抗レトロウイルス薬による治療でHIV感染した乳児が治癒したことが報告された。これにより、WHOは以前よりも早期の治療を推奨している。7月には、2人の男性患者が、幹細胞移植により治癒したとされたが、12月にはウイルスが再度発生した。 HIVの重要なタンパク質の構造が明らかになったことにより、ヒトにおける中和抗体の開発され、この中和抗体に基づいたワクチンによりサルで感染予防ができたという報告がなされた。

■ 幹細胞での成功(Stem-cell success)
10年前に韓国で、クローン化したヒト受精卵から幹細胞を創製したと発表されたが、後に虚偽の研究結果であると明らかになった。今年4月に、実際に別のグループがそれを達成したが、あまり興味はひかなかった。なぜなら、現在ではiPS細胞により同じ目的が達成できると考えられているからである。日本ではiPS細胞由来の網膜細胞のシートを目に移植する計画のもとで目の疾患を持つ患者が募集されている。日本では11月に、iPS細胞や関連する療法の承認を加速するために再生医療法が可決された。

■ アイデンティティのパズル(Identity puzzles)
本来は匿名であるはずの遺伝子データがいかにして公のデータと相互に参照されて、研究参加者の身元へとつながってしまうかが明らかになった。Genome hackerが15世紀にまで遡って1500万人もの家系図を作製した。さらに、DNAの解析はヒトの祖先を明らかにするための手がかりにもなりつつある。2万4千年前の男児の残存物の解析により、ネイティブアメリカンの祖先の3分の1はヨーロッパにルーツがあることがわかった。さらに遡って、ネアンデルタール人とデニソワ人のゲノムを調べたところ、この2つの旧人グループ間、さらには現生人類や、別の古代人類のグループとの間での交配が盛んに行われていたことが明らかとなった。また、1800万年前の化石頭蓋骨の解析によれば、3つの別々の類人グループが実は1つのグループであったらしいこともわかってきている。

http://www.nature.com/news/365-days-2013-in-review-1.14366

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