Nature/Scienceのニュース記事から



第55回(2014年1月14日更新)

論文が査読されて困るのは誰?

オープンアクセスジャーナルの中には、査読システムのクオリティに問題があるものが少なからず存在していることが指摘されはじめている。オープンアクセスジャーナルは、従来のような購読料ではなく、論文の著者から支払われる掲載料を売上の柱とするビジネスモデルを取っているため、掲載論文数を稼ぐために査読が甘くなっているのではないかという懸念がある。今回、オープンアクセスのジャーナルの査読システムのずさんさについて、Science誌が独自に「実験」を行い、その結果が同誌に掲載されている。(Science (2013) 342, 60-65)

記事によれば、Science誌は、架空の研究結果をまとめた論文原稿を作成した。原稿には明らかに科学的に間違いだとわかるような点を含めた。さらに、原稿中のキーワードを微妙に変えて数百パターンの異なる原稿を作成した。これを数百のオープンアクセスジャーナルに送り、反応を観察した。

その結果、8割余りのジャーナルから返答があり、そのうち6割余りのジャーナルが原稿をアクセプトした。(アクセプトされた場合は、その後原稿を取り下げた)また、6割程度のジャーナルが、査読の形跡なしにアクセプト・リジェクトの決定を出していた。査読なしでリジェクトになったジャーナルは、エディターが原稿を査読に回す前に、掲載の価値なしと判断したということなので問題ない。それに対し、査読なしでアクセプトしたジャーナルは、その審査プロセスに疑問ありと言わざるを得ない。

また、オープンアクセスジャーナルは、その所在地をあえて曖昧にしていることが多い。今回の実験で原稿を投稿したジャーナルについて、オフィスやエディター、そして掲載料振込先の銀行の実際の所在地を、メールのヘッダなどからたどった結果、ジャーナルの実質的な所在地として圧倒的に多かったのはインドであった。他に、ナイジェリアも多かった。ナイジェリアは全てのジャーナルがアクセプトであった。ジャーナルのタイトルはEuropean Journal of --- や、American Journal of --- などとなっていても、実際の発行元は途上国であることが多かった。

この 「実験」を行ったのがScience誌であり、オープンアクセスジャーナルとはビジネス上対立する立場であるため、記事の内容に多少攻撃的な要素は見て取れた。しかしながら、オープンアクセスジャーナルの問題点は実際に存在し、その実態を大規模調査で数字として示した点においては、この記事は一読に値する。

http://www.sciencemag.org/content/342/6154/60.summary

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